502話 お屋敷組襲撃
【Raid Battle!】
【包丁を冠する君主】
【菜刀天子】
【次元天子】【上位権限】【???】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【次元をさまよい】
【冒険者を導く】
【聖獣を担うが故に】
【深淵と敵対する】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日はクランメンバーの後輩たちの様子を見てやろうと思う。
というわけでやってきました岩山エリア……堅牢剣山ソイングレスト。
ここに二人を呼びつけた。
どの二人かと言うと……
「先輩の呼び出しって不吉な予感しかしないッスね!?」
「フェイちゃんの頼みとあれば、俺は何処にでも飛んでいくよ。
君のためなら、火の中水の中でも何のそのさ!」
【ふ、【フランベルジェナイト】さん……嬉しいです!】
そう、【バットシーフ】後輩と【フランベルジェナイト】だ。
【バットシーフ】後輩だけ呼ぶときに後輩をつけているが、【フランベルジェナイト】と【バットシーフ】後輩は同期プレイヤーだからな。
【バットシーフ】後輩だけに後輩をつけるのは、なんか気質が後輩っぼいからで、他に特に理由があるわけではない。
こいつらを呼んだのは、後輩プレイヤーたちの成長具合を見るためだ。
お前たちの培ってきた実力を見せてもらうぞ!
俺は包丁をちらつかせながら後輩二人に圧をかけていく。
「や、やっぱり先輩と戦うことになるッスか……
スパルタッスね!?」
まあまあ慌てるな。
【バットシーフ】後輩はいつも俺相手に戦闘訓練しているから、たまには変わった趣向を凝らしてみてもいいと思ってわざわざ岩山エリアまで呼んだんだ。
「ほっ、ちょっと安心したッス!」
「フェイちゃん、どんなことを思いついたんだ?
俺に出来ることなら何だって協力するよ!
繊細な君のためなら、俺は鋼鉄の盾となって君を守るつもりだ!」
【む、無理はしないでください……
【フランベルジェナイト】さんが傷つくと私も悲しいです】
「ああっ!?
ゴメンゴメン!
そんなつもりじゃなかったんだ、別に俺は自分の身を軽視しているわけじゃない。
ただ、それよりも君のことが心配なんだよ!」
そんな甘ったるいことを【フェイ】に囁いている【フランベルジェナイト】は、まごうことなき正統派主人公のようだ。
だが、その対象である【フェイ】の姿は他のやつ……具体的に言うと【バットシーフ】後輩には見えていない。
そうなると……
「えぇ……
慣れてきたッスけど、本当にこのイケメンは急に空中に語りかけてて怖いッスよ!?
先輩はよく平然としてられるッスね?」
まあ、そりゃな?
そんな感じでお茶を濁したが、俺は【フェイ】の姿が見えているので違和感がないだけだ。
あっ、今回はこの岩山エリアのトッププレイヤー【トランポリン守兵】お嬢様が率いるクラン【お屋敷組】にカチコミをかけるつもりだ!
さあ、野郎共いくぞ!
「ええっ!?
そんなことしていいんッスか!?」
「フェイちゃんのためならやるよ!」
そりゃ俺はプレイヤーキラーだからな。
相手の拠点に攻め込んだりもするさ。
それに、盗みの天才と、戦闘の奇才の才能を磨くには相手が必死になって戦ってくれるほうが効率がいいしな!
「流石狂人って呼ばれるだけあるッスね……
理論的に聞こえるッスけど、ただの迷惑プレイッスからね……
……といいつつも、俺っちは逆らえないから行くッスよ!」
おっはー!
【包丁戦士】ご一行の襲撃タイムだ!
「っ!?
あなた様、いったいどういうおつもりでして?」
「お姉さま、お下がりください!
ここはワタシが対処します」
クラン【お屋敷組】が野外で集まっている瞬間を狙い、俺たち三人は武器を手に一斉に飛びかかっていった。
包丁、バット、フランベルジェを手にしながら急に襲いかかってくる連中を見たクラン【お屋敷組】のメンバーは騒然としていたが、リーダーである【トランポリン守兵】お嬢様と燕尾服を着たサーベル使いの女が攻撃を防いできた。
この燕尾服女、初心者イベントの時に【バットシーフ】後輩と張り合ってたやつだな!
よし、【バットシーフ】後輩はこいつの相手をしてやれ。
俺と【フランベルジェナイト】で【トランポリン守兵】お嬢様を仕留めるぞ!
「俺っち一人ッスか!?
先輩、せめて手伝って欲しいッスよ!」
「フェイちゃん、敵は強力そうだけど一緒に頑張ろう!」
【は、はい!
が、がんばりますよ……】
俺は【トランポリン守兵】お嬢様に向かって横凪ぎをする……
「ぐわっ、何故気づいた!?」
と見せかけて、背後に迫っていたチュートリアル武器と思われる辞書を手にしていたプレイヤーを切り裂いた。
俺はプレイヤーキラーだからな、プレイヤーの気配を察知するのは容易いもんだ!
「スキル発動!【竜鱗図冊】!
フェイちゃんとの絆の証を今身に宿し、戦わせてもらうよ!」
【フランベルジェナイト】は開始早々に巻物を空中に広げて、俺と手に入れたレアスキルの【竜鱗図冊】を発動させた。
そうして巻物から現れた竜の鱗が【フランベルジェナイト】とチュートリアル武器のフランベルジェに装着されていっている。
漆黒の鱗に包まれた【フランベルジェナイト】は、暗黒竜騎士と言ってもいいような禍々しくも実直な風体をしていた。
おいおい、お前も【邪悪竜人】になってたのかよ!?
はじめはただの竜人だったはずなんだが……
「何を言っているんだい?
フェイちゃんが協力してくれたから、この新しい力が手に入ったんじゃないか」
俺は【フェイ】の方をチラ見する……あっ、こいつ目を逸らしてきたぞ!?
絶対確信犯だな……
自分がなってしまった種族に引き込むように誘導したんだろう。
「さらに追撃させてもらおうか!
スキル発動!【波状風流】!」
【フランベルジェナイト】はスプリンクラーのようなものをスキルによって設置し、そこから発生した風の波に乗って【トランポリン守兵】お嬢さまへと突撃していった。
通常の走りでは出せないスピードで移動して、揺らめく炎形をした剣フランベルジェをそのまま躊躇なく振り抜いていった。
「あなた様も手練れですわねっ!?
ですが、ワタクシも負けませんわよ?
スキル発動【近所合壁】ですわ!」
【トランポリン守兵】お嬢様は手に持ったチュートリアル武器のトランポリンを一度崩壊させて、即座に再構築していく。
これがタンクプレイヤーの特権スキル、【近所合壁】だ。
自由にチュートリアル武器を生成できるスキルはまもりのチュートリアル武器との相性は抜群だ。
フランベルジェを振り抜いた【フランベルジェナイト】の攻撃もトランポリンの弾力によって跳ね返されてしまったみたいだ。
「【包丁戦士】ィィィ!!!
帰れぇぇぇ!!!」
「きぇぇぇぇ!!!」
「お嬢様を守れ!」
「悪霊退散!」
【フランベルジェナイト】の戦闘を観戦しながらも、【フランベルジェナイト】や俺にモブプレイヤーたちは容赦なく襲いかかってきている。
だが、その辺の有象無象には負けてやるつもりはないぞ?
俺はЖ素材の鞭で迫ってきたやつらをまとめて絡めとり、その後包丁で滅多刺しにしてやった。
映画を見ながらポップコーンを食べるような感覚でキルできるのは、手軽でいいものだな!
「その理論はおかしいッスよ!
……ストックスロット2!【天元顕現権限】!」
【バットシーフ】後輩も俺のスキルを盗み見てストックしてあった天子の翼を顕現させて、サーベル使いの燕尾服女を翻弄していく。
「まだまだ行くッスよ!
ストックスロット1!【レインボウ】ッス!」
さらに【バットシーフ】後輩は七色の矢を生み出して、それを放っていく。
これは【短弓射手】のカタカナスキルだな!?
いつの間に接触してたんだ……?
「それは【裏の人脈】を使ってチョチョッとやったッスね!」
俺に誉められてどや顔をしているが、そんな慢心していていいのか?
「えっ、それってどういうこと……ッス……か……」
「ふんっ、ワタシの命が尽きようともお姉さまに仇なす輩は道連れにしてやるっ」
自信満々に派手なスキルを放って完全に慢心していた【バットシーフ】後輩は、攻撃によって巻き起こされた砂埃に紛れていた燕尾服女のサーベルによって背後から突き刺されて光の粒子と化していった。
だが、【レインボウ】をくらっていたのには変わらず、燕尾服女を一緒に消えていった。
【バットシーフ】後輩はなんというか、戦闘への緊張感が足りてないな。
またみっちりしごいてやらないといけないな、教育的指導だ!
一方、【フランベルジェナイト】と【トランポリン守兵】お嬢様の戦いも佳境に入っていた。
「くっ、トランポリンの高速機動は厄介だね……
フェイちゃんも気をつけて!」
「ワタクシの動きについてくるとは中々お上手ですね?
ですが、ここからが本番ですわよ!
称号【大量生産職人】をセット!クラフトマイスター権限起動しますわよ!」
【Warning!】
【創り上げるのは多くのもの】
【均一物こそ美しい】
【【クラフトマイスター】権限により【近所合壁】の連続錬成!】
【【トランポリン守兵】のチュートリアル武器が連続錬成されます】
「スキル発動!【近所合壁】の最大展開ですわ!」
ポリンお嬢様は称号をセットして、クランマイスター権限によってトランポリンを無尽蔵に作成し始めた。
自らが踏んで跳ねては直ぐに新たなトランポリンを足場にして移動するという下手すると飛行するよりも厄介な動きをしながら【フランベルジェナイト】を追い詰めていっている。
「オレたちのことも忘れるなよ狂人~」
「プレイヤーキラー必滅!プレイヤーキラー必滅!」
「もう30人以上こいつにやられてるのに、疲労の気配すら見えないなんて流石はトップ狂人だ……作りが俺たちとは違うのか……?」
俺が二人の戦闘を見ている間にも他のモブプレイヤーたちは俺を標的に次々と襲いかかってきている。
俺にヘイトが集まっていれば【フランベルジェナイト】は思いっきり戦えるからな。
そのためにわざわざ俺が上物プレイヤーであるポリンお嬢様を譲って後輩たちに見せ場を譲ってやってるんだ。
おん?だから、別に忘れちゃいないさ。
ほらほらほらほら!
どうした?その程度か?
「ぐわわわぁあぁっ!!」
「くそっ、こんなところで……」
俺はモブプレイヤーたちを軽く捌きつつ、包丁をとある方向へと放り投げて、あの二人の結末を見届ける。
どうやら【フランベルジェナイト】でも、トッププレイヤー相手にタイマンはきつかったようで無限トランポリンの機動に翻弄されて倒されてしまったようだ。
「あとはあなた様だけですわよ!」
俺を追い詰めたかのようにポリンお嬢様は迫りよって来たが……
甘いぞ?
「どういうことですこと?」
こういうことだっ!
俺は両手を広げて見せた。
俺がさっきまで握っていた包丁は既に手元にないことを見せつけるためだ。
それならその包丁はどこにいったのかというと……
「ま、まさかあの戦闘中に上空に投げて時間差で当たるようにしていたのでして!?
この戦法はクシーリアを倒したときと同じもの……やはり偶然ではなく、あなた様の実力による技だったのですね。
そこまで読んでいるとは感服しました、わ……」
ポリンお嬢様と【フランベルジェナイト】の戦闘に決着がつきそうなときに、事前に投げておいた包丁がポリンお嬢様の脳天に直撃したようだ。
俺はチュートリアル武器が包丁だから今は包丁を重宝しているが、他のゲームでは色々な武器を使っては投げ、使っては投げる暗器使いスタイルだったからこれはその名残だ。
ちゃんと当たってくれてよかったぜ!
なんという生産性の無い襲撃だったのでしょう……
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