490話 師弟コミュニケーション
「いくのだぁぁぁ!!!!
スキル発動!【海底撈月】なのだ!」
夢魔たこすがスキルを発動して蛸足を発光させていく。
激しく点滅しながら発光する蛸足は不気味というよりも、危険物のように見えて近寄りがたい感じになっている。
そんな蛸足をアンカーに絡ませていくが、そこから夢魔たこすは動いていない。
その様子を見た石動故智は夢魔たこすの発動したスキルにはタメが必要なものだと判断し、それを好機として赤く光るピッケルを力一杯地面に突き立てた。
石動故智の放った【紅石鉱山】によって赤色に光ったピッケルを地面に振り下ろすと、そこからルビーのような鉱石が生え始め、夢魔たこすに向かって伸び始めていった。
鉱石は生み出されると同時に他の鉱石と結合し大きくなっていき、見た者がまるで山かと思ってしまうほどの質量となりながら発光する夢魔たこすを呑み込まんと迫っていく。
そして、今にも夢魔たこすが赤色の鉱石の山に呑み込まれようとした直前、これまで動かなかった夢魔たこすに動きが見えた。
「ギ、ギリギリだったのだっ!?
【海底撈月】、発射なのだ!」
夢魔たこすのアンカーから溢れ出る光の奔流が、広がっていく。
アンカーの形を象るような光が形成されていき、それが巨大なアンカーとして振るわれて赤色の鉱石の山々を削岩しはじめた。
鉱石の増殖とアンカーによる削岩が拮抗している。
削れては増え、増えては削れるという千日手を繰り返すかのような激しい攻防が繰り広げられ始めた。
「し、師匠……
まさかこのゲーム内で遭遇するとは思っていなかったですよ」
「儂もお前さんと戦うことになるとは思ってはいなかったがな。
修行をほっぽり出して何をやっているのやらと思えば、まさか『これ』に関わっているとは……
これも何の因果か……」
私の前に立ち塞がり釣竿一刀流【雨乞】による射撃で矢の雨を降らせてきているのは現実世界での私の師匠です。
師匠に隠れてこっそり修行するつもりが、まさかこんなところで見つかってしまうなんて予想外でした……
でも、せっかく普段とは違う環境での戦いなんですから、いつもは歯が立たない師匠にも一矢は報いれる……かもしれません。
今は師匠の釣竿一刀流【雨乞】を私の釣竿一刀流【渦潮】で防げていますが、このまま易々と防がせ続けてくれるとは思えません。
師匠はそんな甘い人じゃないですから。
「そろそろ儂の周りにはお前さんしかプレイヤーがいなくなった頃合いであろう。
そろそろ周りを巻き込む技にしていく、覚悟して刮目せよ!
釣竿一刀流【二本晴】!」
師匠は水矢魚を創造するのを止めて次の技を使い始めました。
次に生み出してきたのは……釣竿の形をした炎です。
それを、釣竿を持っていない側の手で握りチュートリアル武器の釣竿と合わせて双剣のように構えています。
「流石は師匠っ!?
炎の釣竿を生み出すとはっ!?」
「当然であろう、生産的人間なら!
お前さんも早く儂のような生産的人間になれると良いのだが、まだまだ青いな……」
生産的人間……言い換えるのであれば生産プレイヤーである師匠は、持ち前の異能力で元素爆発を起こし固体として形にすることができるのです。
私の異能力とは少し違いますけど、それでも方向性が似ているからこの人が私の師匠になってくれたのです。
そんな師匠の釣竿一刀流【二本晴】ですが、一刀流という名に反して双剣を扱うように私に向かって連続攻撃を放ち始めました。
炎の具現化によって生み出された釣竿と、釣竿一刀流【雨乞】によって水を纏ったチュートリアル武器の釣竿という性質の違う属性で連続で攻めてているので対処が難しいです……
「ですが、私を次元戦争に誘ってくれた【包丁戦士】さんの手前、引くわけにはいきません!
生産プレイヤーとして、師匠をここで食い止めます!
釣竿一刀流【斬祓】です!」
私は釣竿を扇状に高速振動させて、鉄扇を振るい舞いを踊るかのように炎と水の双釣竿と打ち合っていきます。
技術的には私の方が格下ですが、それでもこの釣竿一刀流【斬祓】は師匠の元素爆発による具現化物質と相性が良かったりします!
具現化した元素を切り裂けますからね。
これで対抗していきますよ!
「相変わらず、儂の技と打ち合える【斬祓】は完成度が高い……いや、上がっているな!
お前さん、この技を実戦で使うことで熟練度を上げたのか……
『これ』も弟子には役立っていると思うと考えものか。
だが、それで儂に勝てるとは思わないことだ!」
炎と水の双釣竿と扇状に高速振動する釣竿をぶつけ合い、師匠と私は手を休めることなく次から次へと鍛え上げられた斬撃を放つ。
荒々しく放たれる炎と水の実直な剣技と、舞うように放たれる扇による剣舞は対称的ではありますがそれでも同じ釣竿一刀流の技です。
私の方が相性が良くとも型は師匠が開祖であるので、どうしても一歩先読みされてしまいます。
結果として、毎回出遅れる形になっているので攻撃を打ち合えば打ち合うほど徐々にですけど私が圧されていっています。
ううん……やはり今まで私が習得してきた釣竿一刀流だけでは、師匠に手の内がバレバレで分が悪いですね……
さて、どうしたものでしょうか……
他の次元にも釣竿一刀流の使い手がいたのですね……
この一門は本当に底辺種族離れしてますね……
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