541話 深淵竜帝王
【アイシア】による緑と黄金の入り交じった鎖が俺の演奏と黒い霧を止めるべく二股に分かれながら飛翔してきた。
なんだかよく分からないが【上位権限】によって補強されたからか、迫り来る鎖に対して身の危険を全身が知らせてきている。
ここは躱すのが本来ならセオリーなのだが……
「何度も言っているように、フェイちゃんは何があっても俺が守る!
たとえこの身が滅びようとも!」
【フランベルジェナイト】が再度俺の前に立ち塞がって、鎖を切り落とそうとした。
「申し訳ありませんが、今の私は手加減が出来ません。
そこで大人しく寝転がっていてください」
「ぐっ!?
何っ!?」
【フランベルジェナイト】は切り落とそうとした鎖に反発されて、手に持っていたフランベルジェを伝ってきた鎖によって全身を緊縛されてしまったようだ。
さっきまで何度も飛ばしてきていた鎖とは強度も操作性の自由度も格段に上ってことか。
あの天性の戦闘センスを持つ【フランベルジェナイト】でさえ手篭めにされるほどの鎖に対して俺は無防備に演奏している状態だ。
はやく……封印が解けてくれたらいいんだがっ!
いや、こうなれば封印の解除を諦めるっていうのも手だよな。
そもそも、何の役に立つのか不明な封印を命懸けで解除するっていうのもおかしな話だ。
俺は次元戦争の勝利を優先するべきなんだ。
そう思い演奏する深淵フルートから手を離そうとしたときにチラリと【フランベルジェナイト】と視線があった。
その熱い瞳は俺を一直線で捉えており、俺が封印を解除すると心から信じていることが伝わってくる。
……純情というか、単純と言うか……
「もう一度いきます!
スキル発動!【緑王絶対封印】!」
【アイシア】によって、先ほど放たれた二色の鎖が俺に向かって飛んできた。
俺を信頼してくれている【フランベルジェナイト】のためにも、合理的じゃないが最後まで付き合ってやろう。
俺が封印されるか、俺が封印を解除するのかどちらが先か!
勝負だ!
俺は封印が解けそうな感覚を掴み、それを早急にこじ開けるように枝を伸ばしていく。
【アイシア】は確実に俺を捕らえるように鎖を伸ばしながらも、それを太くしていき文字通り絶対封印を施そうとしている。
そして、その意地がぶつかり合う瞬間っ!!
「ぐおおおおおおおおおお!!!!!
フェイちゃぁあぁあぁあん!!!!」
スキルによって封印され移動することすら困難になっていた【フランベルジェナイト】が封印されたまま突っ込んできた。
まるで全身で飛んできたかのような姿勢で鎖に再度捕らえられて、二重に封印されてしまった。
……飛んできた方を見るとスプリンクラーのようなものが設置されており、おそらくスキル【波状風流】によって風の流れを発生させて身体を浮かし、動かせなくても移動できるように風の流れを操作したってことだろう。
「そんなっ!?
これでは……」
サンキュー【フランベルジェナイト】!
これで……封印解除だ!
【ワールドアナウンス】
【【特異次元封印の森ダンサムント】に施された封印が解除されました】
【【深淵域の竜帝王】の顕現】
【【特異次元封印の森ダンサムント】に深淵の力が流入しました】
【【精霊森林の緑女王】が封印に使用していた力が持ち主に還元されます】
【【聖剣】の特殊攻撃権限が起動しました】
【Raid Battle!】
【深淵域の竜帝王】
【エルラシア=ガルザヴォーク】
【深淵竜王】【上位権限】【エンペラー】
【封印から解かれし深淵竜帝王は】
【次元を深淵へ誘い】
【聖なるモノを堕とす】
【絶望を見極め】
【生死を流転する】
【封印された邪竜が解き放たれし時】
【聖なるモノたちは立ち上がるだろう】
【しかし、その邪なる力はあまりにも強大であった】
【レイドバトルを開始します】
【個人アナウンス】
【深淵種族への貢献ボーナスにより【Л細胞】を獲得しました】
【【包丁戦士】が称号【深淵の逆鱗】を獲得しました】
【称号の効果で【Bottom Down】!】
【【包丁戦士】の深度が68になりました】
【竜人系スキルが一部使用解禁されました】
【……よくやってくれたフェイ】
「あぁ……なんということでしょう……
世界に闇が訪れてしまいます……」
「そんなっ!?
【深淵域の竜帝王】……【ガルザヴォーク】が今このタイミングで復活するなんて……」
どうやら今のアナウンス……劣化天子が何か、しでかしたようですね?
私の次元では聞き覚えのない名前ですが、深淵の名前を冠していることから目の前の【次元天子】の宿敵なのでしょう。
何故この次元戦争のフィールドに現れたのかは分かりませんが、相手が動揺している以上利用させてもらいますか。
「くっ、僕はこれから封印のところへ行かないといけなくなった!
悪いけど、君の相手をしている場合じゃないみたいだからねっ!」
そう言いながら聖剣から光を……【伝播】の力を放ち私に飛ばしてきますが、私がそう易々とここから通すとでも思っているのでしょうか。
「当然ですが、私にとって好機でしかないこの状況……通しませんよ!」
「【アイシア】のことが心配だ、今すぐ向かわなくてはならないのにっ!」
この聖剣による攻撃は悔しいですが私の攻撃よりも性能が高いようです。
先ほどから何度もスキルをぶつけ合い、純粋な斬撃のぶつけ合いも行いましたが次元として積み重ねてきた物の重さの違いが直に出ているようです。
流石は一位を独走してきた次元ということでしょうか……
ですが、AIとしての意地があります。
こんなところで負けるつもりはありません。
【Bottom Down-Online Now loading……】