489話 戦場の変遷
さて、パジャマロリは無敵モードで寝てるし、牛乳パフェは死んだ。
俺の今の相手は青羽織のおっさんだけ……うん、シンプルでいいじゃないか!
「……」
俺の呟きに頷くように青羽織のおっさんも反応してきた。
こいつ、今までの様子からしてバトルジャンキーっぽいぞ。
俺好みの相手だ!
……別に俺の男の趣味がおっさんというわけではない、【槌鍛冶士】もおっさんだし、【短弓射手】もおじさんだが俺に付きまとってきているだけだ。
「……」
周りに警戒する相手が減ったからか、青羽織のおっさんは警戒域を縮め居合いの構えから日本刀を下段の構えに変更して摺り足でにじり寄ってきた。
下段の構えとは刀の剣先を水平より少し下げた構え方で、守りに重点を置いた構えだ。
機敏に動くことは難しいが、日本刀を構え続けると腕に負担がかかるため隙も出来やすいがこの下段の構えであればその隙を生み出しにくい。
俺の速攻に対しての返答がこの下段の構えということだな。
つまり、俺の攻撃を誘っているってことだが……
面白い、受けてたとうじゃないか!
俺は黄金色の翼による瞬発力を利用して青羽織のおっさんの左肩を狙って包丁を振り下ろしていく。
さっきも何度か袈裟斬りを放ったのにまた袈裟斬りでは芸がないとは自分でも思うが、この手合いのやつに俺の十八番を一撃くらわせてやりたいという欲が出てきてしまった。
「……!」
翼による加速のおかげで人間離れしたスピードで迫り包丁を振り下ろしたが、下段の構えを取っていた青羽織のおっさんは俺の包丁が描くはずだった軌道の逆から日本刀を振り上げてきた。
これは逆袈裟斬り!?
ちっ、やるじゃないか!
俺は攻撃を弾かれた勢いを利用して再度距離を取り直す。
すると、さっきまで俺がいたところに日本刀による袈裟斬りが放たれていた。
一歩遅ければ俺はその刃の餌食となっていただろう。
こわっ……
「……」
……失念していたわけじゃないが、下段の構えから最も放ちやすい斬撃は逆袈裟斬りだ。
俺がよく放つ上からの斬撃である袈裟斬りを下から切り上げる形で、相手の右腰辺りから左肩に向けて切り裂くものだな。
いくら俺が袈裟斬りを何度か披露していたとはいえ、ここまで完璧に合わせてこられるとは流石は2位の次元にいるプレイヤーだ。
無言スキルよりも、この堅実な力がスキルを使った戦闘の素養となっているのだろう。
ここから先はさらにスピードを上げていかないとな!
スキル発動!【波状風流】!
【スキルチェイン【天元顕現権限】【波状風流】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
流動の力を発揮した瞬間、俺は風となった。
「そろそろコッチに屈してくれてもいいんじゃないかな。
はやく【釣竿剣士】ちゃんの助っ人に行きたいんだけど。
スキル発動!【スマッシュ】!」
「むむっ!
たこすちゃんは負ける気なんてさらさらないのだ!
そっちこそはやく死に戻りするのだ!
スキル発動!【スマッシュ】なのだ!」
石動故智はピッケルに、夢魔たこすはアンカーにスキルの力をのせてもはや何度目か分からない激突を行った。
衝撃を発生させるスキル同士の激突は、双方への負担を徐々に蓄積させていっており、動きは精彩に欠けていっている。
【スマッシュ】のノックバック性能によって二人とも背後に吹き飛ばされていき、生えていた木に打ち付けられた。
「さっきからこればっかりなのだ……
流石に疲れてきたのだ……」
「コッチもそうだよ。
同じスキルで、コッチはレベル2なのになんで互角なのかは気になるけど、このままだと共倒れだね」
石動故智は被っているヘルメットの位置を直しながら、夢魔たこすは手に持ったアンカーの鎖をジャラジャラと玩びながらそう呟いた。
「たこすちゃんは上位種族にさらに転生したのだ!
つまり、実質レベル2みたいなものなのだ!」
「……本当にそういうものなのかは分からないけど、納得はできる話だね。
それならやっぱり同じスキルよりも、種族固有スキルで勝負した方が面白いかもね。
コッチの採掘で鍛えたドワーフ種族のスキルたちでたこすちゃんも採掘してあげようか、掘り尽くしてあげるよ」
石動故智はピッケルを夢魔たこすに向けて堂々とした勝利宣言をした。
その自信は、これまで何度も打ち合ったスキル【スマッシュ】のぶつかり合いの中で感じた夢魔たこすの身体運びから判断してのことだった。
一つ一つ豪快な動きを得意としており、押せ押せで攻めてくるスタイルだったのだが石動故智はそこに攻め入る隙を感じたのだ。
「【包丁戦士】相手に取っておきたかったけど、このままだと負けちゃうのだ……
本当は嫌だけどそろそろ本気でいくのだ!
スキル発動!【深海顕現権限】なのだ!」
夢魔たこすがスキルを発動させると、左腕が水の塊に包み込まれた。
そしてそこから枝分かれするように触手が生えてきた。
この夢魔たこすが生やしてきた蛸足は薄い赤色……茶色に近いが……で吸盤がついており本物の蛸足そのものだった。
「これはまた、奇妙なスキルを隠し持っていたんだね。
でもタコが海の生き物なら、ドワーフは山の生き物だから海よりも山派のコッチとしてはより一層負けたくなくなってきたよ。
スキル発動!【紅石鉱山】!」
石動故智がスキルを発動するとピッケルが赤い光に包み込まれていく。
それはどちらの勝利になるかは分からないが、これから訪れる戦闘の終幕への兆しであると相対する二人は胸の中で覚悟を決めていた。
戦場が移り変わったり、変わらなかったりする……
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