432話 ハンディキャップマッチ
「実力派のオレが来たはいいんだが、今はどんな状況なんだ?
包丁次元が一人と……あっちは……十字架次元か!
ってことはこれで三竦みになったのか。
さっきまでと変わんないじゃんかよ!」
「そちらのお方は?
聖女である私に自己紹介をお願いします。
私は十字架次元のMVPプレイヤー【綺羅星天奈】です」
突然現れた乱入者にも毅然とした態度で自己紹介を始めた【綺羅星天奈】。
俺たちと会ったときもそうだったが、十字架次元はその辺礼儀正しいよな。
包丁次元とは大違いだ。
「実力派のオレも名乗りたいのは山々なんだが、今回は包丁次元の風が吹き荒れているようだからオレからは名乗れないんだぜ!
そっちの【包丁戦士】経由で聞いてくれ!」
ちっ、流石に【名称公開】のことを知っているからか名乗ってはくれなかったか。
今回の次元戦争では悉く【名称公開】によるデバフ付与作戦が決まらない。
まあ、初見殺しみたいなところがあるから仕方ないんだが。
聖女様よぉ、こいつはパイルバンカー次元の【ギアフリィ】だ。
それ以上は俺もそんなに知らんから説明はできない。
「聖女である私に直接名乗らないとは、今回は無礼な子羊たちばかりのようですね」
「誰が子羊だ!
オレは実力派プレイヤーだぜ!
侮ってもらったら困るぞ!」
「あら、血気盛んなこと……」
はいはい、今にも戦闘を再開させようとしている【ギアフリィ】と【綺羅星天奈】だったが、その前に【ギアフリィ】に聞いておきたいことがある。
この三竦みの状態を「さっきまでと変わらない」って言ったよな?
それはどういうことなんだ?
「あ?
実力派のオレに対して惚けてるのか?
お前たちがオレたちにあいつらを仕掛けてきたんだろ?
【ブーメラン冒険者】に【短剣探険者】、【モンスーン】に【エルニーニョ】。
あの双子姉妹は名前的にも包丁次元だろうし、もう片方の二人も消去法で十字架次元のやつだろ?
混戦でオレの次元のやつら全滅しちゃったじゃねぇかよ!」
双子姉妹……ではなく、実際には【ブーメラン冒険者】は男の娘なんだがそれは今話すとややこしくなるから黙っておこう。
それにしても今回の次元戦争の仲間は【黒杖魔導師】と【短弓射手】の二人の助っ人だと思っていたが、もう二人いたとはな。
「あの二人もいたのですか……
もしや、聖女である私とは別の場所がスタート地点だったのでしょうか」
奇遇だな。
俺たちも全く同じで、次元戦争が始まってからその双子とは一切会ってない。
「……ってことは、この中で順位最下位のオレたちパイルバンカー次元へのハンデだったわけか。
実力派のオレたち五人は全員同じ場所でスタートしたからな!
それでも、オレ以外は全滅したわけだが」
あー、ステージ選択が配慮されるのと同様に、スタート地点でのハンデみたいなものも今回はあったのか。
このプレイヤーに人権のないゲームはプレイヤー同士の争いに関してはやけにマトモなバランスを取ってくるのが逆に腹立たしい。
レイドボスに対しても俺たちにハンデをくれよ!……と言いたくなる。
いや、何回も言ってたわ……
パイルバンカー次元連中は消え去ったようだが、それは十字架次元も包丁次元も同じことだ。
「こちらにはもはや各次元のMVPプレイヤーしか残っていませんね。
聖女である私は神の祝福を受けているので当然ですが」
「とんちんかんなことを言うやつだな!
生き残ったのは自分の実力と立ち回りだろ!
だからこそ、実力派のオレも生き残ったわけだぜ!」
こいつら……致命的に話が噛み合わない組み合わせだな?
神の祝福と実力、それぞれ根幹の考え方が違うから当然と言えば当然だが聞いていてイライラする掛け合いだ。
もういいだろう!
さっさと戦闘開始するぞ!
「おっし!
そうこなくちゃな!
いくぜ、スキル発動!【機天顕現権限】!」
【ギアフリィ】がスキルを発動すると、背後の空間に錆びた金属のようなものが浮かび上がり、形を変えていく。
その形が変わっていくのを待たずに俺に向かって全力疾走して突撃を仕掛けてきた。
ちっ、いちいちせっかちなやつだな!
俺は【ギアフリィ】が突き出したパイルバンカーを包丁の腹を使って受け流しバランスを崩させ、それで作り出した隙で包丁による切り込みをしかける。
俺の包丁が【ギアフリィ】の首を刈り取りそうなくらいの距離になったとき、背後から忍び寄る気配を感じたので腕に負荷がかかるのを承知の上で、攻撃を無理やり中断してサイドステップで距離を取った。
すると次の瞬間、俺がさっきまで居た地面には十字架が突き刺さっていた。
「聖女である私の攻撃をこうも容易く避けるとは、流石はMVPプレイヤーと言ったところですね。
ですが、私の美しい十字架捌きはまだまだこれからですよ。
このメンバーなら私の本来の戦いかたを見せても問題なさそうですからねっ!」
この女子高生聖女っ!
仲間が居たときにはひたすら後方支援しかしてなかったのに、急に前衛ムーヴをかましてくるとは流石に予想外だったぞ!?
さては、仲間たちの前では猫を被っているタイプの女だな?
「箸よりも重たいものなんて持てませ~ん」的なオタサーの姫を装っているやつだ。
……フェイを演じていた時の俺に近いかもしれない。
「ハハッ!
弱っちそうな女だと思っていたが、案外やるじゃん!
いいぜ、実力派のオレが直々に相手してやるぜ!」
「望むところです!」
こうして、3つの次元のMVPプレイヤーたちによる三竦みの戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
そろそろだったり、まだまだだったりする……
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