484話 大乱闘スマッシュシスターズ
「ケケッ!
おれの策略に引っ掛かったようだぞ!
前回は【包丁戦士】相手に不覚をとったが、これが本来のおれの戦い方だぞ!」
「流石牛乳パフェ!
性格も口調も作戦も汚いのだ!」
「……」
俺たちを囲んだうちの一人は赤みのかかったピンク色のボブカットの少女だ。
白いワンピースにカラフルな花柄がついていて、いかにも元気そうな少女だってことが伝わってくる服装だ。
そして、注目すべきは頭の上に生えているアホ毛。
なんか、このたこすちゃん(?)が動く度に連動してピコピコ動いている。
もはや別の生き物と言ってもいいくらい主張してくるから嫌でも目についてしまう。
さらに、目につくのは肩にかけられた大きな錨…思い返してみるとアンカーだ。
持ち手周辺にチェーンがついていて、それを引き摺りながら現れたので小柄な見た目とのギャップがインパクトとして残るだろう。
こいつはアンカー次元のMVPプレイヤー、夢魔たこすだ。
そして、もう一人は日本刀を構えた壮年の男だ。
青い羽織に黒い帯を巻き、高下駄を履いている和風なプレイヤーだな。
初期のミューンを思わせるような無口っぷりで、登場してから何も喋っていない。
だが、その鋭い眼光は見るものを怯ませるほどの切れ味だ。
なんというか重みがある。
「もー!
囲まれちゃったよ~!くやし~!」
「コッチとしてもこの展開は予想外だったね。
最初からこの陣形はピンチだよ」
「ちょっと待ってください!?
明らかにおかしいです!
ここに釣竿の使い手がいない……?
いや、この局面で全員揃っていないのは生産的じゃないですが……
これはもしや……っ!?
皆さん伏せてくださいっ、釣竿一刀流【渦潮】!」
何かを察した【釣竿剣士】が大声で指示を出してきたので、戦闘体勢を崩さない程度に屈んでおく。
そこにまるで矢のごとく飛翔してきたのは魚だ。
……!?
その魚はただの魚ではなく、水で形成されていたもののようで【釣竿剣士】の釣竿一刀流【渦潮】によって霧散していったが雨のように次から次へと飛んでくる。
「【釣竿剣士】ちゃん、これにいち早く気づいてみたいだけどこの攻撃方法を知ってたのかな。
なんとなくそんな感じがしたよ」
石動故智は自分のところに飛んできた水矢魚をピッケルで叩き落としながら【釣竿剣士】に問いかけている。
その問いに対して【釣竿剣士】は苦悶の表情を浮かべながら口を開いた。
「これは……釣竿一刀流【雨乞】です。
自分のイメージした物の形の水を釣竿を弓のようにして放つ大技です!
そしてやはり、私の生産プレイヤーとしての勘は正しかったようですね!
そうでしょう、師匠!!!」
その言葉の返答の代わりに、釣竿一刀流【雨乞】による飛んでくる水矢魚の勢いが増してきた。
パジャマロリは蛇腹剣を振り回し面による防御で凌ぎ、石動故智はピッケルで撃ち落としている。
【釣竿剣士】は釣竿一刀流【渦潮】による防御、そして肝心の俺は……包丁の腹による受け流しだ!
「ケケッ!
このまま押しきるぞ!
もう一回スキル発動!【彩鳥炎眼】!」
「たこすちゃんも追撃するのだ!
スキル発動!【スマッシュ】なのだ!」
敵陣営のMVPプレイヤーの牛乳パフェと夢魔たこすの二人はそれぞれスキルを発動して、取り囲まれている俺たちを一網打尽にしようとしてきた。
「こうなったら一度離脱するしかないですね……
このままここで戦うには戦況が悪すぎます。
だから敵を散らすために二手に分かれましょう、それが生産的だと思いますから!」
【釣竿剣士】がこの絶望的状況からの離脱を宣言した。
こういうところで合理的判断ができるのは【釣竿剣士】のいいところだな。
俺としても、このペースだと体力を削り取られるだけだから大賛成だ!
遠距離攻撃主体の敵が二人いるのは救いようがない状態だからな。
さっ、はやく撤退撤退!
「とりあえず、【釣竿剣士】ちゃんとコッチは右に逃げて夢魔たこすちゃんを引き付けて逃げるよ。
そのためにもこの攻撃を相殺するよ、スキル発動!【スマッシュ】!」
「同じスキルなのだ!?」
夢魔たこすと石動故智の放った衝撃を与えるスキル【スマッシュ】が激突し、お互いに吹っ飛ばされていく。
ぶつかり合うことで、周囲に鈍い音が響き渡っていった。
どうやらアンカーとピッケルという重量の差はあったが、生まれた衝撃は同等だったようだな。
そして、石動故智は吹っ飛ばされていきながらちゃっかり戦線離脱に成功したようだ。
それに追随して【釣竿剣士】もバケモノ染みた動きで逃げていく。
【釣竿剣士】の師匠による釣竿一刀流【雨乞】の水矢魚の追撃も止むことはないが、堅実に守りながら走破していっているな。
「ゲゲッ!?
こっちも逃げられてるぞ!?」
その様子を眺めていた牛乳パフェの目を盗んで、俺とパジャマロリも逆方向に逃げ延びることに成功した。
牛乳パフェはかなり抜けているところがあるから、隙さえ作ってしまえばプレイヤーキラーである俺には容易い逃走劇だ
まあ、もちろん石動故智による【スマッシュ】の相殺というインパクトのある出来事がなかったらそんな隙も生まれなかっただろうから、あの高身長女騎士にあとで感謝しておかないとな。
「やったね変態お姉さんっ!
なんとかあの牛乳パフェたちから逃げれたみたいだよ~」
いや、そうとも限らないぞ?
俺たちはMVPプレイヤーたちが勢揃いしていた場から離れた場所まで駆けてきたが、俺たちを追跡する足音が沼地を経由して伝わってきている。
俺はプレイヤーキラーだからな、来ると分かってる相手なら細かいヒントだけでも大体いる場所が分かったりする。
こっちに向かってきている足音は……2つだな!
相手の陣形も崩れているし、それならまともな戦いができそうだ。
とりあえず、ここで迎え撃つぞ!
「面倒だけどやるしかないよね~
牛乳パフェお兄さんが来てくれてたらうちが余裕に応戦できるけど、どうなるだろうねっ!」
このパジャマロリに侮られ続けている牛乳パフェに、若干同情してきているのは秘密だ。
あいつ、MVPプレイヤーなだけあって、言うほど弱くなかったはずなんだがなぁ……
底辺種族【釣竿剣士】の機転でどうにか危機は脱出できましたか……
ですが、ここまで来てようやく戦いの舞台をイーブンにしただけということを忘れないように。
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