52話 渓谷エリアの洗礼
針のようなものがひたすら飛んでくる樹林が生えている山を越えなくてはならなくなった俺、【包丁戦士】。
エリア設定に運営の悪意を感じてしまう、流石プレイヤーに人権のないどん底ゲームだぁ……
しかも、護衛対象までいるという、縛りプレイだ。
初見でどこまで行けるのか正直微妙なところではあるが、レイドボス討伐の経験を活かしてやってみるとするか。
おいポリンお嬢様、俺の後ろから離れるなよ?
「了解ですわ!
脚には自信がありましてよ?」
そう言ってむちっとした太ももを魅せてくる。
いい脚だな、ぷにぷにしていい?
「ぷにぷに……だっ、ダメですわよ!?
……たしかにぷにぷにですが、足の早さには本当に自信がありますのよ!」
まあ、キャラクターメイクの時点からほとんど見た目が変わることはないので、見た目と実際の能力に差異があったりするのはその辺の【モブ】がよく言っている。
例えるなら全身ムキムキのやつが実際はめちゃくちゃ非力……みたいな感じだな、このポリンお嬢様は素早さでその要素が出ているのだろう、自己申告だけど。
さて、戯れはこれくらいにして進むとするか。
俺とツインテドリルお嬢様は足に力を込めて全力で駆け出し始めた。
俺が先行する形で金髪お嬢様の手を握りながら、飛翔する針から身を守っていく。
体を掠める程度のものはスルーして、完全に刺さりそうなものを分別して包丁で切り落としていく。
俺に飛んできたやつは最低限の動きで落とすためにジェーにもよく使っていた包丁の腹を使った受け流しを応用して潜り抜けていく。
このポリンお嬢様、何度か背中に背負っている円盤のようなものを取り出そうと手を伸ばしたり止めたりしているのをわき目で確認した。
あれはおそらくこのお嬢様のチュートリアル武器なんだろうが、何で取り出すのを躊躇しているのだろうか……
気になることはあるが、今はこの針樹林を突破することに専念するか。
バックステップでポリンお嬢様を引っ張りながらの斬撃、位置をスイッチさせながらの緊急回避、鞭を駆使しての事前排除などある程度の手札を代わる代わる使っていく。
そうしてあと10メートルで針樹林を抜けられるというところでお嬢様の背中を狙うように針が飛んできた、これは流石に防げない!
万事休すか……そう思ったがポリンお嬢様が口から声を漏らした。
「あっ」
背中に背負っていた円盤のようなものに運良く当たり針を弾き返していた。
これはラッキー!
……しかし、ツインテドリルお嬢様の顔色は少し悪いままだ。
……そういえば、チュートリアル武器の耐久力は無限だが一部の武器種類は防御に使うと独特の効果音がついてくるという変な仕様がある。
そして、こいつの武器に当たった時にはそれが流れていたな。
つまり、そこから推測できるのはこいつのチュートリアル武器可能性は……
「その武器……盾のような武器種類なのか?」
つい疑問が口から出てしまった、気になるからどっちにしても聞いていたとは思うがな。
盾系統のチュートリアル武器は防御するときに特別な効果音が適応されるらしい。
金属が擦れる音であったり、響くような音だったりが少し変わるのだ。
この質問に対して、ポリンお嬢様は親指をほっぺたに当てて少し考え込みおずおずと口を開いた。
「……そうですわ。
少し変わっておりますが、基本的には盾として使っておりますのよ。
……本来の用途ではないのですが」
まあ、ちょっと情報を回収しただけって感じになったか。
本当はもっと情報を引き出したかったところなんだが、金髪ツインテドリルポリンお嬢様の表情を見るとまだ慌てているような表情をしているのでこれ以上話を取り合ってくれることは無いんだろうな。
ま、本人が言いたくないならそれもいいだろう。
取り合って針樹林を抜けることは出来たし。
「そ、そうですわね!
取り敢えず、ここからしばらく普通の山道ですので安心して進めますの」
ほっ、それはよかった。
流石にこの針樹林のような鬼畜仕様がこの先ずっと続くことさえも正直覚悟していたのでタスカルタスカル。
「少しこの辺で夜営の準備でもしませんこと?
これ以上暗くなってから移動するのは、足元が見えず危ないですのよ」
まあ、俺は別に夜くらいの暗さなら普通に歩けるのだがこのポリンお嬢様が歩くのが危ないというならそれに従うとするか。
なんか俺がこのツインテドリルお嬢様をエスコートしないといけない(本当はそんなことしなくてもいい)みたいなので、俺が普通に歩けたとしてもこのお嬢様が歩けないなら辛抱強く夜明けを待つとしよう。
えっ、妙にこの底辺種族【包丁戦士】いつもより優しくないですか。
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