422話 指名手配
さて、この荒野バーだが、実績照会に出てくるほどの重要施設なのに飲み物が出てくるだけじゃないだろう。
逆にそうだとしたらめっちゃ落胆する。
そんなことを考えている俺の表情から思考を読み取ったのか、【虫眼鏡踊子】が口を開いた。
「ここはただ飲み物を提供するだけの場所じゃないのよね。
荒野エリアの重要な施設としての役割があるのよ」
あっ、やっぱりか。
それを聞いてちょっとホッとした。
肩透かしを食らわなくてよかった。
「ここはね、手配書が確認できる場所なのよ。
保安施設でも確認は出来るんだけど、あっちは保安官……【荒野の自由】に認められたプレイヤーしか利用できないから、ほとんどのプレイヤーはこの荒野バーで確認しているのよ」
機能は似ているが、こっちは大衆向けというわけか。
それで、手配書っていうのはなんなんだ?
さっきのモブプレイヤーたちの会話にもチラッと出てたワードだが……
「手配書は、お尋ね者を捕縛もしくは殺害するように依頼するシステムだね。
プレイヤー個人が申請出来たりするんだけど、同じ相手を複数のプレイヤーがお尋ね者として依頼して重なると懸賞金が上がるのよ!
これで稼いでみたりするプレイヤーも多いけど、私としては手配書システム限定の称号とかあったりするからそっちを狙いたいわね。
まあ、私はバッファー……攻撃とか防御とかが大したことないからやらないけど」
そういえば【虫眼鏡踊子】はabilityによる味方の支援が前のレイドバトルのときはメインの動きだったな。
あの時は助かったぞ。
「いやいや、あなたこそ大活躍だったじゃない!
こんな可愛い顔してやるときはやるのね!……と思ったわよ」
そう言ってもらえると光栄だな。
「照れちゃうから誉め合いはこの辺りにしておいて、手配書を見てみない?」
そう言って、壁に張り出してある手配書のところへと誘う【虫眼鏡踊子】。
壁を見てみると、掲示板のようなもの一面に紙が張り巡らされているようだ。
その紙には顔写真と、何故この人物がお尋ね者になったのか、懸賞金の額が書かれている。
えー、「チュートリアル武器のフラフープを使った詐欺行為を行ったプレイヤー……1000ポイント」
「ひたすら町中でバク転とジャンプを繰り返した迷惑行為プレイヤー……500ポイント」
「素材の採取ポイントを占有している悪質クランのリーダー……9845ポイント」
「働かない夫……1ポイント」……いや、これも一応依頼として通るのかよ!?
一通り見てみると、見知った顔があった。
黒いシルクハットに、スーツのような服装……これは【バットシーフ】後輩だ!
何々……
「目にも止まらぬ早業で窃盗を繰り返す常習犯、被害届134件、悪びれた様子がないように盗むため窃盗時に気づくことは困難。
被害物は、釘やネギなどの日用品から、職人プレイヤーが作り上げた王冠やユニーククエストのクリアに必要な【アウラウネの苗】などの重要物まで見境なし。
悪質クラン【コラテラルダメージ】に所属しているため、安易に狙いに行くのは命を捨てることに繋がる可能性があるため要注意……34285ポイント」
おおっ、俺の後輩ながら中々やらかしてるな。
俺が知らない間にもどんどん盗みを繰り返しているようで、貼り出されている手配書の厚みが束になっているほどだ。
俺の見込み通りのプレイヤーに育ってくれているようでなによりだが、あとは戦闘技術さえ身につけてくれたら理想だ。
なんかユニーククエストのキーアイテムとかいう【アウラウネの苗】とかいうやつも盗んでるみたいだし、今度見せてもらうか。
「あっ、あなたの可愛い顔もここにあるわよ!
うーん、写真でもやっぱり可愛いわね!
もらってもいいかしら!」
いやいや、俺の写真なんかもらってどうするんだよ。
……って、やっぱり俺の手配書もあったようだな。
まあ、俺はプレイヤーキラーだからな。
手配書くらいないと、レッドプレイヤーとして恥なくらいだから当然だ。
さてさて、内容は……?
「見た目に騙されるな!
一見すると可憐な乙女……だがその実態は狂人、怪物、人類悪!
数々のプレイヤーキルを繰り返し、被害は増え続ける一方!
被害届は現在14536件だが、これはあくまでも届け出の数であって、実際の被害数は何倍もあるだろう!
悪質クラン【コラテラルダメージ】のリーダーであり、戦闘力はPVPイベントである闘技場イベントにも出場し優勝するほどの実力。
さらにはレイドボスになるスキルや、身体の部位を増やすスキルを持っているため真っ向勝負で勝つのは諦めるのが吉。
ワールドアナウンスを個人で悪用しているため、プレイヤーキルをしているタイミングはワールドアナウンスを参考にするといいだろう!
この狂人……狂い咲く暴食の悪魔を全力で止めるのだ!
……5623415ポイント」
ふっ、俺のレッドプレイヤーとしての格を”魅せつけてしまった“な。
深淵種族になるための最低条件が一万人のプレイヤーキルだったが、それを満たすくらいのプレイヤーキラーが他に居ない以上は一際目立ってしまうのは当然ではある。
「わお、あなた思ってたよりもヤバいわね……
こんな可愛い顔してヤることヤッてるなんて、ませてるわね?」
言い方に悪意があるな?
親戚の叔母さんか何かかお前は……
こんな手配書があるにも関わらず俺が今もこの荒野バーで襲われていないのは、この手配書の脅し文句にみんなビビってるってことだろう。
情けないやつらだ……
特に嘘が書いていないという事実……
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