557話 正義の体現者
「スキル発動!【底辺栄転】!」
【ランゼルート】はこれまでの天子としてのスキルでも、カタカナスキルでもない新たな力を使い始めた。
無色透明の光を放ちながら【ランゼルート】は【ガルザヴォーク】へと聖剣を振り下ろした。
【ガルザヴォーク】はその一撃を堅牢な竜鱗に覆われた腕で払い返そうとしたが……
【ぬっ、我が圧されているだとっ!?
以前戦った時にはこのような力は持っていなかったはずだが!】
「【底辺種族】、そして【プレイヤー】や【プレイヤー(β)】はリソースが少ないって言ったけど、それはあくまで初期値でって話さ。
代わりに僕たちには他の種族と違ってそのリソースを増やすことができるんだよ!
それで産み出したのがこのスキル……【底辺栄転】さ!
僕が今まで増やしてきたリソース量に応じて身体能力が向上する……まさに僕のためのスキルと言っても過言じゃないものだ。
……僕が産み出したんだから当然だけどね!
さらに追撃していくよ!はぁぁぁぁっ!」
【ランゼルート】は【次元天子】としての力だけでは圧しきれないと思ったのか、本来の自分の力と思われる【底辺種族】としての特性を活かした戦い方へと転調してきた。
攻撃を受ける【ガルザヴォーク】は荒々しく攻撃を払いのけるが、それで少しずつ傷つき始めている。
これが【底辺種族】の力ってやつか……
前にボマードちゃんに寄生しているジェーライトが【底辺種族】としての特性を褒めていたが、その内容までは教えてくれなかったことがあった。
ちなみに465話のことだから、気になったやつは見てくるといいぞ。
「全く劣化天子は……こんな苛烈な戦場のなかでも意味不明なことを言う余裕があるようですね……
そんなに元気があり余っているようならば、【底辺種族】上がり同士で争ってきなさい」
【菜刀天子】にド突かれたので俺は【ガルザヴォーク】の背中から降りて【ランゼルート】にペグを投擲していく。
こんな小細工が通用するか不明だが、やらないよりはマシだろう。
「こんなもの当たらないよ!」
案の定、【ランゼルート】はペグを聖剣で切り落としてきた。
だが、それは軽率だったな!
スキル発動!芽吹け【紅枝深淵】!
俺はペグにあらかじめ仕込んでおいたイベント報酬の【深度の種】を起点に深淵スキルの中でも俺が禁忌として使用を拒んできた【紅枝深淵】を起動した。
ペグに触れている聖剣を軸に血のように赤黒い棘が伸長していき、聖剣から腕へと範囲を拡大していっている。
我……じゃない!俺の操る深淵の黒い霧がそれを加速させていき、無知滑稽な若造へと制裁を加えるのだ!
これが深淵種族の敵対者と定められた者への末路と知れ!
こやつに世界の堕落の道連れとなってもらおうではないか!
「かなり深淵の力に呑まれているみたいだね……
さっきまではどれだけ深淵の力を行使しても正常な精神だったのに、スキルを起動した瞬間にこうなるなんて余程これは規格外のスキルってことなんだろうね。
実際、動きが止められちゃったし厄介ってことには違いないか」
いくら底辺種族が粋がろうても我の拘束には抗えぬまい。
このまま永劫の眠りへと誘ってやろうかのぅ。
【クハハハ!!!
この濃厚な深淵の気配っ、フェイお前はこのようなことも出来たのだな!】
「なんですかこの陰気臭い空間は……
ここまで濃厚な深淵の力は余程のことがない限り集まりませんよ……?」
心地よい歓声を浴びながら我は下賎なる底辺種族への拘束を強めていく。
忌々しい【次元天子】の力を有していながら我に敵対することがどれだけ愚かなことか身をもって味わわせてやらねば、我の気が済まないからのぅ。
「偉そうに講釈垂れているところ申し訳ないけど、そろそろゲージも溜まってきたしこの拘束も解除させてもらおうかな」
ほう、こやつ我の拘束から逃れると言ったか!
面白い、やって見せよ!
「その余裕、後で後悔しても知らないからね。
……僕は【正義】の体現者!
【ランゼルート】の名の元に【正義】を執行することをここに宣言する!」
【ワールドアナウンス】
【聖剣が義憤に駆られる】
【【ランゼルート】の称号【『sin』正義の目覚め】が強制セットされました】
【【ランゼルート】の称号【『sin』正義の渇望】が強制セットされました】
【【ランゼルート】の称号【『sin』正義の鉄槌】が強制セットされました】
【【ランゼルート】の称号【『sin』正義の寄る辺】が強制セットされました】
【【ランゼルート】の称号【『sin』正義の先導者】が強制セットされました】
【【ランゼルート】の称号【『sin』正義の体現者】が強制セットされました】
【【包丁戦士】の称号に『sin暴食の目覚め』の存在を確認】
【罪は負の連鎖で繋がったり、断ち切られたりする……】
【包丁が血を求める】
【【包丁戦士】の称号【『sin』暴食の目覚め】が強制セットされました】
【【包丁戦士】の称号【『sin』暴食の渇望】が強制セットされました】
【【包丁戦士】の称号【『sin』暴食の飢忌】が強制セットされました】
【大罪域の風が吹き荒れる】
【【ランゼルート】に正義の力が貸与されました】
【【包丁戦士】に暴食の力が貸与されました】
【【包丁戦士】が称号【正義との邂逅】を獲得しました】
【【ランゼルート】が称号【暴食との邂逅】を獲得しました】
【個人アナウンス】
【称号の効果で【Bottom Down】!】
【【包丁戦士】の深度が69になりました】
「ふんっ!!!!
正義の力を宿した聖剣よ自らの意思に従い、邪悪を討ち払え!」
その瞬間、聖剣から膨大なエネルギーが放出され、紅に染まった棘が粉砕されるのと同時に俺はしょうきにもどった!
【Bottom Down-Online Now loading……】