558話 聖突破魔剣
あっぶなっ!?
俺は再びルル様に半分意識を乗っ取られかけていたようだ。
操作していたスキル【紅枝深淵】の棘の一部が【ランゼルート】によって粉砕されて正気に戻ることが出来たが、あのまま何もなければルル様による意識の塗りつぶしが深刻化していたのは間違いない。
やはり【紅枝深淵】は迂闊に使うものじゃないな。
とは言いつつも、【紅枝深淵】の発動は継続しており、粉砕された部分から【ランゼルート】に脱出されてしまったものの紅に染まった棘が伸長し続けている。
俺の支配下に置き直した紅枝を再操作して【ランゼルート】に向かわせるが、【ランゼルート】はそれを聖剣の一閃で粉砕してしまった。
「無駄だよ!
【正義】の大罪の力で今の僕は深淵の力に対する特効を得ているんだ。
例え君がどれだけ上手く深淵の力を扱おうともこの【正義】には太刀打ちできないよ。
それどころか、【ガルザヴォーク】であってもこの力関係からは逃れられないよ!」
【正義】の大罪っ!!
大罪と言えば、七つの大罪……憤怒、怠惰、傲慢、色欲、嫉妬、強欲、そして暴食が有名だ。
ゲームや漫画などの創作で扱われるのはさっき言った七つの大罪がほとんどだが、それに該当しないものも幾つか存在している。
俺が次元戦争で戦ってきた相手にもそれに該当する大罪の力を使ってくるMVPプレイヤーは居た。
十字架次元では【虚飾】、釣竿次元では【憂鬱】だ。
これらは基本的にネガティブなイメージのある感情が使われているのに対して、その法則から外れるものもある。
それが俺の目の前にいる【ランゼルート】が発動している【正義】の大罪だ。
【正義】は基本的にポジティブな意味合いで使われる言葉だから、大罪と言われるとピンと来ないやつも多いだろう。
だが、それでも【正義】は大罪足り得る要素なんだよな。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、どんなに良いとされるものでも限度を越えてしまうと害あるものと化してしまうということだ。
行き過ぎた優しさは庇護される者に対しての増長を発生させ、行き過ぎた悪への制裁も迫害となる。
今まさに行われようとしている俺への攻撃も、善良な俺が迫害されるってことだからな!
「いや、劣化天子が善良とは口が裂けても言えませんが……
全く、事実無根な証言をするのは止めてください……」
そう言いながら【菜刀天子】は俺と【ランゼルート】の間に割って入り、聖剣による一撃を受け止めた。
あれっ?
なんかさっきまでは【菜刀天子】は【ランゼルート】の攻撃を受け止めるのに精一杯だったはずなのに今はさっきほど切迫してないぞ?
俺は目の前で繰り広げられ始めた剣戟を見て違和感を覚えた。
そうか、【正義】の大罪はあくまでも【ランゼルート】が悪と断じた相手にしか効果を現さないどころか、それ以外の相手に対してはマイナス効果になるのか……
つまり、【正義】の大罪は俺や【ガルザヴォーク】にとっては天敵となる力だが、真っ当な【次元天子】である【菜刀天子】相手には力が上手く発揮できなくなるものだってことだな。
「この期に及んで僕の邪魔をしないでもらおうか!
あくまでも僕は【次元天子】の君ではなく、【ガルザヴォーク】を一転狙いさせてもらうよ!
スキル発動!【必殺名技】!
ああ聖剣よ……わかっているとも!
共に今度こそ竜帝王を滅っさなければな!
早く門を開きにいこう!
そしてもう一度お前の力を見せてくれ!
【聖突破魔剣】っっっ!!!!!」
【ランゼルート】は自らが持つ聖剣に語りかけたあと、スキルによって聖剣から神々しく光輝く聖なる光線を発し始めた。
その光線は俺や【菜刀天子】ではなく、明らかに【ガルザヴォーク】を狙ったものである。
【クハハハ!!!
よかろう、受けてたってやろう!
【覇道逆鱗】!】
それに対して【ガルザヴォーク】は黒炎を全身から噴出して光線と拮抗させはじめた。
光線は黒炎に阻まれて【ガルザヴォーク】に届いていないが……
【ぐっ、馬鹿な!?
この我の【覇道逆鱗】が圧されているっ!?
こんなことがあるはずがないっ、あってはならないのだ!!】
「それがあり得るのが【正義】の大罪の力を行使する正義の体現者である僕さ。
抗うことができない【正義】の名の元に消え去るがいいっ!」
【ぐ、ぐわっっっっあああああっぅうあああああっ!!!!!
許さんぞ【ランゼルート】ぉぉぉぉおぉぉぉおおぉぉ!!!!】
それは一瞬のことだった。
黒炎は光線によって消滅させられ、そのまま【ガルザヴォーク】へと直撃し、【ガルザヴォーク】も黒炎同様に聖なる光線によって浄化されていき光の粒子となって消えていった。
あれだけ圧倒的な力を持ったいたはずの【ガルザヴォーク】の末路としてはあまりにも呆気ないものだったが、これまでに力を消費していたので全力が出せていなかったことも敗因だろう。
それだとしても、あの【聖突破魔剣】とかいう技は【上位権限】を持つレイドボスでさえも消し去ってしまうほどの一撃だということだ。
これ、勝てるのか……?
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