500話 勢力争い(挿し絵あり)
【Raid Battle!】
【深淵域の管理者】
【エルル】
【???】【上位権限】【ボーダー】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【深淵へ誘い】
【冒険者を堕とす】
【深き真価を見極め】
【境界に流転する】
【封印された夢想が解き放たれし時】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日はルル様に【菜刀天子】との休戦協定について話しておこうと思う。
ルル様もルル様で色々と準備してくれているだろうから、放置しておくと次元戦争前に【菜刀天子】を倒せるようになってしまうからな。
それを待ってもらおう。
「なるほどな……
憎き次元天子の甘言に乗るのは癪ではあるが、我にとっても悪い話ではないか。
他の次元の序列を堕とせる機会など滅多にない故にな。
何も次元天子は【菜刀天子】だけではない、他の次元の次元天子を下すというのも一興か。
この次元が最上位になったあとこの次元を堕とせば我の野望に近づくというもの……
悪くはない提案だのぅ……」
俺の話を聞いたルル様は緑色の蛸足をうねらせながら、【菜刀天子】からの停戦協定について思いを馳せているようだ。
ルル様は聖獣、次元天子、大罪魔が口を揃えて狡猾、陰湿というほどの知略家だからな。
ここで停戦協定を呑んだときのメリット、起こること、呑まなかったときのことまで考えているのだろう。
まあ、俺が考えている以上のことまで思考を巡らせているのは間違いない。
前提条件として、俺とルル様ではこの世界に対しての知識量が違いすぎるから当然と言えば当然だが。
「どちらにしても、我の忠臣の準備には元々時間がかかる予定だった。
これを好機と見て、より力をためさせておこうかのぅ……
時間があるのに備えをしないとあっては、間抜けとしか言いようがない。
それに、お前が深淵奈落中層ルルナティックで起動できるようにしたあの【深淵機構】も手を加えて、活用できるようにするのも悪くないようだな。
お誂え向きの底辺種族もおるからのう」
あの【深淵機構】とかいう復刻レイドボスと戦えるやつ、他にも活用方法があったのか……
それはラッキーだったな。
少しでも【菜刀天子】討伐の可能性が上がるのであれば、どれだけでも手札を増やす価値はあるからな。
「そういうことだ」
【Raid Battle!】
【包丁を冠する君主】
【菜刀天子】
【次元天子】【上位権限】【???】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【次元をさまよい】
【冒険者を導く】
【聖獣を担うが故に】
【深淵と敵対する】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、ルル様への説明が終わったので特に予定が無くなってしまった。
とりあえずアビスじゃないノーマルのボトムダウンオンラインの方にログインし直した。
それでやって来たのは渓谷エリア……【地蒜生渓谷メドニキャニオン】だ。
特に用事があるわけじゃないが、余った時間はあまり来ないエリアであるここでブラブラしてみようと思ったのだ。
「あっ、【包丁戦士】さんっ!
何でここにいるのか気になるねっ!」
「プレイヤーキル祭でもしようとしてるんじゃナイカナ?
【包丁戦士】さんは唐突にそういうことをするらしいって聞いたカラ……」
渓谷エリアについてしばらく歩いていると見慣れた双子が俺の前に現れた。
一見すると双子姉妹のようにも見えるが、語尾がハキハキしている方は美少女みたいな見た目なのに男だ……つまり男の娘ってやつだな。
こいつらは渓谷エリアのトッププレイヤーである【風船飛行士】がリーダーのクラン【冒険者の宴】に所属する双子【ブーメラン冒険者】と【短剣探険者】だ。
男の娘の方が【ブーメラン冒険者】で、女子力を若干捨てている方が【短剣探険者】だな。
「なんか私の説明酷いヨネ?
たしかに料理は少し苦手ダケド……」
「あはは……
あれは少しって言っていいレベルじゃないよねっ!
前に病院に送られそうになったからねっ!」
これは酷い……
確かに前に料理が下手とか言っていたが、そこまで壊滅的だとは思ってなかったな……
もっと時間があれば料理指南とかしても良かったんだが、今日はそこまでの時間が無いからな。
俺が水筒に入れてきたセイロンティー擬きでも飲みながら雑談でもしようや。
「あ、特に用事があったわけじゃないんだねっ?
それなら私たちも暇だったから付き合ってもいいよっ!」
それならちょっと気になっていたことでも聞いてみるか。
お前たち双子って何で【風船飛行士】とつるんでるんだ?
どういう経緯で知り合ったのかは興味があるぞ。
「あ~、それねっ……」
「あの頃の渓谷エリアは群雄割拠で、勢力争いが凄かったカラネ……
私たちは今は砂漠エリアに拠点を移している【トンカチ戦士】と二人でバチバチに争ってたんダヨネ」
「その時に【トンカチ戦士】が最大勢力だった【虫眼鏡踊子】と手を組んで私たちに襲いかかってきたんだよっ!
あれは驚いたよねっ!?
それで私たちも当時トップ2勢力だった【風船飛行士】さんの力を借りて撃退したんだよっ!」
「その流れで【風船飛行士】さんと仲良くなって、一緒にレイドボスに挑むようになったんダヨ。
ふざけたような態度で話しているから、はじめは信用できるのか不安だったヨネ~」
へー、そんな経緯があったのか。
強敵相手に力を貸してくれたやつなら、たしかに信頼できるよな。
【トンカチ戦士】といい、【虫眼鏡踊子】といい今砂漠エリアを拠点にしてるやつって渓谷エリアで勢力争いしてたやつが多いのは偶然なのか?
「いや、私も詳しいことは知らないけど私たちが【風船飛行士】さんと組んで仲良くなったように、向こうも手を組んだ時の流れなんじゃないかなっ?
気になるなら直接聞いてきてよねっ!」
「私たちはあんまり顔を合わせにくいカラネ~
若干勢力争いの件が尾を引いてるんダヨ」
なるほどな。
ちょっと話を聞いて気になってきたし、【風船飛行士】や【虫眼鏡踊子】に話を聞いてみるか。
あいつらカップルだし、一緒に話を聞いても問題ないだろう!
……たぶん。
あの頃は底辺種族には熾烈な環境でしたね。
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