494話 師匠戦線(挿し絵あり)
【釣竿剣士】の師匠の放った釣竿一刀流【憂鬱四ノ型ー憂イノ地震】は、手に持った釣竿をただ地面に突き刺しただけの技だった。
それ以外に何かやっていた様子はない。
しかし、俺と【釣竿剣士】がこうやって這いつくばらされているのは、この一帯に大規模の地震が発生したからだ。
このタイミングで偶然地震が起きたとは考えられないし、十中八九【釣竿剣士】の師匠によるものだろう。
「し、師匠……
あなたはどこまで強くなるつもりなんですか!?
これではいつまで経っても私が追いつくことなんて無理じゃないですか……」
【釣竿剣士】は悲痛な叫びで師匠へと語りかける。
生身で天変地異を起こす師匠に追いつこうとする【釣竿剣士】には、師匠の規格外さは重荷なんだろう。
【釣竿剣士】も充分規格外の存在であることは俺もよーく知っているか、流石に天変地異を起こすほどのことは出来ていない。
比べる相手が悪すぎるんだよなぁ。
「儂を越えられる、そう思っていたがやはり無理であったか。
後継者に相応しい者が未だ現れないとは、やはり憂鬱だ」
釣竿によって地震を起こしながら【釣竿剣士】の師匠は物思いに耽りながらそう呟いていた。
強すぎるが故の悩みというやつだが、それで憂鬱の大罪を烙印されたのなら納得はできるチョイスだ。
さて、【釣竿剣士】よ。
こっからどうする?
この釣竿一刀流【憂鬱四ノ型ー憂イノ地震】の弱点とか無いのか?
同じ釣竿一刀流の使い手の【釣竿剣士】なら何か分かったりするんじゃないか。
そう【釣竿剣士】に問いかけると、なんとも言えない表情で口を開いた。
「なんとなくは動きで分かりますが、それでも現実で師匠があんな技を使ったことは見たことがないんですよ。
だから確かなことは言えないですね。
おそらく、大罪【憂鬱】の効果ではじめて使えるようになる技なんでしょうけど……
あれは地脈に元素爆発で直接干渉しているんだと思います、ですから地面に突き刺している釣竿をどうにかすればこの揺れは収まると思いますよ」
「……お前さん、そこはきちんと見抜けたようだな。
だが、儂がそう易々と止めさせるとでも思うか?
釣竿一刀流【二本晴】!」
【釣竿剣士】の師匠は地面に突き刺した釣竿に干渉して、釣竿の形をした炎の塊を手に生成してきた。
しかも、強烈な地震を継続した上でだ。
俺たちは身体を満足に動かせないが、【釣竿剣士】の師匠はこの揺れの中でも自由自在に動けるようだ。
自分で発生させた揺れだからなのか、揺れに対して身体を任せて揺れているので動けるってことか。
……理屈はなんとなく分かっても、出来るかどうかは別だ。
少なくともそんな人間離れしたしたことは俺にはできない。
とりあえずスキル発動!【魚尾砲撃】!
俺は地震で身体をうまく動かせないので、ジェーライトの極太レーザーの力を借りて【釣竿剣士】の師匠に放っていく。
「私もいきますよ!
釣竿一刀流【抜刀斬】!」
「それは通じないと言っているだろう。
釣竿一刀流【居合斬】!」
【釣竿剣士】の師匠は俺の極太レーザーを炎の釣竿で切り裂きながら、必殺速攻の釣竿一刀流の技【抜刀斬】をそれに似た釣竿一刀流の技でカウンターしてきた。
【釣竿剣士】が使った釣竿一刀流【抜刀斬】と【釣竿剣士】の師匠が使った釣竿一刀流【居合斬】は酷似している。
構えも、そこからの斬撃の形もほぼ同じだ。
だが、纏っている力が違うな。
それに、スピードも釣竿一刀流【居合斬】の方が早いっ!?
俺の【魚尾砲撃】と【釣竿剣士】の釣竿一刀流【抜刀斬】を同時に防げるやつなんて俺の次元にいるやつだとタンク系プレイヤーの【トランポリン守兵】お嬢様くらいしか思いつかない。
「くっ、釣竿一刀流【石砕き】です!」
「釣竿一刀流【岩砕き】!」
再度【釣竿剣士】と【釣竿剣士】の師匠は酷似した動作で技をぶつけ合っている。
やはり【釣竿剣士】が圧されているが、【釣竿剣士】に注意が向かっているから今がチャンスだろう。
スキル発動!【波状風流】!
【スキルチェイン【天元顕現権限】【波状風流】】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
俺は流動の力を司るスキル【波状風流】で周囲にスプリンクラーのようなものを設置していく。
スキルチェインをしない状態でこのスキルを使うとスプリンクラーが破壊されるまで他のスキルを使えなくなるのだか、聖獣スキルは【天元顕現権限】とスキルチェインさせると性能が大幅に変化する。
もちろん、【波状風流】も例外ではない。
スプリンクラーが生成されるのは変わりないが、風量が増加し俺の身体が風の鎧に包まれながら飛翔する。
身体を揺れによって上手く動かせず、スキルによる飛行のためのふんばりが出来なかったが、流動のスプリンクラーによる補助によって飛び立つことが再び可能になったのだ。
迫り来る俺に対して【釣竿剣士】の師匠は釣竿一刀流【居合斬】の矛先を合わせてきて、どてっぱらを切り裂いてきた。
攻撃の姿勢に移行していた俺はそのままあっけなく炎の釣竿の餌食となり死に戻りを……
「なんだと……っ!?」
するわけないだろ!!
【波状風流】によって一度限りの防御の風鎧に纏われていたので、【釣竿剣士】の師匠による斬撃をスキルによって受け止めながら俺は包丁による斬撃を左肩に命中させることに成功した。
「【包丁戦士】さんっ!
このまま追撃です!
釣竿一刀流【怪力】!」
【釣竿剣士】は滅多に使わない技、釣竿一刀流【怪力】によって純粋な筋力を増加させた斬撃を放ちさらにだめ押しでダメージを与えていく。
これは斬撃が特殊になるわけではないので、相手に明確な隙がない限りは使われない釣竿一刀流の技なのだ。
「さあ、師匠!
観念してください!」
「観念……?
ふっ、お前さん面白いことを言うようになったな。
ここからが最終局面の幕開けだ」
なに、まだ奥の手があるのかよ……
手負いにできたが、どれだけの大技が来るって言うんだ……
これ以上の技、ですか……
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