495話 身を削る戦い
「お前さんたちに儂の到達点を見せてやろう！
天候釣竿一刀流と憂鬱の力の昂りを今此処に！
釣竿一刀流【憂鬱終ノ型ー憂イノ乱気流】！」
【釣竿剣士】の師匠は俺たちの攻撃よって地面から引き抜かれ倒された釣竿を再び握ると、それを無造作に振り回し始めた。
今までの洗練された動きとは全く異なり、不規則かつ荒々しい釣竿捌きで虚空を切り裂きながら俺たちとの間合いを測っている。
やけくそか……？
俺はこの師匠と戦い始めてから受けてしまったダメージをさっき【釣竿剣士】の師匠に斬撃を与えれたことで機能する【暴食】の能力によって、傷が塞がっていった。
その様子を見て諦めたのかと思ってしまったが……
そう思い隣に並ぶ【釣竿剣士】の顔を見ると額から冷や汗が流れている瞬間だった。
表情も芳しくなく、あの荒い動きに何か感じるものがあるということだろう。
「ええ、そうです。
あれは空気中に風の元素爆発を時間差で発生させていますね。
……そろそろ来ますよ、構えてくださいっ！」
【釣竿剣士】の警告を信じて俺は包丁を正面に構えて、何が来るか分からないが包丁の腹による受け流しを出来るように構えた。
すると構えた瞬間に偶然包丁が何かを捕らえた。
まるで刃のようなものを受け止めた感覚が包丁を伝い、手で感じとることができたが俺の眼には何かが迫ってきたようには見えなかった。
まるで不可視の斬撃が飛んできたかようだったが……
「っ！
釣竿一刀流【斬祓】！」
眼を見開いておもむろに【釣竿剣士】は空中を切り裂いた。
すると、金属と金属がぶつかったかのような共振音が響き渡り始めた。
……やっぱり不可視の斬撃が飛んできているっていう認識で間違っていないようだ。
だが、俺には見えず【釣竿剣士】には見えているのか？
「当然ですよ、生産プレイヤーなら！
私は師匠の元素爆発をリアルで文字通り死ぬほど見ましたからね、その兆候はわかるんですよ。
……ただ、見慣れていなくても【フランベルジェナイト】さんならしれっと対応しそうですけど」
あー、あいつならやるだろうな……
なんの根拠もないが、やらかしてくれそうな感じはあるぞ。
というか、これはレイドボス【オメガンド】の使ってきた【刃状風竜】に似てるのか。
天雷とか、他の属性の技を使ってくることも考えるとこの【釣竿剣士】の師匠はプレイヤー版のレイドボス【オメガンド】って言っても過言じゃない。
それをスキルじゃなくて技量でやっているというところに化け物じみた凄さを感じるな。
「儂がレイドボスとな？
面白い例えだ。
では、そのレイドボスをお前さんたちに越えてもらおうか！
釣竿一刀流【憂鬱終ノ型ー憂イノ乱気流】！」
おい、【釣竿剣士】！
俺にはお前の師匠の斬撃が察知できないから防御はお前に任せるぞ！
代わりに俺が攻め込む！
いくぞ！
スキル発動！【渦炎炭鳥】！
【スキルチェイン【天元顕現権限】【渦炎炭鳥】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
俺は赤色の魔法陣を伴いながら【釣竿剣士】と並走していく。
俺が通りすぎたところの魔法陣から火柱が噴き出てきて、まるで爆発する場所を駆け抜けるハリウッド映画のアクションシーンのようになっている。
これで最低限の自衛にはなってくれるとは思うが、不可視の斬撃相手に方向定めて放つことが出来ないし、出来ても威力減退くらいだ。
最後に頼れるのはオールラウンダー、生産プレイヤーの鑑の【釣竿剣士】だけだ。
さあ、露払いは任せたぞ！
「【包丁戦士】さんは、相変わらず要求してくることが多いですよね。
ですがその作戦は実に生産的です、いいでしょう任せてください！
釣竿一刀流【切祓】！
からの釣竿一刀流【渦潮】！」
【釣竿剣士】は迫り来る見えざる斬撃を切り落としたあと、釣竿の持ち方を変えて迎撃ではなく防御の姿勢のまま走破していく。
トーチトワリングの要領で振るわれる釣竿は不規則に放たれてくる不可視の斬撃を次々に打ち落としていっているようで、かなり短いスパンで斬撃と防御がぶつかり合う音が響き渡っている。
これだけ防げるのであれば【釣竿剣士】は師匠相手に善戦しているように見えるが……
「やはり防ぐので精一杯ですね……
私だけでしたらこのままじり貧で確実に負けていました。
ですが、ここには生産プレイヤーとしての仲間【包丁戦士】さんがいます！
生産プレイヤーは足りないものは他で補う……そう教えてくれたのは師匠です、その教えをここで活かさせてもらいますよ！」
【釣竿剣士】の釣竿一刀流【渦潮】によってかすり傷程度で進行出来ている。
これが包丁次元の絆というやつだな。
さあ受けてみろ！
切断に特化した俺の斬撃！
スキル発動！【フィレオ】ォォォォ！！
俺は袈裟斬りで宙に斬撃を刻み込み、その軌道を延伸するかのように飛翔する斬撃が放たれた。
スキルのデメリットによって右足があらぬ方向に飛んでいっているが、この状況で部位欠損なんて些細な問題だ。
これさえ首に当てられたなら！
「これは……見事な斬撃だ……
だが、自分の身を削りすぎたな。
大罪に頼るのではない、儂本来の天候釣竿一刀流の奥義であればその身を削りきれる。
釣竿一刀流【奥義ー空錠】！」
【フィレオ】は急所である首を庇うために差し出された左腕を刈り取ったが、その命まで刈り取ることが出来なかった。
その反撃をするためなのか【釣竿剣士】の師匠が技の宣言し、釣竿を俺に向けてくる。
その瞬間、俺の時間が止まった……
時が……止まった……？
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