545話 策戦会議
そうなってくると、【フランベルジェナイト】が邪悪竜人に種族転生したのも偶然じゃないように思えてきた。
【ガルザヴォーク】も竜だし、それに類似する邪悪竜人になったのは偶然だったら奇跡だろう。
ただの竜人じゃなくて、邪悪とついているのもキナ臭い。
ごく普通の竜人は、聖獣である【オメガンド】の試練を乗り越えて種族転生が可能になった種族だ。
そこから一段階変質しているという時点で、明らかなターニングポイントがあったはずだ。
俺が天子から深淵天子に変質したのは俺が望んでそうなった……という面もあるからな。(多少の想定外はあったけど)
「本来の俺の性質に自然と寄っていったのかもしれないけど、元々フェイちゃんがおすすめした種族だよ?
例え別の種族でも喜んで種族転生したさ!」
あっ、そういえば【フランベルジェナイト】を邪悪竜人に誘導したのは俺の分身みたいなやつ……【フェイ】だったな。
【フェイ】は深淵の力の塊のような存在だから、プレイヤーとしての身体を手に入れた【フランベルジェナイト】以上に【ガルザヴォーク】の深淵の力に影響されていた可能性はあるな。
知らず知らず思考を誘導されていたのだろう。
俺もたまによく分からない思考に導かれそうになるが、ルル様やジェーライトなどの影響を受けているのだろうか……今更ながら少し心配になってきた。
目の前にそういう存在がいる以上、あまり楽観視できない問題だからな……
【フランベルジェナイト】以外にもボマードちゃんや【トランポリン守兵】……そして俺も深淵種族に人格が乗っ取られかけた経験がある。
深淵種族は陰湿な種族として他の種族に疎まれている以上、直接的ではなく間接的な迂遠な手法を用いるのはおかしい話ではない。
深淵種族として戦いを継続するのが難しいとなれば肉体を変えて宿敵との相性をリセットするという、回りくどい方法での攻略に出たのだろう。
ジェーライトの聖獣への寄生やアルベーの聖獣を吸収するという行動もそれに基づいたものかもしれない。
そして、包丁次元の【ガルザヴォーク】は滅び行く身体を切り捨てて、新たな種族での身体に期待を寄せたのだろう。
……相性がましになっても底辺種族というスペックの低い種族ではうまく行かなかったようだが。
「たしかに底辺種族ではスペックが足りなかったね。
配下のレイドボス相手に苦戦を強いられるようでは論外さ。
でも、それ以上にこの【プレイヤー】の特権は、ある意味では【上位権限】を越える価値があるよ。
一度底辺種族を介してでも手に入れただけの価値はある性能だ」
【プレイヤー】の特権……?
そんなものがあるのか……?
って危ないなっ!?
俺は会話を中断して、いつの間にか迫ってきていた鎖の波を包丁で地面に叩きつけていく。
切り刻むことが出来るほどこの鎖は柔じゃないらしく、流石は【上位権限】を使って生み出しているだけの強度はあるな。
……ただ、この鎖の操り手である【アイシア】は意識のほとんどを目の前にいる巨大な竜の姿の【ガルザヴォーク】に向けているので俺たちに向かってきている鎖の操作はかなり甘い。
物量攻撃のついでに俺たちを巻き込んでやろう……くらいの認識か?
変に身構えられるよりは対処しやすいからいいんだが、いつでも俺たちをヤれると思われているようで癪だな。
事実だけど。
「この鎖の物量攻撃をどうにかしないとフェイちゃん諸共死んでしまうね……
何か策は……?」
策か……
鎖を切り裂くだけなら【フィレオ】とか、一時的に吹き飛ばすなら【天元顕現権限】からの【渦炎炭鳥】や【渡月伝心】とかだろうか。
でも、それらはあくまでも一時凌ぎにしかならない。
出来たとしても逃げ延びることだけだ。
そんなことをしてもこの次元戦争の勝利には繋がらない。
今、【ガルザヴォーク】の方が優勢だがここが次元戦争の舞台……特殊な【特異次元】だからいつ消えるのか分からない。
前に【菜刀天子】が次元戦争の舞台では普段の次元よりも制約が多いと言っていたからな。
頼りきっていると【ウプシロン】戦のルル様のように途中でいなくなった後の事が怖い。
あの時は戦闘中に打開策を見つけたからこそ最後に活かせたわけだからな。
今回も今のうちに何か策を練らねば……
「そういえば、ワールドアナウンスで【【特異次元封印の森ダンサムント】に深淵の力が流入しました】って流れてきたよね。
今ならいつもより深淵の力を上手く使えるか……!?」
深淵の力の流入……たしかにいつもより濃い力の流れを感じるが……
これは【深淵奈落】に近いかもしれない。
しかも、浅層ルルインや中層ルルナティックにより近いほど濃厚な味わいだ。
つまり、あれができるってことだ!
いくぞ!
スキル発動!
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