550話 水と炎のイリュージョン
「スキル発動!【海水鳥葬】だぜ!」
【ラクヨウ】さんはここにきて新しいスキルをさらに使ってきました。
これまでは熱い炎を纏ったスキルをメインで使ってきていましたが、そこから一転して水を生み出したかと思うとそれを鳥の形状に変化させています。
「炎に比べたら派手さはねぇが、使い勝手は抜群のスキルだぜ!
だが、俺の炎系スキルと組み合わせればド派手になる!
炎と水のイリュージョン魅せてやるか!
混ぜるぜ、スキル発動!【比翼炎禽】」
【スキルミックス!】
【【海水鳥葬】【比翼炎禽】】
【混合発動【水炎翼鳥】】
【修練武器に概念混合されます】
【デメリットとしてクールタイムが増大しました】
「スキルミックスなのらっ!?
そろそろ決めにきたってわけなのらね~?」
「へっ、そういうことだ!」
ここで【ラクヨウ】さんはさらにスキルを重ねてきました。
これは【包丁戦士】さんや【検証班長】さんから聞いていた他の次元で起きる現象……スキルミックス!
包丁次元ではスキルチェインとしてスキルを繋いでいきますが、こちらはチュートリアル武器を媒介にしてスキルの効果を合わせるものだと聞いています。
そうして【ラクヨウ】さんに水鳥と炎鳥が寄ってくると、チュートリアル武器である忍刀に取り込まれていきました。
忍刀には炎と水の翼が描かれた模様が浮かび上がり、水蒸気が発生してきています。
白くモクモクと立ち上る水蒸気に私の視界は奪われていって、攻撃の目安がつけられなくなってしまいました。
派手なことが好きな【ラクヨウ】さんがここにきて忍者らしい戦術を使ってきましたね……
水蒸気は派手ですけど、その派手なモノの中に隠れるという趣味と実益を兼ねた必殺技でしょうか?
私も使えるならこんな感じの技を使ってみたいと思えるほど忍術って感じがしますね!
忍刀から出てきている水蒸気は私たちのいる戦場を覆い尽くしていき、辺りが濃霧に包み込まれたようになりました。
途中途中でペグを投げたりして牽制をしてみましたが、当たった気配がないのであまり意味がなかったかもしれません。
そうしていると、身体に力が入らなくなってきて一瞬フラついてしまいました。
その衝撃で、身体から体力が失われていっていることにはじめて気がつきました。
「この水蒸気は【ペグ忍者】に継続ダメージを与えているのら……?
派手好きな割にはスリップダメージ戦法なんて回りくどいことをしてくるのらよ……」
私もこの状況で迂闊に動けないので相手の出方を見ていましたが、これって時間が経つほど不利になりますよね!?
おそらくですが、【燃焼】の力を水蒸気を介して私の身体の中に侵入させて、そこから体力そのものを燃やし尽くそうとしているのかもしれません。
相手が【燃焼】の使い手ですから、【燃焼】の力を使ってきているという先入観から推測してみました。
【検証班長】さんとずっと行動してきたからか、物事を読み取る力がこのボトムダウンオンラインを始める前よりも鍛えられたような気がしますね!
「このままだと【ペグ忍者】はじり貧で負けちゃうのら……
どうにかしてこの水蒸気を止めるか、それより先に【ラクヨウ】しゃんを倒すしかないのらね!」
とは言っても音もなく隠れている【ラクヨウ】さんを倒すにはなかなか骨が折れそうです。
私は【包丁戦士】さんのように人の気配を敏感に察知するなんて芸当出来ないですからね!
あの人も相当常軌を逸していますからね、地味に便利な技能もそうですがそれ以上に倫理観がズレています。
話してみると案外理性的に考えているように感じられますが、深掘りしてみるとその理性そのものが路線一つ分一般人からズレているのが厄介です。
きちんと話せているようで話せていない……そんな気がします!
……と、思考が逸れてしまいましたね。
とりあえず原理の予測はついたので、対策のいくつかを試してみましょうか!
「やられっぱなしは嫌なのらよ!
スキル発動!【獣王無尽】なのら!」
私は黄色いオーラを全身に纏ってみました。
全身に身体能力向上のバフをかけるスキルですが、今回の目的はそのバフではなく……オーラで身体を覆うことです。
私の身体は今光輝いているので位置はばれてしまいますが問題ありません。
私の身体を覆う光ですが、迫り来る無数の水蒸気の粒を弾き返し私の外皮からスリップダメージを受ける頻度や量が減りました。
これは身体の外で肌に触れていた水蒸気がオーラで中和されていっているということでしょう。
完全にダメージがなくなったわけではなくて、精々半減くらいですけどこれは目論み通りに行って良かったです!
スキルの無駄うちになっていたらちょっっっっっと泣いていたかもしれませんから……
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