472話 謁見と礼拝と奉納と
【Raid Battle!】
【包丁を冠する君主】
【菜刀天子】
【次元天子】【上位権限】【???】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【次元をさまよい】
【冒険者を導く】
【聖獣を担うが故に】
【深淵と敵対する】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は【菜刀天子】に聞きたいことがあるので、アビスの方じゃなくてこっちにログインした。
「なんですか藪から棒に……
都合のいい時だけ私に話しかけてくるとは、次元天子である私に対しての敬意がなっていないですよ?
全く、これだから劣化天子は……」
今さらそんなことを俺に期待されても困るんだが……
もう470話なのに、俺の態度が変わってない時点で諦めてほしいところだ。
まあいい、俺が聞きたいのはこの天子王宮にある礼拝所のことだ。
あそこってどんな用途があるんだ?
機能解放したはいいものの、俺はあそこを調理室としてしか使ったことがないから何をすればいいのかわからないんだが。
そんなことを語りかけると、【菜刀天子】は呆れたように肩をすくめて冷たい目で俺を見てきた。
お、なんだ、やるか?
「やってもいいですが、劣化天子ごときで私に勝てると思っているのですか?
思い上がりもはなはだしいですよ。
……それで、礼拝所ですが私の力を高める場所ということ以外私も知りませんね。
この施設自体、ゲーム運営プロデューサーの山伏権現があらかじめ設定していたものですから。
私には計り知れないものも多いのですよ」
あの胡散臭いゲーム運営プロデューサーが、か……
このプレイヤーに人権のないゲームを運営しているプロデューサーが直々に設定したとなれば、レイドボスが有利になる仕組みが組み込まれているんだろうが……
現に、宝物庫は俺という例外を除けば【菜刀天子】専用の貢ぎ物機能を解放したわけだからな。
あの機能で【菜刀天子】が何もせずともアイテムをプレイヤーが勝手に貢いでくれるようになったわけだから、いいご身分だ。
……そのおこぼれをもらってる俺が言うのもなんだがな。
その機能を最大限に悪用したイベントがこの前の生産イベント【菜刀天子】の品評会】だ。
あれでプレイヤーの資産を自分に集約させようとしたのだろうが、【大深罪鉄林包丁】による横槍でプレイヤーに生産アイテムを返還させることに成功した。
レイドボスの過剰強化を防げたのはでかいな。
【菜刀天子】の強化を防ぎつつ、プレイヤーたちも称号やら報酬やらを手に入れて地味に強くなったから、【菜刀天子】の目論見は外れたし。
まあ、これ以上ここで【菜刀天子】に話を聞いても聞き出せることは無さそうだし、礼拝所を直接観察するか……
今なら何か違う視点で見れるかもしれないからな!
「私の扱い、流石に雑すぎますよね……」
というわけで、謁見の間から礼拝所へ移動した。
ここに移動したからさっそく部屋を物色するものいいが、一つ思いついたことがある。
なので俺は、礼拝所の椅子で器用に寝ている無表情チャイナ服女……元レイドボスのミューンに声をかけた。
ここで叩き起こそうとすると、生存本能からか自動で反撃してくるのでやめよう!(10敗)
「ふぁぁ……你早……
きゅうに、どうした……?」
この若干口足らずな言い回しが話していて逆に癖になるが、話すことに慣れていないだけでこれでも以前よりは話す機会も増えていたりする。
せっかく起きてくれたのだ、さっそくミューンに礼拝所の機能について尋ねてみた。
ミューンはこの礼拝所から出ないで生活をしているから、何か知っているのかもしれない……そう思って危険を侵してまでもミューンを起こしたんだからな!
「这是秘密……
でも、【包丁戦士】りょうりいっぱいくれた……
うーん……」
どうやら結構重要そうな情報みたいだが、やはりミューンは何かを知っているようだ。
本来俺に教える義理なんてないはずだが、ここまで俺が料理を餌付けのように与え続けた結果、好感度がかなり上がっていたのが要因だろう。
ミューンと俺は一心同体の状態だし、俺以外に接触する相手もいないからなおのこと自然とそうなってもおかしくない。
……たまに俺をキルした瞬間、顔は上気して恍惚となって、光の粒子へと化した俺を追っている表情になるのは若干怖いけど。
食欲に正直なのはいいが、それ以外の戦闘狂の考えはよくわからん。
「うーん、またりょうりくれたら……
おしえる……かも?」
なんか曖昧な表現だな……
いや、教えてくれる可能性があるだけいいか。
それなら、この前の生産イベントで作った料理でも食べるか?
【菜刀天子】から返却されたし、ちょうど宝物庫にこっそり保管していたところだ。
「我很期待……
……まってるから、もってきて」
無表情でそんなことを言われると軽くあしらわれているようにも思えなくもないが、実際には声色が上ずっているので言葉の通り、本当に楽しみなのだろう。
尻尾もブンブン揺れているしな。
そんな期待に胸を膨らませているミューンを置いて宝物庫へ到着した。
うわっ、相変わらず物が散乱していていつ見ても凄まじい部屋だよな……
軽くジャンル分けされてからプレイヤーたちから転送されてきているらしいが、それでも野菜やら武器やら人形やらが入り交じったこの部屋は誰が見ても混沌としていると断言するだろう。
この次元の秩序を守る次元天子の棲み家が混沌としているなんて、皮肉もいいところだ。
さーて、お目当てのものは……っと。
これこれ!
一応分かりやすい場所に安置しておいて良かった!
転送されてきたものに混ざらず、俺が置き直したところのままになっていたからすぐに見つけられたぞ。
目的のものもあっさり見つかったし、さっそくミューンのところに戻……る……か?
ん?なんだこれ?
俺は混沌とした宝物庫から立ち去ろうとしたが、帰り際に気になるものを見つけた。
それは【槌鍛治士】が素材が集まったらたまに作ってくれる、【深淵顕現権限】の生け贄の代わりになってくれる鉄球によく似ているものだった。
ただ、【槌鍛治士】が作ってくれるやつは表面がツルツルなんだが、ここで見つけたものはツルツルではない。
二十四面体で、ところどころ角張っているのだ。
原石かなんかだろうか……?
せっかくだし貰っていくか!
そう決めた俺は【バットシーフ】後輩のごとく、目にも止まらぬ速さで手持ちのポーチへと仕舞い込んでいった。
証拠隠滅だ!
いや、見えてますよ劣化天子……
ただ、私にも使い道の分からないものですから、咎める気はないですけど。
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