526話 自爆地帯
「それでまずは何から試すんだろうか。
俺が出来ることはそんなにないけど」
【フランベルジェナイト】はそう言っているが、たしかにこいつは実力は一級品だが場面場面で切ることができる手札が少ない。
だが、ポイントでの珍しいスキルは何個か持っているはずだ。
「拙僧も同じであるな!
【堕音深笛】以外は全員に解放されているスキルしか使えないのである!」
【フランベルジェナイト】のことを考えていたが、【尺八僧侶】はもっと手札が少なかったようだ。
まあ、他のモブプレイヤーたちは全員に解放されているレイドボス産のスキルしか持っていないから、1つでも珍しいスキルを持っているだけましだろう。
「ふひひっ、あてぃしも同じくですぅぅ……
abilityは持ってますけどぉぉ……」
【骨笛ネクロマンサー】はスキル構成はほぼ他のやつらと同じだが、abilityによって異質な役割を持っているプレイヤーだからな。
「みなさんはそれでいいですよ。
【フランベルジェナイト】さんは【深淵纏縛】や【竜鱗図冊】を使えますし、それに邪悪竜人に種族転生していますから。
自分で言っているほど卑下する必要はないだろうね。
というわけで、まずは【フランベルジェナイト】さんから試してみてください」
「よしっ、フェイちゃん見ていてくれ!
スキル発動!【堕音深笛】!」
【フランベルジェナイト】は漆黒に塗りつぶされたような色のオーボエを取り出し演奏しはじめた。
【フランベルジェナイト】がオーボエのリードに口をつけて吹いていくと、優美なメロディーが響き渡り始めた。
オーボエはフランス語で「高い音のなる木」という意味を持つものであり、包容力のある優美なメロディーがホールに響き渡るというのが特徴だからな、素晴らしい音色なのも頷ける。
そして息継ぎのタイミングでスキルの発動を宣言した。
「スキル発動!【竜鱗図冊】!
……発動しないか」
【竜鱗図冊】はスキルチェインを発動させず、通常起動したようだ。
「それなら……スキル発動!【渡月伝心】!【花上楼閣】!【渦炎炭鳥】!【波状風流】!【阻鴉邪眼】!【深淵纏縛】!【想起現像】!」
どんどんスキルを発動させていくがスキルは不発か通常発動を繰り返していき、【フランベルジェナイト】が高速移動したり浮いたり、忙しなく場面が移り変わっていったがスキルチェインは発動しなかった。
「……フェイちゃん、俺の最期を看取ってくれ!
スキル発動!【魚尾砲撃】!」
【め、目を逸らさずに見届けます……】
【フランベルジェナイト】は持っていた最後のスキルである【魚尾砲撃】によってエネルギーを蓄積し、それを暴発させて木っ端微塵となり死に戻りしていった……
「……どうやらスキルチェインは発生しなかったようだね。
貴重な種族転生者だから期待していたけれど残念です。
それでは次、【尺八僧侶】さんお願いします」
「やるだけやってみるのである!」
次に白羽の矢が立ったのは【尺八僧侶】だ。
ちなみに俺個人としてはあまり期待していない。
何故ならこいつは【堕音深笛】を持っているだけで他に特徴は無いからな。
種族転生をしていたり、深淵の力の一端を所有している【フランベルジェナイト】が無理だったんだし。
「いくのである!
スキル発動!【堕音深笛】!」
【尺八僧侶】は尺八を手に取り、口に咥えるとメロディーを奏ではじめた。
質実剛健という言葉が合いそうな荘厳な演奏に、俺たちはつい緊張して固まってしまった。
「さらにいくのである!
スキル発動!【渦炎炭鳥】!【渡月伝心】!【花上楼閣】!【波状風流】!【想起現像】!【阻鴉邪眼】!」
【尺八僧侶】も【フランベルジェナイト】と同様にスキルを紡いでいく。
ちなみにスキルを発動させる順番は【検証班長】が指定して若干変化させているようだった。
だが……
「うーん、発動しませんね……」
「では最期に華々しく散るとしようではないか!
スキル発動!【魚尾砲撃】!」
これ以上スキルを発動させるものが無くなった【尺八僧侶】は最後の検証ために【魚尾砲撃】で散っていった。
やはりこのゲーム、プレイヤーの命の価値が低すぎて泣けてくるな……
「さて、次は【骨笛ネクロマンサー】さんです。
ではどうぞ!」
「ふひひっ、やりますよぉぉ……
スキル発動ぅぅ、【堕音深笛】ぃぃ!」
【骨笛ネクロマンサー】が奏でる暗いメロディーがダンジョン内に響き渡りはじめ、重々しく黒い霧が現れていく。
黒い霧はガシャドクロかと思ってしまうほど巨大な骸骨のような形を形成していった。
これが【骨笛ネクロマンサー】仕様の【堕音深笛】だ。
「これは興味深いですね。
今まで【堕音深笛】の効果や見た目には個人差があると検証結果で出ていましたが、ここまで顕著なものは初めて見ましたよ!
いいですね、本当に調べ甲斐がありそうですね!!」
あっ、【検証班長】がヒートアップしてきたな。
検証材料が出てくるとすぐこうなるのが【検証班長】の悪い癖だ。
「さあさあさあさあ!
他のスキルを試してみて欲しいね」
「ふひひっ、なんだか【検証班長】さんの語気が強くなってきて怖いですねぇぇ……
ふひひひひひひ……」
いや、お前の笑いかたも十分怖いからな?
自覚があるのか分からないけど、相当だぞ……
テンションのおかしい二人を前に俺は立ちすくむことしか出来なかった……
異常者の集まりですね……
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