491話 チビつりけん
「釣竿一刀流!【抜刀斬】です!」
「これはまだ進化していないか。
それでは儂には勝てないぞ、釣竿一刀流【居合斬】!」
私は釣竿を鞘に仕舞い直して、腰を屈めて抜刀の構えを取りました。
本来なら私の初動として使う技ですが、仕切り直して師匠との距離を取ったので場の流れをリセットするためにこの技を選びました。
包丁次元のその辺りにいるプレイヤーたち相手であれば、この構えを見ただけで諦めてくれるほど初動で使うのに愛用しています。
ですが、私の今の相手は師匠です。
私の構えに怯むことなく、私と鏡写しのように同じ構えで立ち塞がってきました。
この構えは釣竿一刀流【居合斬】……私が放とうとしている釣竿一刀流【抜刀斬】の上位互換、つまりは進化系です!
同じ構えから放たれた抜刀術はお互いの領域に干渉し合う瀬戸際でぶつかり合い、ぶつかった瞬間に風圧で地面から砂埃が舞い始めた。
私が放ったものは俊速の太刀筋だったと自負していますが、師匠はそれ以上……神速の太刀筋で私の釣竿を弾いて仰け反らせてきました。
「やはりこうなったか。
進化していないお前さんの秘伝釣竿一刀流では儂には敵わんよ。
例え進化していても、技量の差で儂が勝つとは思うがな」
「くっ、この隙は不味いですね!?
釣竿一刀流っ【」
「遅い!
釣竿一刀流【砂荒】!」
私が仰け反った隙を易々と見逃してくれる師匠ではないので、即座に守りの釣竿一刀流の技を使って防御を固めようとしましたが師匠の方が一手早かったみたいですっ……
師匠の放った釣竿一刀流【砂荒】は地面を断ち斬りながら切り上げる豪快な技です。
地面を経由する太刀筋で、かつ、師匠が砂と風を元素爆発させているので視界をより悪くしていっています。
振るわれた釣竿の通りすぎた場所には砂嵐が発生しているため、私がその攻撃に合わせにいこうとしても正確な軌道が見えなくて対応できません。
流石は生産プレイヤーの師匠……産み出しながら戦うことにかけては天下無双です……
「ふっ、他愛もないな。
やはりお前さんが儂に勝とうなど十年早い!」
師匠の釣竿一刀流【砂荒】による一撃を直撃してしまった私は一目散に後退して追撃を避けました。
ですが、ここに来て大きいダメージを受けてしまったのは本当に辛いです……
「まだまだいかせてもらおう。
釣竿一刀流【氷霰】!」
師匠は砂と風の元素爆発を中断して、今度は氷を操り始めました。
師匠が釣竿を振るうと、釣糸の先に取り付けられているルアーが通った場所から氷の礫のようなものが次々に生成されていっています。
一つ一つは小さな粒のようなものなので一つぶつかったところでダメージは少ないですが、氷の礫の生成は止まることなくされているので対処しきれません。
「考えるのは後で、とりあえず凌がないといけませんよね……
釣竿一刀流【石砕き】!」
私はオブジェクト破壊に長けた釣竿一刀流【石砕き】で師匠が飛ばしてくる氷の礫を砕いていきます。
弾幕を張るかのように次々と生成されては私に向かってくる氷の礫は、水矢魚とは違って砕けたとしてもその破片が私の身体を蝕んできます。
その場しのぎとして考えるのならそれなりに防げていますが、生産プレイヤーとして対局を見据えるのなら、ダメージを蓄積させ続けている今の状況は負けに近寄っていっていると断言できるでしょう……
不味いですね……
「こうなれば、私がこのゲームで培った絆の現れ……生産アイテムの力を借ります!!!
称号【同好氏族の纏め役】をセット!
【クランリーダー権限】の起動!さらにスイッチ!
称号【玄冬の生産職人】をセット!
【クラフトマイスター権限】起動!
【狩人の甲羅籠手】っ!!!
みんなで作り上げたあなたの力を貸してください!!」
【Warning!】
【志を同じくする者たちよ】
【集いて立ち上がれ!】
【【クランリーダー】権限によりクランメンバー召集!】
【【釣竿剣士】のクランメンバー【狩人の甲羅籠手】に宿る【ウー】が召集に応じました】
【Warning!】
【創り上げるのは玄冬に属するもの】
【玄き極寒に属するものこそ美しい】
【【クラフトマイスター】権限によりクランメンバーの連続錬成!】
【【釣竿剣士】のクランメンバー【狩人の甲羅籠手】に宿る【グウ】【ウイ】が連続生成され召集に応じました】
「なんと面妖なっ!?
お前さんが三人増えたとな!?
……いや、二頭身という愛らしい姿でこそあるが、それでも面妖なことには変わらないか」
師匠が珍しく私のやったことに対して驚いています!
これには久々のしてやったりという感覚を覚えました。
私が2つの権限と【狩人の甲羅籠手】を使って呼び出したのは、【ウプシロン】討伐戦で戦い戦場で絆を培った【ウプシロン】の配下……クランメンバーの魂を宿した私の人形のようなものです。
二頭身の姿ですが、私の身体能力を参照しているので他のプレイヤーたちと比べれば体格の差を無視できるスペックです、生産プレイヤーですから当然ですけど。
見た目はチビ【釣竿剣士】と言ってもいいですし、私がデフォルメされた姿ですが一つ違うのは【ウプシロン】の配下だからなのか、亀の甲羅のようなものを背負っていることです。
ガードが固いに越したことはないので、一緒に頑張りましょう!
「この娘たちと師匠に立ち向かいます!
まだ私だけでは勝てませんが、生産プレイヤーとして足りないものは作って補えばいいんです!
さあ、いきますよ!
釣竿一刀流【斬祓】!
【ウー】は釣竿一刀流【発光】、【グウ】は釣竿一刀流【飛翔】、【ウイ】は釣竿一刀流【渦潮】をお願いします!」
私は釣竿を高速振動させて師匠の元素爆発に相性のいい釣竿一刀流【斬祓】で凪ぎ払っていきます。
それと同時にチビ【釣竿剣士】の三人たちには補助系統の釣竿一刀流を使ってもらいました。
【狩人の甲羅籠手】のゲージをためるのがかなり手間で、1人に1つの釣竿一刀流しか教えられなかったのでこれが今の精一杯ですが、師匠の意表はつけたはず!
【ウー】は釣竿一刀流【発光】で目眩まし、【グウ】は釣竿一刀流【飛翔】で飛びながら上空の氷の礫を破壊、【ウイ】は釣竿一刀流【渦潮】で私の近くに迫ってきた氷の礫から私を守ってくれています。
そして、私自身は氷の礫の発生源である師匠へと斬りかかっていきました。
師匠は氷の礫を発生させながらも、凪ぎはらいからの流れるような切り上げで私の斬撃を防いできました。
それに対して私は頭の後ろに構えた両手を相手頭上まで瞬時に展開して、そのまま斬り下ろすものである斬撃……真っ向斬りでさらに攻め立てていきます!
この斬撃は【包丁戦士】さんの身長では効果的に扱えないのであまり見慣れないものだとは思いますが、私であれば問題なく扱えます。
チビ【釣竿剣士】たちの力も借りてようやく私からも攻められるようになってきましたし、これからが本当の勝負ですよ!
「生産的人間である儂が見るに、時間との戦いであろうが……
これであれば、あるいは……」
権限の二重発動を無駄なく使いこなすとは……
やはり、ただの底辺種族ではないですね。
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