543話 団体戦向け
「なんだなんだ?
色々と変なアナウンスが流れてきたな?」
「次元戦争ってこんなものなのら?
【ペグ忍者】は初参戦だからよくわからないのら~」
敵ですけど、せっかく攻撃の手を止めてくれているので【ラクヨウ】さんに今起きていることについて聞いてみようとしました。
口が軽ければ何かポロリと話してくれる……と期待してですね!
「そんなわけあるかよ!
こんな派手な次元戦争って滅多にねぇからな?
前に一回だけあった炎の屋敷を攻略するやつはこれに近かったが……」
炎の屋敷……【検証班長】さんから聞いたことがありますね。
レイドボスが何体も出てきたものらしいですが、【検証班長】さんの大活躍でそれほど苦なく途中まで攻略できたらしいです。
……とりあえず、目の前にいる【ラクヨウ】さんはあまり情報を握ってなさそうなので、これ以上探りを入れるのはムダでしょうね。
「分からないなら【ラクヨウ】しゃんに用は無いのら~
それっ!」
私は指の間に挟んでいたペグに【虎月伝心】によって発生させ続けている【伝播】の力を載せて、五本同時に投擲して【ラクヨウ】さんの頭を串刺しにしようとしました。
【伝播】の力を伴ったペグは飛んでいる最中にもそれぞれで共鳴反応を起こして、高速振動で周囲のものを切り刻みながら進むという凶悪仕様です!
「はっ、たしかに【伝播】の力の使い方は一級品みたいだが、俺の【燃焼】の力の方が派手だぜ!」
そう言いながら【ラクヨウ】さんは炎の翼をはためかせて移動し、炎を纏わせた忍刀でペグを打ち落としました。
ペグと忍刀がぶつかり合った瞬間に忍刀に宿っていた炎が一瞬にして消えたようですが、ペグに載せていた【伝播】の力と対消滅したからだと思います。
「これでがら空きだ!
絶好のチャンス、掴ませてもらうぜ!
スキル発動!【鳥門炎峡】!」
【ラクヨウ】さんが発動したスキルによって、炎翼が密集して作られたかのような巨大な門が現れました。
ここからでも感じる凄い熱量で、近寄ることを躊躇ってしまうほどです!
これが【鳥獣人】の固有スキルの1つなのでしょう。
包丁次元で【鳥獣人】に種族転生したプレイヤーの話は聞いたことがないので、【検証班】のスキル情報担当者としてもここからは目が離せないです!
役得ですね。
そんなことを考えながら炎翼が密集して作られたかのような巨大な門を観察していると、その門の中央に飛びながら立っている【ラクヨウ】さんが【比翼炎禽】で翼による射撃を行ってきました。
これは何度も見ているので落ち着いて対処すればかわせる……
そう思っていましたが。
「にゃにゃんと!?
スピードも威力もさっきまでと桁違いなのらよ!?」
弾丸のような勢いで飛んできた翼による射撃で私の脇腹を一部えぐりとっていきました。
虎獣人の固有能力の加速機能を使ってギリギリ致命傷は避けましたが、それでもこの威力……侮れませんねっ!
「でも、【ペグ忍者】も負けないのらよ~
スキル発動!【獣王無尽】なのら!」
私は新たにスキルを発動させて、全身から黄色いオーラを放ちはじめました。
これは身体能力アップのバフをかけられる貴重なスキルです。
猫獣人系に種族転生すれば使えるようになるのですが、便利ですよ!
……デメリットはないですけど、力をあらかじめストックしておかないと使えないスキルなので使いどころは実は難しかったりするんですけどね。
そして、そのオーラを纏ったままペグを鉤爪のように五本の指の間に挟んで突撃を仕掛けます!
「おっ、派手でいいな!
せっかくの次元戦争だ、そう来なくちゃ面白くねぇよなぁ!」
私が突撃を仕掛けているのに対して、【ラクヨウ】さんはスキルで生み出した門から少しも動かないで私を迎撃しようとしています。
……どうやらあの【鳥門炎峡】というスキルで生み出した門はステータスアップの能力があるようですが、あそこから動かないということはステータスアップの恩恵を受けられるのはあの門の周辺だけということでしょう。
私の【獣王無尽】と比べると使い勝手が悪そうに思えますが、オブジェクト設置型のスキルということは本人だけじゃなくて、他のプレイヤーも恩恵を受けられる仕様なのだと推測しました!
私の【獣王無尽】は私個人しか強化されませんから、種族として個人戦しか向きませんが【ラクヨウ】さんは団体戦向きの種族なのでしょう。
……だから隠密や裏方の仕事をメインで任されていたのかもしれませんね。
生きていれば味方にバフをバラ撒けるのなら、無茶させて勝手に死なれるよりも命からがら逃げて生存した方がチームとしての勝率が上がります。
……もっとも、この【ラクヨウ】さんの性格からしてそんなことはしなさそうですけど!
派手に目立ちたいという性格とチームとしての戦略が地味に噛み合ってないです。
それでも勝ててきているということは、実力も伴っているからでしょうね。
ただ、作戦の立案者は御愁傷様です……
【検証班長】さんだったら困惑していたと思います。
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