486話 雷眼まき
「いた~いっ!
も~、牛乳パフェお兄さん酷いじゃん」
「ケケッ!
散々おれを煽ってくれたからそのお返しだぞ!
だが、まだまだ今までの次元戦争の分も一気にお返しさせてもらうぞ!」
「そんなことさせないよ~だ!
スキル発動!【真名解放】!
そして、うちの蛇腹剣の真名を教えてあげる。
【修練武器上位解放】【涸沢之蛇】だよ~!」
マキがスキルを発動すると、手に持っていた蛇腹剣が形を変えていく。
蛇腹剣は元々物々しい、幼女には手に余るサイズの武器だったが、姿を変えた蛇腹剣は剣の先端に蛇の頭のようなものがつき、剣のサイズも5メートルくらいの巨体になっていた。
緑色の鱗のような刀身の蛇は、うねりながら敵対する奇妙な格好の男である牛乳パフェを睨んでいる。
蛇にらみという言葉を連想させる、強者が弱者を見下ろす構図がそこには生み出されていた。
「ゲゲッ……
もうそのスキル切ってきたのか!?
もしかして、短期決戦にするつもりみたいなんだぞ!?」
「もちろんそのつもりだよ~
だって牛乳パフェお兄さん、今回の次元戦争だと一番弱いから時間かけてられないんだよっ!」
マキはそう言って巨大化して蛇のようになった蛇腹剣を牛乳パフェへと振り下ろしていく。
流石に幼女であるマキには大きすぎるのか、武器を振り回しているというよりは、武器に振り回されているという表現がピッタリである。
それでも、狙った先である牛乳パフェへと蛇行しながら刀身が向かっていく。
一方、マキの侮るような言葉に怒りの表情を浮かべ、青筋を立てている牛乳パフェはまるで鬼の形相と言っても過言ではないだろう。
「ケケッ!
このメスガキがぁ!
その図体だけデカイ蛇もろともケチョンケチョンにしてやるぞ!
スキル発動!【封龍雷眼】!」
牛乳パフェは新たな魔眼スキルを起動して、左眼から雷をチラチラとちらつかせるようになった。
そして、そのまま視線をマキのチュートリアル武器である蛇腹剣の【涸沢之蛇】に取りついた頭へ向けていく。
すると、蛇に雷が纏わりつき動きが鈍くなってきた。
「なになに~!?
牛乳パフェお兄さん新スキルも魔眼なんだっ!?
【涸沢之蛇】の動きが遅くなっちゃったよ~」
「ケケッ!
これだけ遅くなれば回避は余裕だぞ!
この魔眼は【封龍雷眼】!
視たものを麻痺させるんだぞ!」
「も~!!
牛乳パフェお兄さんの癖に生意気~!!」
「……」
相変わらずこの青羽織のおっさんがスキル【巌亀開花】を無言で放ってきていて、間合いがつめにくく苦戦している。
ええい、出し惜しみは不要だ!
スキル発動!【天元顕現権限】!
俺は左肩付近から黄金色の翼を出現させて、身に秘めた天子としての力を増幅していく。
沸き上がる神聖なエネルギーが、俺を鼓舞するように纏わりついてきた。
この天子の翼で俺は浮かび上がり、その推進力を使い青羽織のおっさんへと急接近していく。
目の前に相手の顔が迫るタイミングで俺は包丁を右上から左下へと振り下ろすのを軌道の予定として、斬撃の十八番である袈裟斬りを放った。
これなら日本刀による受け止めが間に合わないはず!
今、日本刀の刃は地面に向かって振り下ろした直後であり、その刃の向きを上方向に向けて包丁を受け止めるのはこの距離では無理だろう。
その考えから包丁が青羽織のおっさんの右肩を喰らうと思われたが、意外なことに刃を上向けて受け止めるのではなく日本刀の柄をそのまま地面に垂直で持ち上げて紙一重で袈裟斬りを弾いてきたのだ。
くそっ、こいつスキルの使い方も上手いがそれ以上に素の戦闘技量が高すぎるぞ!?
ゲームでのにわか仕込みってわけじゃなくて、本格的な戦闘の中で刀を日常的に扱っているものの動きだ。
邪道剣術もいいところだが、咄嗟の行動で柔軟な動きができるのは移り行く戦況には対応してきやすいから厄介だ。
袈裟斬りは弾かれてしまったがまだ超近接距離にいるんだ、追撃の手を緩めるわけにはいかない。
スキル発動!【渡月伝心】!
【スキルチェイン【天元顕現権限】【渡月伝心】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
俺の黄金色の翼から溢れる力を【渡月伝心】に乗せると、俺が振りかざした包丁から金色の光が円環を形作り力を集約していく。
そして円環が青羽織のおっさんを取り囲んでいい、その身を切り刻もうと収縮を開始した。
「……」
そんな俺のスキルチェイン【渡月伝心】に対して青羽織のおっさんは、無言でバリアのようなものを展開してきた。
ドーム状に展開されたように見えたが、よく見ると「く」の字のように歪曲している。
いや、これは三日月っ!?
ってことはこれは伝播の力のスキル【月下心裏】か!
多くの次元が保有する防御用スキルだが、またしてもお目にかかることになるとはな。
だが、同じ伝播の力のスキルなら、天子の翼によって増幅された俺の方が上手だっ!
くらえっ!
俺の放った粒子たちは次々にバリアを分解していき、青羽織のおっさんに直撃していく。
だが、少し粒子が当たり始めたところで俺の背後から何かが飛んできて粒子たちの動きが鈍くなり次々と地面へと落下していき、消滅していった。
くそっ、千載一遇のチャンスを少しのダメージだけで流されてしまったっ!?
一体どこから邪魔が入ったのか確認すると、パジャマロリと対峙していたはずの牛乳パフェが眼に雷のようなものをちらつかせながら望遠鏡越しにニヤニヤしてこっちをチラ見しているのを俺は見てしまった。
あいつ、余計なことをっ!!!!
炎眼や邪眼とは違う、また別の魔眼スキルかよ……
遠距離支援タイプのデバフを使えるプレイヤーは自身が直接戦力になりにくい場合でも、戦況を大きく左右するものです。
劣化天子、判断を誤りましたね……
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