553話 頂上邂逅
俺たちは【ランゼルート】の気配を察知して進んできたが、とうとうその気配の主の場所にたどり着いたようだ。
そこではボロボロの【菜刀天子】とどこか焦っている金髪に赤いメッシュの入った髪で、銀色に輝く鎧を着込んだ青年がいた。
おそらくあいつが【ランゼルート】だろう。
【上位権限】持ちであり、包丁次元のトップとも言える【菜刀天子】にタイマンで優勢に立てるやつだったとは恐れ入ったな。
「気をつけなさい劣化天子……あのプレイヤー【ランゼルート】は私と同じく【次元天子】であり、さらには【上位権限】も持っています。
劣化天子が真っ正面から戦っても勝てる相手ではありませんよ」
【菜刀天子】は出会うなり早々俺に忠告を飛ばしてきた。
たしかに【次元天子】と【上位権限】を持った【ランゼルート】に俺が勝てる見込みは少ないかもしれない。
だが、俺にはこいつがいる!
【クハハハハハ!!!!!【ランゼルート】よ!!!
我はお前を倒すために封印の奥底から蘇ってきたぞ!!!!】
「くっ、やっぱりあのアナウンス通り【ガルザヴォーク】が復活していたのか!
僕が【アイシア】と封印を守っていれば……」
【ランゼルート】は宿敵である【ガルザヴォーク】を見ると、苦悶に満ちた表情をして自身の行動を後悔しているようだった。
しかし、そんな表情を浮かべつつもボロボロになっている【菜刀天子】への攻撃の手を緩めていない。
【ランゼルート】のチュートリアル武器は次元の名前にもなっているように聖剣だった。
その聖剣は黄金に輝き、赤いラインで装飾が施されていて豪華な見た目ではあるものの戦闘にも問題なく使えるタイプのようだ。
もしかすると、儀式用の剣だったんじゃないかという可能性を願っていたが【菜刀天子】の中華包丁を何度も打ち合い押し勝っているところを見るとその可能性は潰えてしまったな。
……つらい。
「それで、【ガルザヴォーク】の背中に乗ってきた君が包丁次元のMVPプレイヤーかな?」
そうだが……
そう言う俺を【ランゼルート】は最大限に警戒している様子を見せてきた。
「あの【アイシア】の【緑王絶対封印】を破るほどのプレイヤーが他の次元にいるとは思っていなかったよ。
【上位権限】付随のスキルは一般的プレイヤーには破れないはずなんだけどどんな抜け道を使ったのやら。
本当に思わぬ誤算だったね……」
まあ、この【ランゼルート】の言うように、あの堅牢な封印は俺や【フランベルジェナイト】そして【ペグ忍者】では決して破れなかっただろう。
中に居たのが深淵の力の使い手で、【上位権限】持ちの【ガルザヴォーク】だったからこそ俺の【堕音深笛】で力を励起させて中から封印を破ってもらえただけだ。
でも、これをわざわざ敵に教えてやる必要はない。
俺が【上位権限】付随のスキルを破った……その事実が【ランゼルート】の俺に対しての警戒心を植えつけられる。
この戦場にはボロボロの【菜刀天子】、いつ消えるか分からない【ガルザヴォーク】、そしてこの中で唯一【上位権限】を持っていない一般的プレイヤーの俺……【包丁戦士】だ。
数の上では俺たち包丁次元陣営が3対1で圧倒的に有利なんだが、それぞれのコンディションが悪すぎる。
ここは相手のコンディションも崩すために煽っておくか!
お前の愛しの(?)【アイシア】は、俺のとこの【ガルザヴォーク】で倒して来たぞ!
最後のじわじわと黒炎で身体の端から炭に変わっていく様子は見物だったな。
あの苦悶の表情といったら……そそるもそそる!あの表情だけで御飯3杯おかわりできそうだった。
あ、俺は料理系生産プレイヤーだからついでに焼かれていく最中にその上で料理しても面白かったりしたかもな!
カツオの藁焼きならぬ、カツオの【アイシア】焼きってか。
さぞ香ばしい香りがしただろうなぁ……苦しそうで悔しそうな感情がいいスパイスになったに違いない!
……とか謎の煽りを延々と続けていると、【ランゼルート】の端整な顔が赤く染まっていき頭にヤカンを置いたら沸騰しそうなほど激昂し始めた。
「よくも!!!!よくも、【アイシア】のことを虚仮にしたね!!!
あの娘はとても優しい娘で、本来戦いを好まないはずなのに僕のためにと勇気を振り搾って戦ってくれていたんだ。
それをわざわざそんな言い方して貶さなくてもいいはずだ!!
ここまで【アイシア】を虚仮にした君は許さないぞ!!!」
君……ああ、自己紹介してなかったな俺は【包丁戦士】だ!
それじゃ、これから短い間だがよろしく頼もうか!
俺はそう言い放って腰に提げた包丁を手で握りしめて、【ランゼルート】が振り下ろしてきた猛スピードの聖剣による一撃を受け止めたのだった。
……おいおい、怒りすぎだろ……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】