554話 青龍偃月
「スキル発動!【比翼炎禽】!
燃え尽きてしまえ!」
【ランゼルート】は俺の包丁と鍔迫り合いをしながら聖剣に炎を宿させて、そのまま炎の羽による近距離射撃を行ってきた。
ひゅ~、初っぱなから遠慮なしかよ!?
俺は聖剣を受け止めるので全力で、とてもではないがこのままでは炎の羽射撃で即死するだろう。
まあ、この場にいるのが俺だけだったらの話だけどな!
【【ランゼルート】よ、宿敵である我を差し置いてフェイに攻撃するとは妬けるではないか!
悪いが、そやつは我の写し身にとって最も大切な存在である。
故に、そう簡単に危害は加えさせんということだ!
【覇道逆鱗】!】
俺の後ろから炎の羽射撃を打ち落とすように【ガルザヴォーク】が放った黒炎が弾幕を張るかのように飛んできて、互いに相殺し合った。
……辛うじて俺は無傷ですんだが、相殺したときに発生した衝撃で派手に吹っ飛ばされていった。
おっ、うっ、ほっ!
何度か身体を地面に打ちつけることとなったが、最後で体勢を整えてなんとか着地には成功した。
全く……攻撃に遠慮ってものがないな?
「劣化天子は他の次元の深淵種族も手懐けたというのですか、これだから劣化天子は度しがたいですね。
ですがせっかくの好機、この隙に私もやらせてもらいましょうか。
スキル発動!【花上楼閣】!」
攻撃を相殺し合った【ランゼルート】と【ガルザヴォーク】はすぐに動ける体勢でなくなっているのでそれを見た【菜刀天子】がすかさずスキルを放った。
【菜刀天子】が放った【花上楼閣】は俺たち底辺種族上がりのプレイヤーが使うリスポーンポイントの設置ではなく、岩の花弁を生成しそれを弾丸として飛ばすものだ。
「ちょこまかと鬱陶しいスキルを使うよね包丁次元の【次元天子】は!
そんな小手先だけの攻撃は僕には通用しないよ!
スキル発動!【フィーレ】!」
【ランゼルート】はスキルを余裕がないにも関わらず、それを無視して聖剣を振りながらスキルを発動してきた。
そして、そのスキルによって岩の花弁の弾丸を次々と切り裂いていっている。
まるで、魚を切り落とすかのような手際に驚いたが、それ以上に驚いたのは俺が持つ【フィレオ】と同じ切断系カタカナスキルだってことだ。
しかも、語源も同じだ。
【フィレオ】と【フィーレ】は魚の切り身のことで、ただの切り身ではなく骨まで取り除いたモノのことを言う。
それはまるで、全てを切り裂き邪魔なものを取り除くという比喩なのかもしれない。
そう思えるほど鮮やかに岩の花弁を切り落としていっているのだ。
俺が使う【フィレオ】を客観的に見たらあんな感じになっているのかと思うと感慨深い。
……だが、おかしいな?
俺が使う【フィレオ】は使用する時のデメリットとして四肢の1つが切り落ちてしまうという深刻なものがある。
だが、【ランゼルート】が使った【フィーレ】ではデメリットが発動していない……ように見える。
【上位権限】持ちだからか?
それともカタカナスキルには俺の知らない仕組みが隠されているとでも言うのだろうか。
そんな俺の思考をぶったぎるように【ガルザヴォーク】が黒炎を後ろから飛ばしてきているので、俺は一旦【ガルザヴォーク】の背中に戻っていった。
やっぱりここが安心だな!
気分は女竜騎士だ!
「くっ、【ガルザヴォーク】の背に隠れるなんて卑怯な!?」
卑怯も引ったくれもないぞ!
聖剣次元の【ガルザヴォーク】が包丁次元の俺の味方をしてくれているのはお前たち自身のせいだからな。
悔やむなら自身の行動を恨むんだな。
今の俺は虎の威を借る狐……いや、竜の威を借る天子かな。
ともかく、【ガルザヴォーク】の力を信頼して強気の発言をしている。
【ふん、フェイをたおすのであれば先に我を倒すのだな。
もっとも【ランゼルート】……お前に倒されてやるわけにはいかぬがな!】
「深淵種族と手を組むのは気が引けますが、包丁次元のため、そして私の宿願のために今は渋々協力してあげましょう。
スキル発動!【渡月伝心】!」
俺たちの間に割って入った【菜刀天子】が包丁に銀光を集めて、そこから無数の粒子を放出し始めた。
これは【伝播】の力を持つスキルだ。
放出された粒子はそのまま【ランゼルート】へと向かっていき周囲を取り囲むように渦を描いていく。
銀光が辺りに瞬く様は、まるで雪山で輝く太陽に照らされた雪のような光景だ。
そんな光景をぶったぎるのが目の前にいるいけすかない男【ランゼルート】だ。
「この【伝播】のスキルはやっぱり他のものよりも精度がいいみたいだね。
やっぱり一番始めに戻ってきたスキルだからかな?
この世界の管理者は【伝播】を司る配下を優先的に倒させるように誘導していたから、どうせ他の次元でもそうだったんだろうけど……
だからこそ、君がそのスキルを何度も使ってきているからもう見飽きたよ!
スキル発動!【青龍偃月】!」
【ランゼルート】は周囲の銀光に対抗すべく新たなスキルを使ってきた。
そうして現れたのは青龍偃月刀だった。
青龍偃月刀は長い柄の先に湾曲した刃を取り付けたもので、刃は幅広で大きくなっているものだ。
柄の長さは刃の大きさに対してやや短めになっているというのが特徴で、片手で使うことを考慮してこの長さになっているらしい。
【ランゼルート】はその青龍偃月刀を握るのではなく、宙に浮かせて周囲の銀光たちを切り裂いていっている。
銀光による裁断と、青龍偃月刀による斬撃がぶつかり合うと銀光が次々に破裂するかのように消えていっている。
無論、【伝播】の力で編まれた青龍偃月刀も無傷とは行かず刃や柄がボロボロにはなっている。
それでも、無数の銀光粒子を相手にしてそのレベルで済んでいることそのものが脅威であると俺は思った。
「どうしたんだい?
いくら疲弊しているからといって、君たちの力はそんなレベルだったのかな?」
……これは【菜刀天子】が一方的にやられていたのもよくわかるな。
こいつ、いくらなんでも桁違いだろ!?
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