547話 二重の刃
「スキル発動!【刃状風竜】!
……!?発音は同じなのにスキルが変わったねっ!?」
【フランベルジェナイト】が得意とする風の流れを作る【波状風流】を発動し風のスプリンクラーを設置しようとしたところ、スキルの名称が変化していた。
これは【渡月伝心】が【虎月伝心】や【兎月伝心】に派生するようなものだろう。
レイドボスの【オメガンド】がこの派生系を使っていたから、驚きはしたものの、納得がいく。
【フランベルジェナイト】が設置したスプリンクラーのようなものからは今まで通りに風の流れが出来ているが、それと同時に不可視の風の刃が飛んでいっている。
「これは……俺のフランベルジェの動きに連動して発生しているみたいだね。
土壇場での新しい力だけど、フェイちゃんを守る力になるなら何だって使わせてもらうよ!」
漆黒の竜の鎧を纏ったイケメンにここまで思われていると流石に照れるが、実際にこいつが惚れているのは深淵の力によって生み出された【フェイ】の方だ。
あいつもそこまで思われていたら本望だろう。
【フランベルジェナイト】は剣を振るいさっきまで切ることすら困難だった鎖を糸でも切るかのようにスパスパと切り捌いていっている。
剣には黒炎が宿っていて、鎖の断面にも黒炎がちらついていることから【刃状風竜】というよりは【Л細胞】を励起した影響だろう。
そして、【刃状風竜】による半自動不可視の刃にもどうやら黒炎の影響があるようで、【フランベルジェナイト】が切った鎖から少し離れたところにある鎖も同じような断面で切り落とされていた。
断面にちらついている黒炎は巨大な竜の【ガルザヴォーク】ほど派手ではないが、次第に広がっていっている……侵食……深淵種族の力的に言うなら、【侵略】それと【阻害】の力を感じるな。
鎖の耐久力を低下させる【阻害】の黒炎と、その黒炎を広げる【侵略】の力が同時に働いているわけだ。
2つの異なる力を同時に制御するのはかなり困難で、包丁次元で完全に出来たプレイヤーはいない。
俺でもかなり厳しいから、元深淵種族の【フランベルジェナイト】だからこその芸当だな。
「この力があればフェイちゃんを守ることもできそうだね。
さあ、どんどん鎖を切らせてもらおうか!」
【フランベルジェナイト】が水を得た魚のように鎖に対処していっている。
こうなったら俺も負けていられないな!
俺はルル様の細胞を励起させて黒枝を生み出し、鎖の進行を遅めている。
【フランベルジェナイト】のように直接切り落とすのではなく、黒枝が絡めとり纏めてこちらに来れないように押し止めている。
こうしておくと……
「フェイちゃんの支援はやっぱりいつも的確だね!
これは凄くやりやすい!」
こちらの行動に気づいた【フランベルジェナイト】が黒炎を伴ったフランベルジェで俺が纏めた鎖の束を一閃して、地面に切り落としていった。
一本一本切り落とすよりもこうやって纏めてやった方が早いし、斬撃の回数も減るからスタミナ消費も抑えられる。
一石二鳥ってわけだ。
俺が束ね、【フランベルジェナイト】が切る。
俺が裏方に回るっていうのは癪だが、後輩に華を持たせてやるのも先輩の役目だ。
そう考えれば、この扱いの難しいルル様の力を制御し続けるのもやぶさかではない。
「はああああぁっっ!!
スキル発動!【刃状風竜】!」
【フランベルジェナイト】が設置していた風の流れを作り出すスプリンクラーが鎖の波によって破壊されてしまったようで、再度生成している。
本来ならばスキルの発動にクールタイムが発生しているはずなのだが、【深淵纏縛】の影響かスキルが派生した影響かで再使用に制限がかかっていないようだ。
そして、再設置されたスプリンクラーから黒炎を伴った不可視の斬撃が飛び出し鎖を新たに切り裂いていっている。
俺と【フランベルジェナイト】はこれを繰り返して鎖を押し返し続け、前進していっている。
【深淵纏縛】まで使ったんだ、ここで敗走していてはルル様に申し訳ないからな。
歩みを止めずに鎖を生成し続けている元凶である【アイシア】の元へと進んでいく。
「【アイシア】ぁぁぁ!!!
フェイちゃんを害しようとするお前を許さないぃぃぃ!!」
【聖剣次元】の【ガルザヴォーク】と記憶を一部共有したことから、【聖剣次元】のプレイヤーである【アイシア】に対して並々ならぬ怒りをぶつけながら鎖を切り落とす【フランベルジェナイト】の表情は鬼気としたものだ。
【聖剣次元】の【ガルザヴォーク】は【アイシア】によってしばらく封印されていたようだからな。
それプラス【フェイ】……というか俺に危害が加わりそうで焦っているのもあるかもしれない。
もしそうなら焦りは禁物だぞ【フランベルジェナイト】!
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