487話 必殺の間合い
「【涸沢之蛇】が遅くなっても牛乳パフェお兄さんには負けないよっ!
いっけ~!」
マキは力任せに巨大な蛇と化した蛇腹剣を振り回し周囲を凪ぎ払っていく。
そんな台風のような質量に直接さらされてしまえば、一般的なプレイヤーでは再起不能になることは必至だ。
不用意に近寄るのは危険だと判断した牛乳パフェは全力で後退し、蛇腹剣に振り回されていてすぐにはマキが追ってこれないことを把握したあとに、一度戦況を再確認するために辺りを見渡した。
すると、牛乳パフェと一緒についてきていた釣竿次元の日本刀使いの男が【包丁戦士】の放ったスキルによる攻撃に包囲されていることに気がついた。
「ウゲゲっ!?
あれはピンチだぞ!?
ここであいつに死なれるとおれの方に【包丁戦士】が来るから、それは阻止しないといけないぞ!
こうなれば、望遠鏡を通して雷眼をあっちに届けるしかないぞ!
【封龍雷眼】っ、届いてほしいぞっ!」
射程範囲であることを祈りながら望遠鏡を覗き込むと、余裕をもって発動中の雷眼……スキル【封龍雷眼】の雷を【包丁戦士】の放った粒子の集団に撃ち込むことに成功した。
「ケケッ!
やったぞ!!ザマーみろだぞ!
……これであのおっさん大丈夫だといいけど」
【包丁戦士】の方を見てニヤニヤした表情を見せつけると、再度マキの方に顔を向け直して望遠鏡を構える。
「こら~!
牛乳パフェお兄さんっ、うちがぐるぐる回っててすぐに動けないからって、よそ見するな~!
スキル発動!【火流煙硝】!!」
マキがスキルの発動を宣言すると、【涸沢之蛇】の口から赤い炎が煙と共に吐き出され始めた。
回転するように振り回している【涸沢之蛇】の周囲は吐き出された炎と煙に包まれてどんどん過酷な戦場へと変化していっている。
「ウゲゲっ!?
地味にダメージ受けてるぞ!?
これはスリップダメージ……?
ん?タイミングによってダメージ量が違うぞ……
もしや、二種類のスリップダメージを同時に与えにきていた!?」
「へへん!
デバフは牛乳パフェお兄さんだけの専売特許ってわけじゃないんだよ~!
うちも二重にデバフ受けてるけど、これで少しマシになったかな~?」
デバフに関してはMVPプレイヤーで一番知識のある牛乳パフェは、十秒ほどで炎が飛び火するタイミングでのダメージと、煙による恒常的なダメージの二種類のタイミングでダメージが発生していることを確認した。
「ケケッ!
おれにデバフで勝負を挑むとはいい度胸だぞメスガキィィィィ!」
「……」
天子の翼とのスキルチェイン【渡月伝心】によって多少ダメージを与えることはできたが、牛乳パフェの妨害によって中途半端に終わってしまった。
そして、青羽織のおっさんは一度大幅に後退して体勢を整え直してきた。
これで仕切り直しというわけだな。
後退した青羽織のおっさんは日本刀を鞘に納刀し、腰を落とし膝を深く曲げてどっしりと構えを取っていた。
俺はプレイヤーキラーだから殺気の飛んでいる範囲がだいたいわかるんだが、間合いを見るに青羽織のおっさんから半径三メートルの円を描くように警戒しているのが分かった。
こいつ、やっぱり手練れだな……
前方三メートルだけなら普通なんだが、こいつは今俺がいる正面だけではなく背後や真横も含めた円状に警戒域を巡らせている。
個人戦ならそこまで警戒する必要は全く必要ないんだが、今行われているのは団体戦の次元戦争だ。
いついかなるときにも思いもよらない方向から攻撃が来る可能性は孕んでいる。
実際、さっき俺が牛乳パフェに攻撃を妨害されたばっかりだから説得力はあるだろう?
そこまで考慮しているこいつは集団戦の経験が豊富なんだろう。
俺もプレイヤーキラーとして多くの相手を同時に相手にする機会は多いが、俺と同等くらいに乱戦も得意そうだ。
俺は青羽織のおっさんの間合いの外から試しにジェー素材の鞭で攻撃を仕掛けてみる。
風を切りながらしなる鞭は捉えどころのない軌道で青羽織のおっさんを打ちつけようと迫っていく。
「……」
そして、俺が殺気の範囲から仮定したエリアに鞭が侵入した瞬間、鞭は切断こそされなかったものの、日本刀によって弾き返されてしまった。
ひゅ~、ノータイムでそんな鋭い斬撃が出切るのかよ!
これは最高のディナータイムの始まりじゃないか!
胸が踊るな!!!
俺は悲しいことに物理的には踊る要素すらない断崖絶壁の胸を、心理的には弾ませながら包丁を手の中でクルクルと回しながらどうやってあの殺気の範囲に入り込み、あいつの血肉をこの包丁に喰らわせられるのか思案する。
まずは、遠距離攻撃であの警戒域を崩すところからだろうが……
どの手段で攻めいったものか。
スキル、アイテム、武器方法は色々あるがあの必殺の空間を突破できるものとなると……
いや、待てよ……
あれなら対応を忙しなくさせることができるか!
劣化天子がどんな手段を思いついたのか見ものですね。
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