548話 黒炎と鎖
「どうやら先程のプレイヤーたちも戻ってきたようですね。
……【ガルザヴォーク】だけでも手を焼いているのに、これ以上ちょっかいを出されるのは困ります」
【アイシア】は深淵の力を纏って戻ってきた俺たちの姿を見るとそんなことを呟いていた。
【アイシア】の心境はおそらくレイドボスモンスターの取り巻きが復活したとかそんなレベルの認識だろう。
古いRPGとかだとボスモンスターが取り巻きを呼び出してきて、地味に手数を増やしたり、系統の違う攻撃やサポートを取り巻きにさせたりしてきて鬱陶しかった記憶があるから今の俺たちはその鬱陶しいやつらということだ。
【上位権限】持ちからすると俺たちプレイヤーは取るに足らない存在だが、【上位権限】持ち同士の対決をしているところにその均衡を揺らがせる存在が現れたのならどれだけ影響力が小さくても見逃せない厄介な存在となる。
つまり、ある意味では俺たちが勝利の鍵になれるということだな。
【フハハ!!!
我の写し身やフェイが新たに加われば鬼に金棒……深淵竜帝王に深淵奈落だな!!!
【アイシア】よ、そろそろ観念する頃ではないか?】
【ガルザヴォーク】は俺たちが来たことによって完全に図に乗っており、【アイシア】に降伏勧告を出している。
だが、【アイシア】の様子からすると……
「いえ、決して諦めません!
再び【ガルザヴォーク】を封印してみせます!」
【いい啖呵だ。
それでこそ一度我を封印した存在と言えよう!
だが、我とて再び封印されてやるわけにはいかぬ!
あの【ランゼルート】に復讐を遂げるまではな!!!】
そう言いきった【ガルザヴォーク】は黒炎を今まで以上に滾らせて放出し始めた。
黒炎が鱗と鱗の間から漏れ出る様子を見て俺は若干怯んだが、一応【ガルザヴォーク】はこの場では味方だ。
そう思い直して【アイシア】へと向き直る。
「何度でも封印して、世界に平穏をもたらします!
【緑王絶対封印】!」
【アイシア】は地面から鎖を生成して一気に弾幕を張るかのように飛ばしてきた。
「フェイちゃん、俺たちも負けてられないよ!
さっきまでみたいにアシスト頼むね!」
了解だ、後輩!
俺は【堕枝深淵】を発動して鎖を絡めとり、そのまま鎖を伝わせて【アイシア】に黒枝を伸ばしていく。
今までは【アイシア】への距離が遠すぎたので鎖を束ねるだけだったが、ここまで距離を詰められたのなら話は別だ。
鎖の束を渦巻くように黒枝で纏める軌道を描き、その軌道を維持したまま【アイシア】へと迫っていく。
「この忌々しい封印の鎖を断ち切らせてもらうよ!
スキル発動!【刃状風竜】!」
【フランベルジェナイト】は風の流れを作り出すスプリンクラーを設置し、斬撃を放つ。
風の流れに乗った【フランベルジェナイト】はレイドボスにも負けず劣らずのスピードで【アイシア】へと接近し、近寄ってくる鎖を黒炎を纏わせたフランベルジェで切り落としていく。
そして、近場にあった鎖も【刃状風竜】の追撃斬撃で牽制されており【フランベルジェナイト】の道を阻むものは次々に地面へ堕ちていく。
「くっ、スキル発動!【緑王樹林】!」
【アイシア】は迫り来る黒枝と【フランベルジェナイト】に対処すべく新たにスキルを使用してきた。
スキルが起動すると地面から樹木が壁になるように生えてきて、黒枝と【フランベルジェナイト】の攻撃から【アイシア】の身を守るようにして立ち塞がった。
「フランベルジェの攻撃が通らないっ!?
黒炎の付与があっても地力の差が埋められていないのか!?」
俺の黒枝は進路を変えて上空へと誘導され、【フランベルジェナイト】のフランベルジェによる攻撃は弾き返されてしまった。
封印のための鎖とは違い、このスキルは防御に重きを置いているらしく【深淵纏縛】をしていても俺たちではそう簡単に突破させてくれないらしい。
「これならば私に攻撃は届きません!
さあ、観念してください!」
【アイシア】は俺たちとの格の違いを見せつけて、これ以上俺たちの介入を止めさせようとしてきたのだろう。
だが、その判断は間違ったものだったと言わざるを得ない。
少なくともこの場ではな!
【ふん、我から意識を外しおったな?】
「はっ!?」
【アイシア】が【ガルザヴォーク】から意識を逸らした一瞬で鎖と黒炎のバランスが崩れ、鎖が黒炎に呑み込まれていき【アイシア】もろとも焼かれていっている。
「こんなところで……っ!?
こうなったら本体は無理でもせめて、プレイヤーだけでも倒させてもらいましょうかっ!
スキル発動!【緑王枯草】!」
黒炎に包まれ今にも消えそうな【アイシア】が土壇場で使ってきたスキルによって生み出された枯草が俺たちに向かってきている。
まず【フランベルジェナイト】に触れたが、枯草に触れたところから身体が朽ち果てていっている。
【フランベルジェナイト】はまず腕をやられてしまったため、剣を握ることが出来なくなり地面にフランベルジェを落としてしまった。
このまま行くと【フランベルジェナイト】を朽ち果てさせたあとには俺の方に向かってくるのは間違いない。
俺も覚悟しないといけないか……
そんなことを思っていると枯草の中から【フランベルジェナイト】の勇ましい声が響いてきた。
「フェイちゃんまで攻撃は通させない!!
この身に変えて攻撃は止めさせてもらうよ!
スキル発動!【魚尾砲撃】!」
枯草の中にエネルギーが蓄積されていき、それが溢れ出るように爆発し枯草もろとも光の粒子となって消え去っていった。
「私もこれまでですか……
1人葬っただけで終わってしまいましたが、後はあの人に任せましょう……
これで勝ったと思わないでくださいね……」
それと同時に【アイシア】も黒炎によって身体が焼き尽くされてこの戦場から姿を消していった。
なんとか、この場を乗り切れたってことか。
俺は息の詰まる戦闘が一旦終わってホッとして力が抜けて、腰を地面に下ろしたのだった……
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