551話 完全燃焼
ここでダメージを抑えられたので、あとは攻撃を当てるだけ。
そう考えたときに、何処からか熱気が流れてくるのを感じました。
熱気といえば、炎使いの【ラクヨウ】さんがいるかもしれないと思い抜き足差し足忍び足で物陰に隠れながら近寄っていきます。
すると、熱気の元には炎の門が立っていました。
あれ……これはさっき【ラクヨウ】さんがスキルを発動して出現させたものですよね?
「さっきと同じ場所ではないはずなのらけど……
門の場所を移動させたのら?」
意図は不明ですけど、敵の設置物が無防備に置かれているなら破壊しておくのが吉でしょう!
「スキル発動なのら!【想起現像】!」
私はワイヤーを伝って炎門の上からスキルを発動して、赤色の砂をどんどん流していきます。
炎は砂で消せますからね!
砂がかかった場所は次第に炎が弱まっていき、最終的に炎の門はゆっくりと消えていきました。
時間があったからこそ【想起現像】の砂で鎮火できましたけど、さっきまでみたいなハイペースの戦いのなかでこんな悠長なことはできませんでしたから試せてラッキーでした。
「こらこらこら!!!
おい、せっかく建てた門消すなよメンドークセェ!」
あら、私が門を消したことを察知して【ラクヨウ】さんが飛び出してきました。
これは誤算だったかもしれないですね。
ですが、誤算だったのは私だけではないようで……
「なんでそんなにピンピンしてんだよ!
俺のド派手な水蒸気で体力がもう空だと思ってたんだが!」
ふふふ、私が【獣王無尽】のオーラで水蒸気によるダメージを軽減していたので、元気に動けていることを不思議に思っているようですね。
「教えてあげないのらよ~
【ラクヨウ】しゃんももっと頭を使うのら!」
敵に情報を与えるのはご法度です。
私も【検証班】のメンバーですから、情報の大切さはこれでもかと言うほど分かっているつもりですからね!
「しゃらくせぇな!
こうなったら直接その身体にもっとド派手な攻撃をぶちこんでやるぜ!
俺の最強スキル発動!【転火宝刀】!」
【ラクヨウ】さんは意気揚々とスキルを発動して、忍刀に炎を浴びせてその刀身を金属ではなく炎へと変えていきました。
炎は赤くメラメラと燃えていて、まるでルビーのように輝いています。
【フランベルジェナイト】さんのチュートリアル武器のフランベルジェは炎の形をしていましたが炎そのものではなかったのに対して、この忍刀は揺れる炎がそのまま刃となっています。
「俺の一撃をくらえ!ド派手にな!」
【ラクヨウ】さんが忍刀を振るうと同時に回避したので攻撃は当たりませんでしたが、私の後ろにあった木は切られると同時に燃え盛って裂傷を作りながら消し炭になりました。
「この威力っ、たしかに最強スキルと豪語しただけのことはあるのらね~
当たったら痛そうなのら!」
「へっ、痛いで済むかよ!
ほらほら!腋がお留守だぞ!」
「なっっ!??
しまったのら!」
【ラクヨウ】さんは私が回避して体勢が崩れた瞬間を見逃さず炎の忍刀を振るい、私の左腕を切り落として来ました。
肌に触れた瞬間に身体の中から切り刻まれる感覚と、焼け落ちるような感覚が同時に巡ってきて今にも倒れそうです……
これはゲームで再現してはいけない痛覚なのでは!?と思いたくなるくらいきついですね。
そして、片腕を失ってしまったので戦力大ダウンです……
それで思うように動けなくなった私は【ラクヨウ】さんが振るう炎の忍刀によって身体をどんどん焼かれていっていて、水蒸気で失われたものも含めて体力は半分もない……と思います。
正直なところ、ここから逆転できるビジョンは思い描けないですね。
虎獣人は速攻型の種族なので、ここまで持久戦を強いられた時点で不利だったのですがそこからさらに片腕を失ってしまったのが明暗をわけましたね。
これは負けしかない……
「とうとう負けを認めたか!
そのまま、この【転火宝刀】で燃え尽きて元の次元に帰るんだなぁぁぁぁぁぁ!」
……と思っているでしょうね!
「【ペグ忍者】の悪あがきにもうちょっと付き合ってもらうのらよ!
スキル発動!【渦炎炭鳥】なのら!」
「ちょっ、ここで何か仕掛けてくるかよ!?」
私は【燃焼】の力でノーモーション瞬間移動をして、間一髪で【ラクヨウ】さんの攻撃を回避しました。
スキルのデメリットで両足が燃え尽きて今は動けない状態になってしまいましたが、それも織り込み済みです!
「この距離なら外さないのらよ!
スキル発動!【虎月伝心】なのら!」
一か八かで投擲したペグに【伝播】の力が宿しながら私は祈ります。
これが外れたらもう私に打てる手はありません……
周囲を切り裂く粒子を宿したペグの行方は……っ!?
【Bottom Down-Online Now loading……】