429話 常套手段
「【シューティングスター】!【シューティングスター】!」
どんどんスキルを連発して大剣使いの【フェーン】を追い詰めていく【短弓射手】。
俺は適度に攻めているが、【短弓射手】のこのままの勢いに便乗する方が効率が良さそうなのでどちらかと言えばコンパウンドボウ使いの【ポロロッカ】が放つ矢を受け流し、【フェーン】を【短弓射手】に近づけさせないように牽制している。
どっちにしても、俺が今包丁で攻めたとしても女子高生聖女の【綺羅星天奈】が発動している【天元聖域】によって物理攻撃によるダメージが激減されてしまうからな。
だからこそ、魔法攻撃判定の矢を放てる【短弓射手】のサポートに回っているというわけだ。
……魔法攻撃といえば、【黒杖魔導師】はどうした!?
あいつは今こそ活躍時じゃないのか?
なのに、攻撃をしている様子はない。
「永劫たる我が根源に繋がる概念よ、滔々たる流れに身を任せ漆黒闇の……」
なんかよく聞いたら詠唱していた。
まさか戦闘が始まってからずっと詠唱していたとでもいうのか!?
俺が呟いた言葉を拾ったのか【黒杖魔導師】は詠唱を続けながら首を上下に振って肯定してきた。
どこか誇らしげな表情をしているが、今のところお前何もしてないからな!
その顔は詠唱が終わって効果を発揮させてからしてくれ。
そんなことを思いながら包丁を振るっていると、大剣使いの【フェーン】の動きが鈍り【短弓射手】の矢に対する迎撃の手が緩んだ。
【短弓射手】がその隙を逃すはずもなく、【シューティングスター】の効果を乗せた矢が連続して【フェーン】に命中していく。
「はぁはぁはぁ……
オジサンの身体とスキルを酷使しただけあってもうそろそろ倒せそうだねぇ!
中々若い子は頑丈で羨ましいねぇ」
そうしみじみ語る【短弓射手】だが、抜け目なく矢を放つことは止めていない。
プレイヤーキラーである俺と何度も対決しているので、結果的にPVPの動きが身に染み付いているのだろう。
たしかに俺だったら話している最中に矢が止まったらその隙をついて、【短弓射手】の首を一閃しに行くからな。
【短弓射手】は実際にその手で俺にやられたこともあるので、警戒して当然か。
実質俺が育てたみたいなところはある。(傲慢)
「オイラの体力も限界が近いんだなぁ……
このまま良いところ無しで負けるのは癪なんだなぁ……
こうなったら最後に一矢報いて聖女様に命を捧げるんだなぁ!!
スキル発動!【鳥海不知】!」
追い込まれた【フェーン】はとっておきと思われるスキルを起動してきた。
名前に海の文字が入っていることから、アンカー次元の夢魔たこすが使ってきたような【海】に関するスキルだろう。
俺の次元には縁のないスキルだが、いったい何が起こるんだ?
スキルを起動した【フェーン】は全身に水を纏い、【短弓射手】へと突撃してきた。
おいっ、ちょっ、速すぎるだろっ!?
俺は先へいかせまいと進路を塞ぐように移動を開始したのだが、スキル【鳥海不知】はスピードを補助するものだったようで、俺のスピードでは追いつけない。
詠唱を続けている【黒杖魔導師】はそもそも動けないし、万事休すだ。
「スキル発動!【シューティングスター】!」
【短弓射手】が先程までのようにスキルで迎撃しようとしているが、表情が驚いたものになっている。
何が起こったんだ?
「あっ!
お嬢ちゃんごめん、チュートリアル武器壊れちゃった……
【シューティングスター】のデメリットは使う度に武器の耐久度を削るものなんだよねぇ。
チュートリアル武器でもこのデメリットは例外じゃないみたいだ」
おいおいおい、こんな土壇場で唯一迎撃できる狙われている本人の【短弓射手】のチュートリアル武器が壊れただとっ!?
というか、チュートリアル武器が壊れるほどのスキルを連発していたのか……
無茶しやがって。
「武器も失ったお前はもう怖くないんだなぁ!
くらえっ!」
弓を失った【短弓射手】を【フェーン】が容赦なく切り伏せようと、大剣を振り上げた。
だが、そんな絶体絶命の状況で【短弓射手】は不敵な笑みを浮かべている。
「オジサン、弓矢以外のスキルって普段使わないんだけど、この状況で有効的な魔法スキルがオジサンたちの次元にはあるんだよねぇ。
闘技場イベントでは流行ったスキルだけど、オジサンはあまり使ったことがないから上手く使えるか分からないが……
聖女のお嬢ちゃんの守りを突破するためだからねぇ!」
「なっ、何をするつもりなんだなぁ!?」
ま、まさか。
ここであのスキルを使うのか?
俺はこの状況と【短弓射手】の発言から、使うスキルを予測した。
……が、【短弓射手】にしては珍しいチョイスだから意外だと思ってしまった。
「ま、若い子たちにバトンを繋ぐのがオジサンみたいなプレイヤーの仕事みたいなものさ。
スキル発動!【魚尾砲撃】!
ははは、オジサンの死に様とくとご覧あれってねぇ!」
【短弓射手】は体内にエネルギーを急速充電して接近してきた【フェーン】もろとも爆発に飲み込まれて光の粒子となって消え去っていった。
あのやろう……美味しい死に方していったな。
任侠映画か何かの真似だろうが、憎い演出で功績も残していくとは。
潔いのか泥臭いのか判断に悩むところですね。
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最近過去の感想とかを見直したりしているのですが、やはりいろいろな人からの反応が再確認出来て良かったですね。
包丁戦士の伏線とか、他に仕込んでいたものに対する反応であったり、逆に全く想定していなかったことに対する言及とか見ていて興味深かったです。
話が進行するにつれて、作品としての方向性も読者の方々に伝わっていっている……と嬉しいですね。