538話 伝播と燃焼
「派手にいこうぜ、派手に!!」
「Ninjaは黙っているのらよ!
真の忍者は地味に仕事をこなすものなのら~」
別に忍者は派手なものじゃないですからね。
私も諜報活動のようなものを【検証班長】でやっているので、見た目は少し明るめですけど活動自体は忍者本来の姿に近いでしょう。
それに対して、この【ラクヨウ】さんは派手という一言で言い表せるほど、服装も言動も、行動も派手ですからね。
「うっせーわ!
地味なのは性に合わねーんだよ!」
「それならなんでNinja……いや、忍者やってるのか疑問なのらよ……」
理由は気になりますよね。
わざわざその服装をしているからには何か特別な理由でもあるのでしょう。
「そりゃ格好いいからに決まってんだろ!
男のロマンってやつだ!」
そう思っていましたが、言葉でガクっときました。
特に理由はない……というものですね?
【ラクヨウ】さんは【比翼炎禽】による炎の羽射撃で私を狙ってくるのに対して、私は【虎月伝心】の斬撃を伴った光の粒子で迎撃しています。
次々に飛んでくる炎の羽射撃は私を追撃するように追いかけてきていて、ただ単純に避けるだけだとかわしきれません。
なので、【虎月伝心】で近くに迫ってきている炎の羽射撃から切り落として追尾されないようにしています。
「おっ、なかなかやるじゃん!
お前も結構派手なスキル使ってくるんだな。
これは倒すのがメンドクセーことになってきたぜ」
とりあえず、炎の羽射撃は続いていますがそれ以上の戦闘展開が無さそうなので、対処しつつ今ある情報を纏めましょうか。
こんなアバターですけど、私【ペグ忍者】は【検証班】のメンバーですからそういうの得意なんですよ!
【ラクヨウ】さんの今の姿は炎の翼が生えた状態で、使ってきたスキルは【聖獣毛皮ξ】……つまり包丁次元にもいた朱雀レイドボス【クシーリア=ドーヂィ】の力を持っているということです。
そして、次に使ってきたスキル【比翼炎禽】は……おそらくレイドボス討伐で手に入れた汎用スキルの上位互換……しかも【燃焼】の力を有したスキルでしょうね。
私が【伝播】の力を有したスキル【渡月伝心】の上位スキルの【虎月伝心】を使うように、この【ラクヨウ】さんも聖剣次元の汎用スキルの上位互換を使ってきているのは前例から推測できます。
【伝播】の力と【燃焼】の力、相性は悪くないと思うのであとは実力次第ですね。
「おらっ!
もう一回スキル発動!【比翼炎禽】!
炎の羽で派手に焼き貫かれろ!」
「にゃにゃにゃっ!
それは嫌なのらよ~」
俺が考えた封印を解除する方法、それは深淵の力だ!
ここの封印自体は聖なる力を宿しているが、封印されているものは邪悪な力を感じるからな。
直接俺たちが封印を解くのではなく、封印されている邪悪な力に深淵の力で働きかけて自力で封印を打ち破ってもらうという寸法だ。
「なるほど、フェイちゃんの発想は面白いね!
さっそくやってみようか」
【は、はい!
(今回、直接もう一人の私の発言に反応してましたね……)】
珍しく【フェイ】経由じゃなくて俺に返答したな?
たまにあるけど、どんな基準でそうなるのかは俺もよく分かっていない。
「それで、【深淵纏縛】、【阻鴉邪眼】、【魚尾砲撃】、【堕音深笛】のどれを試そうか」
それはデメリットのことを考えるなら【堕音深笛】だろうな。
他は右半身が動かなくなったり、全身が炸裂したり、恒久的なステータスダウンをくらったりするデメリットがあるから試すなら特定の味方を即死させてしまう以外のデメリットがない【堕音深笛】だ。
今回いる味方は【ペグ忍者】以外【堕音深笛】に耐性があるから使っても巻き込まれることもないだろうから、その辺に気を配る必要がない。
というわけで俺と【フランベルジェナイト】、そして【フェイ】はそれぞれ持参した笛を手に取り、吹こうとした。
しかし、その時森の奥に人の気配を感じた。
俺はプレイヤーキラーだからな、人の気配には人一倍敏感なんだ。
「……十中八九敵陣営のプレイヤーだろうね。
俺がフェイちゃんを守るから、フェイちゃんはそのまま【堕音深笛】で封印の解除を試してみてくれないかな?
最悪封印に何もなさそうだったらそのまま【堕音深笛】のバフを俺に回してくれたらいいから」
どうやら【フランベルジェナイト】も気づいていたようだな。
正直ここで無理して封印の解除をしなくてもいいんだが、【フランベルジェナイト】がやけに気にしているからな。
この場所は次元戦争でしか来れないし、なにもしないで負けて送還されたら後悔が残るだろうし、俺のクランの後輩プレイヤーのために人肌脱いでやろうか。
【フランベルジェナイト】が敵と戦うなら、俺が封印の解除を担当することになる。
せめて演奏に集中する前に敵の姿だけは俺も見ておこう。
そうして少し待つと相手もバレていることに気がついたのか、茂みから姿を現した。
現れたのは薄緑色のヴェールをかけた色白の肌、薄黄色の髪、スラッと伸びた体型の女だった。
服も軽い服装で前衛プレイヤーでは無さそうで、薄緑色のローブに黄色の模様が施されているものだ。
そして、手に握られているのは長い杖だ。
杖の先に緑色の宝石がはめ込まれており、そこを中心にしっかりとした装飾が施されていることから、ステッキというよりは、魔術を使うためのものに見える。
「はじめまして、包丁次元のみなさん。
私は【アイシア】と申します。
以後お見知りおきを……」
ふーん……
これで二人目ですか……
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