508話 守兵釣竿
【検証班長】のチームからポイントを獲得して逃走した俺は崖を越えて風船でプカプカ宙をさまよっていた。
たまに明らかに油断してそうなモブプレイヤーたちを上空から奇襲したりして更なるポイントを稼いでいたが、そんなに都合のいいことばかりやっていると運が悪い時には……
「あら、【包丁戦士】様……上空から奇襲とはまた面白いことをなさっていますのね?
プレイヤーキラーである【包丁戦士】様にしては若干消極的な姿勢のように見えますが、そのチュートリアル武器では仕方ありませんですわね」
俺が襲撃をかけた相手は南のトッププレイヤー、金髪ツインテドリルの【トランポリン守兵】お嬢様だったようだ。
こいつは普段トランポリンを使うが、今手に握られているのは……釣竿だ!
あれは【釣竿剣士】カスタムの釣竿だな、攻撃しやすいように握り手部分を何度か加工した跡があるので少し見れば分かる。
「よく見ていますわね?
ちょっと妬けてしまいましてよ?」
まあ、あいつとは共闘することや、対決することが多かったからな。
「あっ、対決といえば最近のクラン【お屋敷組】への襲撃は許せませんわ!
いくらレイドボス討伐で手を取り合った仲とは言っても限度がありましてよ!
せっかくおあつらえの場面で出会ったのですから、ここで一緒に踊っていただきますわよ!」
そんなに怒るなって!
ゲームなんだからそういうこともあるもんさ。
【釣竿剣士】カスタムの釣竿を思いっきり振りかぶりながら接近してくるポリンお嬢様。
釣糸の先に取り付けられているのは……鉄球だ!
釣竿一刀流【石砕き】に使うためのやつだが、素で当たっても大きなダメージになるのは目に見えている。
急所にでも当たってしまったら一撃でノックアウトもありえるぞ!
そんな重量のある鉄球のついた釣竿を少し重そうではあるが、振り回せているポリンお嬢様の身体スペックの高さに驚いたな。
「前にも言いましてよ?
ワタクシ、身体には自信がありますと!
流石に【釣竿剣士】様のようにはいきませんが、他の方々よりはこの武器を活かしてあげられましてよっ!」
振り下ろされた釣竿を回避すると、鉄球が地面を砕き地面越しに衝撃が伝わってきた。
うへー、こわっ!
釣竿って本来武器じゃないはずなのに、どうしてこうなった!?
「それは【釣竿剣士】様に直接聞いてくださいませっ!」
ポリンお嬢様は釣竿を横凪ぎに振るってきて、当たり判定の範囲を広げてきた。
遠心力も手伝ってか、さっきよりもどんどん勢いを増していっているのが恐ろしい。
こらこら、そんな物騒なものを回しながら迫ってくるな!
ちなみに【釣竿剣士】に聞くつもりはない。
聞いても理解不能か、「当然ですよ、生産プレイヤーなら!」とかいう返答で終わりそうだからな。
聞くだけ無駄だろう。
俺はストックしておいた石ころを投げて妨害していくが、普通に弾き返されてしまった。
釣竿が武器になっているからポリンお嬢様の強みであるタンク職の特権スキル【近所合壁】は使ってこないのだが、それ抜きでもポリンお嬢様の守りは硬い……というより普段の守りの姿勢が今も活かされているって感じだな。
だからこそ、守り重視で攻めは疎かになってるぞ?
「そっ、それはワタクシも分かっていましてよ?
ですが、これはサバイバルイベントということを忘れていませんこと?
生き残ることが最優先事項ですわ!」
ポリンお嬢様は釣竿を振り回しながら俺に詰め寄ってきた。
鉄球なんて回しながらよくそんなに軽々動けるなこいつっ!?
油断していたところに思わぬ一撃が飛んできてヒヤリとしたが、なんとかかわすことができた。
……それは正論だな。
実際俺も今回のイベントについては敗走や逃走を繰り返しているから、否定はしない。
生き残らなければキルポイントも増やせないし、キルできるのも命あってのことだ。
このゲームの中では微塵も人権が保証されていないプレイヤーの命ですら大切にする超王道思考のポリンお嬢様の言葉に安易に頷くのも癪だが、俺としても同じ意見だ。
「珍しくワタクシの意見を否定しないで同調しましたわね!?
その反応が返ってくるとは思っておりませんでしたので、少々驚いてしまいましてよ!
……って何処へ行かれますの!?」
なーに、今お前が言ったばかりじゃないか。
生き残ることが最優先だと!
今の俺の状態でお前と続けても勝ち目が薄いからな、お前の言葉通り命を大切にするために逃げさせてもらうだけさ。
俺はポリンお嬢様の言葉を逆手に取って、この場をすんなり退却する方針に変更した。
この魔改造釣竿を持ったポリンお嬢様を倒すための手段が俺には必要だ、仮に再戦するとしても他の倒しやすそうな連中をキルしながら素材や武器になりそうなものを集めてからだな。
なので、今俺は風船に掴まりながら再度宙へと浮かび上がっていっている。
ポリンお嬢様は追い掛けてきているが、流石に鉄球釣竿という重荷を持ったまま俺に追いつけるわけはなくそのまま距離は離れていっている。
「【包丁戦士】様……次お会いした時は容赦しませんわ!!
覚悟していらしてくださいませ!!!」
はっはっはっ、嫌なこった!
出来ればこの次元戦争中に再会しないことを期待してるからな!
サラバダー!
俺はそんな捨て台詞を吐き捨てながら、このイベント中何度目になるか分からない風船による空中散歩を開始するのだった。
逃げてばかりですね……
流石は劣化天子、程度が低いです。
【Bottom Down-Online Now loading……】
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