496話 爆発ノ釣竿
「【包丁戦士】さん!?」
釣竿一刀流【奥義ー空錠】を受けた俺は空中で【フィレオ】のための袈裟斬りを放った状態で固定されてしまった。
【釣竿剣士】が喋ったり動いたりしている以上、俺だけ身動きが取れないんだろう。
だが、身体そのものが固定されているわけじゃないようだ。
【釣竿剣士】の師匠の異能力……ability【現界超技術】の特徴は元素爆発というエネルギーに干渉するものらしいからな。
ということは、空中で固定されているのは……
「その表情、お前さんこの奥義で何をしたのか察したな?
釣竿一刀流【奥義ー空錠】は釣竿の力を借りて空気に錠をかける技だ。
その錠がかかった場所にいる者は同じように停止する。
そう、このようにな」
この状態、喋ろうとしても喋れないんだが……
空気が固定化されているっぽいから口も動かせない。
つまり、スキル発動に必要な宣言も出来ない……
くそっ、【魚尾砲撃】とかで自爆することすらも封じられるなんて、今の俺は完全にそこにいるだけの人形以下の存在だ。
「【包丁戦士】さんを助けないと……
空気が固定化されているのにどうやって?」
自問自答を始めた【釣竿剣士】だったが、そんな隙が出来た【釣竿剣士】に師匠は攻撃を開始したようだ。
……どうやらいつでも止めをさせる俺のことは無視らしい。
「判断が遅いぞ!
釣竿一刀流【憂鬱壱ノ型ー憂イノ吹雪】!」
師匠は自分が持っていた釣竿を瞬時に凍結させて全てを凍りつかせるような猛吹雪を発生させてきました。
ここで私が取れる選択肢は迎撃と防御……【斬祓】と【渦潮】です。
その二者択一の状況で私が師匠相手に取った行動は……
「これです!
釣竿一刀流【斬祓】です!」
ここまでくれば玉砕覚悟の短期決戦です!
今は亡き(?)【包丁戦士】さんが協力してくれたお陰で師匠にはかなりのダメージと部位欠損があります。
対する私はダメージはそれなりに受けていますが、戦闘には支障がないくらいなので師匠に対して多少は優位に立ち回れる……という打算の上での選択ですね。
私の釣竿一刀流【斬祓】によって師匠が起こした吹雪を切り裂きながら進んでいきますが、風にのって運ばれてくる冷気が私の体力を奪っていくのは止められません。
極寒の環境を作り出した本人である師匠は氷漬けの釣竿を持って私に対して横凪ぎをしてきました。
本来なら研ぎ澄まされた刃のような一撃ですが今の師匠は片腕を失っていてバランスが崩れたようです。
釣竿一刀流【斬祓】の高速振動で氷の釣竿と互角に渡り合えています!
「……と思いましたが、片腕でもやはり師匠は強すぎますよ!
よくそのバランスで戦えますよね……」
「儂もこのゲームで鍛えたからな。
身体にあらゆる負荷をかけた状態の訓練をするのにはこのゲームのシステムはもってこいだ。
何驚くようなことでもあるまい、そこの包丁を使う娘も儂と似たような訓練をしていると思うぞ」
【包丁戦士】さん、そういえばたまにそんなことを言ってましたね……
冗談の類いだと思っていましたが、人を見る眼が確かな師匠が言うのならそれは真実なのでしょう。
狂人と他のプレイヤーたちに揶揄されるのも分からなくもないです、生産的訓練とは言いがたいですからね……
「吹雪に対応するので脇が留守になっているぞ。
釣竿一刀流【怪力】!」
師匠は氷の釣竿を維持したまま力の増強を行ってきました。
それによって力の均衡が保たれていた私の釣竿一刀流【斬祓】との鍔迫り合いが崩れ、師匠の釣竿が私の腕に突き刺さりました。
これは非常に不味いですよ!?
「これで終わりだ。
釣竿一刀流【憂鬱二ノ型ー憂イノ大文字】!」
師匠は突き刺した釣竿からそのまま炎を送り込んできました。
身体の内側から焼かれていく感覚に私は負けを覚悟しました。
この状況から私が勝てる可能性は皆無と言って良いでしょう、ですがこの至近距離であれば釣竿一刀流以外にも私がうてる手はあります。
「師匠も迂闊でしたね?
最後の最後で詰めを誤るなんて……それでは師匠も動けないじゃないですか。
というわけで、包丁次元の代表的スキルで私と一緒に死んでください!
スキル発動!【魚尾砲撃】!」
私は身を焼かれつつも、体内にエネルギーを急速に充填していき身体が膨張していきます。
「よもや身を呈しての攻撃とはな。
使える手段は全て使う……それが生産的人間というものだ。
何も釣竿一刀流だけにこだわる必要はない、思うがままに育ってくれて儂は嬉しく思う!
その判断見事だ、あの頃から立派に成長したな……」
「し、師匠っ!?」
私は爆発し光の粒子となり、師匠もそれに巻き込まれて光の粒子となり天に登っていった……
……っと!
目の前で師弟による無理心中が行われるのをこの眼で見させられたわけだが、【釣竿剣士】の師匠が死んでくれたお陰で釣竿一刀流【奥義ー空錠】による空中固定が解除された。
ようやく地に足つけられるってわけだな。
着地した俺は地面に落ちていた師匠のリングを回収して手に持つ。
これでリングは2つ!
このまま拠点に戻れば俺たちの勝ちだ!
そう思い俺はウキウキで足を動かそうとしたが、プレイヤーキラー特有の察知能力で近くに誰かがいるのに気がついた。
石動故智か?
「ふっふっふっ、違うのだ!
あのデカイ人はドリーマたこすちゃんが倒したのだ!
そして、別の戦場に落ちてたリングも拾ってきたからたこすちゃんもリング2つなのだよ!」
俺の前に現れたのはピンク髪花柄ワンピースのタコ触手を生やしたロリ……夢魔たこすだった。
あの全てがデカイ女騎士こいつに負けたのか……
いや、なんとかここまで粘ってくれて助かったと言った方がいいか……
粘ったり、粘らなかったりする……
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