552話 深淵フリートーク
【ではフェイよ、次の戦場へと向かうとしようか。
我の最大の宿敵である【ランゼルート】の気配がするのが気になって仕方ない故にな!】
そう大声で言い放った【ガルザヴォーク】の背中にのって快適な移動ライフを俺は送っている。
巨大なドラゴンの背中に乗るっていう経験はゲームの中でも中々体験することが出来ないことなので新鮮な気持ちになれるし、どことなくワクワクしてくる。
そしてしばらくの間ドラゴンの背中の感覚を味わった後、これから俺たちが戦う相手について考えていると一つ【ガルザヴォーク】に聞きたいことがでてきた。
ずっと気になっていたんだが、【ランゼルート】ってどんなやつなんだ?
色々なところで名前を見たり聞いたりしたんだが、宿敵目線からだとどんなやつなのか聞いてみたくなった。
【そうだな……あやつは一言で言い表すのであれば正義の体現者とでもなるか。正義を助け悪を挫く……そのような思考に染まっている厄介なやつであった】
深淵種族である【ガルザヴォーク】や俺……【包丁戦士】は基本的に悪に分類される存在と化してしまっているので、出会ったらすぐに敵認定されそうな感じがするな。
プレイヤーが深淵種族に種族転生するための条件にプレイヤーキルの回数が定められている時点で、深淵種族の扱いは世界の敵のような存在として位置づけられているのは間違いないだろう。
【世界の敵……強ち誤ってはおらぬな。
我ら深淵種族の宿業には皆、他者を【堕とす】ことが刻み込まれているのだ、当然とも言える。
そして、【ランゼルート】はこの【堕とす】という宿業を警戒して我を封印しに来たのだ】
このゲームのNPCたち……というよりはレイドボスたちはそれぞれ生まれ持った宿業に行動を自然と誘導されるらしいからな。
ルル様や【菜刀天子】がよくはなしてくれたのでよく知っている。
【ガルザヴォーク】の宿業は
【封印から解かれし深淵竜帝王は】
【次元を深淵へ誘い】
【聖なるモノを堕とす】
【絶望を見極め】
【生死を流転する】
【封印された邪竜が解き放たれし時】
【聖なるモノたちは立ち上がるだろう】
【しかし、その邪なる力はあまりにも強大であった】
この中の【聖なるモノを堕とす】という部分がさっき話していた内容に合致する。
この聖なるモノっていうのは包丁次元の基準だと【次元天子】である【菜刀天子】のことを指し示すんだろうが、聖剣次元だと何を意味するんだろうか?
【フェイの言うように聖剣次元であっても【次元天子】は聖なるモノに該当する。
だが、今では我を封印した【ランゼルート】や【アイシア】……その他の忌々しいメンバーたちがこれにピッタリと当てはまることとなったのだ。
我を封印したという事実そのものが、封印した者たちを聖なるモノとして認定するに値する……と【山伏権現】が言っておったわ】
ここでゲーム運営プロデューサーの名前が出てくるか。
【上位権限】持ちのレイドボスはゲーム運営プロデューサーの【山伏権現】と言葉を交わすことができ、世界の秘密についてや、ここがそもそもゲームの世界であることなどを告げられていたりするのだ。
これも、ルル様や【菜刀天子】からの受け売りだ。
こうやって他の【上位権限】レイドボスと話していると、俺が今までこのゲームで培ってきた知識が繋がっていっている実感を得られる気がしてきたぞ!
あと、もう1つ聞いておくか。
これは俺の次元の連中に聞いても分からないことだと思うからな。
なんで【ガルザヴォーク】は深淵の力を炎で発現させているんだ?
包丁次元の深淵種族たちだと黒い霧でその力を扱うことが多いが、それと同様に、【ガルザヴォーク】はその力を黒い炎として使っているのが妙に気になった。
アルベーやジェーライト、そしてルル様が力を使った後には必ずと言っていいほど残滓でも黒い霧が残るのに、【ガルザヴォーク】が力を使った後には火の粉が飛び散っている。
この差は一体なんだろう。
【我が予測するに、その次元の種族の長が得意とするものに影響を受けているのであろう。
我は熱い激情を炎として吐き出しているからこそ、絶対的力を発揮できるのだ。
イメージが力となる故に、己に合ったものが力の放出形状に影響されるのだ。
それに対して、フェイの次元の深淵種族の長は我と違って、霧のようにとらえどころのない曲者なのであろう。
霧のように一見すると直接害が無いように見えるものを力の放出形状としているなど、回りくどくて我は好まぬがな!】
霧は炎と違って、一般的には周りを包み込まれても命の危険がないからな。
ただ、その霧に紛れて攻撃するっていうのもありだし、霧そのものの性質を害あるもの……例えば毒霧にするなど絡め手としては充分だ。
直接的、直情的な【ガルザヴォーク】と間接的、理性的なルル様……次元が違えば種族のトップに就く存在の特徴もガラリと変わるんだな。
こうして比較してみると、次元での発展の違いが部分的に分かってきてちょっと面白かったりするな。
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