523話 クソムシワーム
【骨笛ネクロマンサー】の【堕音深笛】によるバフのお陰で、群れてきたワーム共をことごとく切り裂きながら進んでいくと、大広間のようなところに出た。
この先に進める道がないことからここが終点だろう。
「ふひひっ、でもボスモンスターがいないですぅぅ……
もしかしてどこかで見落としたか、道を間違えましたかぁぁ……?」
ボスモンスターが終点である大広間に居なくて困惑する【骨笛ネクロマンサー】。
純粋な戦闘職プレイヤーじゃないからか、戦場でもビクビクしながら動いていたし今でもおどおどしている。
そんな【骨笛ネクロマンサー】が言うようなその可能性もあり得ないとは言い切れない。
だが……
下がれっ、来るぞ!
俺はおどおどしていた【骨笛ネクロマンサー】を後ろに突き飛ばし、俺自身も後方に回避した。
その直後、俺たちがさっきまでいたところに空が落ちてきたかのような衝撃が走り、天井から10メートルほどの巨大なワームが落下してきた。
【Gatekeeper Battle!】
【曲者虫クソムシワーム】
【ボスバトルを開始します】
脳内に鳴り響いた無機質なアナウンスによってこいつがボスモンスターだと俺たち二人ははっきりと認識できた。
おっ、このボスモンスターは2つ名持ちみたいだな。
漢字が先頭についているボスモンスターは、2つ名持ちモンスターと呼ばれていて通常出てくるボスモンスターの強化版だ。
レアエンカウントというやつだな。
俺たちの前に現れた2つ名持ちボスモンスターは10メートルくらいの巨体で、全身に剛毛がこれでもかと言わんばかりに生えている。
キャピキャピ女子高生とかがこんなものを見たら気絶ものだろう。
俺はゲテモノには慣れているからこんなもの見たところで今さら気絶とかはしないが、俺の後ろにいる【骨笛ネクロマンサー】はどうだろうか。
気になってちらりと見てみると……
「ふひっ、ふひひひっ!!!
こんなモンスターの骨素材とか採れたら嬉しいですねぇぇ……
スキルで復活させられるのはプレイヤーだけですけど、骨の素材を眺めればそれはそれで悪くないですぅぅ!!
はぁぁっ、きっと素晴らしい骨の持ち主ですからぁぁ……」
心配していたのとは別方向で困ったことになっていた。
【釣竿剣士】に対する【ペグ忍者】みたいな反応をしているぞこいつ!?
「ふひひっ、ボス相手に出し惜しみは出来ないですよねぇぇ……
ability【粉骨再身】んん!
スキル発動ぅぅ……【想起現像】ぅぅ!」
【骨笛ネクロマンサー】はスキル【想起現像】とability【粉骨再身】の合わせ技によって骨の流砂の流砂を生み出し、それを凝縮していく。
凝縮された骨の流砂は骸骨となり、プレイヤーと変わらぬ動きをし始めた。
そして、そんな蘇らせられた骸骨が持つ武器は……短弓だった。
短弓を構える骸骨は見覚えのあるマントを羽織っており、とあるプレイヤーを思い出させてくる。
「ふひひっ、【包丁戦士】さんの思っている通りのプレイヤーを蘇らせましたよぉぉ……
あてぃしの手足となって動いているこの骸骨は【短弓射手】の死の残留思念を集めたものですぅぅ……
偶然手に入れられたのでラッキーでしたぁぁ……」
【短弓射手】骸骨は弓を構えてクソムシワームに骨の矢を放ち、次々と命中させていっている。
流石に本家本元の【短弓射手】と比べると淡々としているし、動きも劣るが純粋にその場で相手に応じた手数を増やせる強みはオンリーワンの力だと実感した。
ヘイトが俺と【短弓射手】骸骨に分散しているので、これまでの雑魚虫たちとの戦闘よりも隙を見せてくれる頻度が高いぞ。
デコイとしても役立つんだな。
「ふひひっ、それ以外にも使い道はありますけどねぇぇ……
とりあえずこのままいきますよぉぉ……」
【骨笛ネクロマンサー】による援助もあり、俺はクソムシワームの剛毛を切り裂きながらその先の肉まで到達し刃を届かせた。
包丁を通して伝わってくる感覚としては、かなり柔らかく一撃届かせただけでも大ダメージになった気がする。
だが、その肉まで刃を届かせるために邪魔になっているのが剛毛だ。
実際、【短弓射手】骸骨が放つ骨の矢は全て剛毛に阻まれており、ダメージを与えるには至っていない。
ヘイトの分散をしてくれているからそれで十分ではあるがな。
「ふひひっ、それならかなり勿体ないですけど奥の手を使いますぅぅ……
スキル発動ぅぅ……【魚尾砲撃】ぃぃ!」
ここで【魚尾砲撃】だと!?
俺は意外な選択肢に、クソムシワームを切り裂きながらも驚いてしまった。
まさか極太レーザーでも放てるのか?
そう思ってしまったがどうやら違うようだった。
【短弓射手】骸骨が弓を放つのを止めてクソムシワーム前まで全力ダッシュし、クソムシワームに抱きつくと爆発して消え去っていった。
おいおいっ!
もしかして【魚尾砲撃】の発動対象って【テイマー】なら変えられるのか!?
自分自身じゃなくて使役しているモンスターが変わりに爆発したということはそういうことなのだろう。
【短弓射手】骸骨の決死の自爆テロにより、一部分の剛毛が消え去り柔らかな肉が表面に現れてきていた。
こんなに見えやすい弱点ができたのならあとはこっちのものだ!
俺は包丁を肉に直接突き刺し、えぐり取るように体内に侵入しながら包丁を振り下ろした。
すると、何か肉以外の固いものを切り裂いてしまったようだ。
俺が何かを切り裂いたのと同時にクソムシワームは霧散し始めたことから、こいつの核のようなものだったのだろう。
「ふひひっ、犠牲はありましたがクリアできましたねぇぇ……
あてぃしは役に立てましたかぁぁ……?」
中々良かったな。
後衛としての役割をきちんと果たしてくれていたから、あとは堂々としてくれたら問題ない。
「ふひひっ、善処しますぅぅ……」
居心地が悪くなったのか根暗女はそそくさとダンジョンから脱出していった。
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