416話 罪の領域
「リーダー自ら前に出てきたぞ!?」
「いつも面倒だからって祭壇の作業ばかりやってたはずなのに珍しい……」
「それだけ【包丁戦士】ちゃんが大切ってことやな!」
「んほー!あのお姿、佇まい……凛々し過ぎるっっ!!」
【包丁戦士狂教団】のメンバーたちの反応を見ると【黒杖魔導師】がここのリーダーみたいだな。
そして、こいつらの言葉からするとこの巨大な祭壇は【黒杖魔導師】がかなり前から作り上げていたものっぽい。
……いつから作っていたんだろうか。
「我輩と狂巫女の初遭遇の時……つまり、混沌闘技場でのバトル終了後からだ。
我輩はあの時から【包丁戦士】の狂巫女としての才覚を嗅ぎとっていた。
だからこそ、我輩のability【現界超技術】を駆使して【包丁戦士】の狂巫女としての力を活かせる狂神神聖祭壇域を創り日々調整していたのだ。
ククク……漆黒闇はいいぞ!」
……ルビが多すぎて話がよく頭に入ってこないんだが。
とりあえず俺と戦って俺に秘められた何かを感じて、それを活かせる場所を作ったということでいいんだろうか。
「んあ?
そういうことだ。
【黒杖魔導師】さんは狂巫女様のために闘技場イベントの最中から我らを集めて、祭壇を作っていたのだ」
さっき【バットシーフ】後輩を奇襲によってキルした軍刀使いの長身のモブプレイヤーが【黒杖魔導師】の側に控えながらそう俺に説明してきた。
この軍刀使いの振る舞いからすると、こいつはこのクランの中でも重鎮なんだろう。
もしかすると2つ名持ちかもしれないが、【黒杖魔導師】の話が頭に入ってこなさすぎてそれを聞く余裕がない。
それで、俺への個人アナウンスでお前たちが祭壇を作っているって聞いてきたんだが、なんでこんな祭壇を作ってるんだ?
「おおっ!?
狂巫女って【黒杖魔導師】さんが呼んでたけど本当に巫女だったのか!?」
「神託を受けられるとは……なんとも素晴らしい!!」
「巫女……美少女ロリ!!
これは捗るっ!!!」
「俺は面白半分でこのクランに入ったから半信半疑だったけど、まさか【包丁戦士】ちゃんが神の遣い……狂巫女っていうのは本当だったんだな……
てっきりただの【包丁戦士】ちゃんファンクラブだと思ってた」
「ああっ!!
私をっ!私をキルしてくださいぃぃぃぃ!!!」
俺がアナウンスで聞いたということを神託という扱いにしているのか、口々に感動を言葉にしているクラン【包丁戦士狂教団】のメンバーたち。
キルしてほしそうにしていたやつは要望通りに腰に提げていた包丁を引き抜いて、首を切り裂いてキルしてやった。
感動のあまり涙しているのを見ると、なんだか新鮮な気分に浸れた。
新感覚というやつだな!
というか今さらだが、ここのメンバーは俺に「ちゃん」付けしてくるな。
ファンクラブ要素があるからか、今まで会ってきたプレイヤーたちよりも俺に対しての好感度が明らかに高いし女として扱っている。
他のモブプレイヤーたちは俺に敵意剥き出しだから、違和感すら感じてしまうほどだ。
……ちょっと嬉しい。
「狂神神聖祭壇域は我輩の魔術の知識を駆使して作り上げたものだ。
完成したのは新風が吹き荒れる時だったが、ちょうどその時に変異が起きたはず」
新風が吹き荒れるとき……変異が起きた?
思い当たるのは……あれか!
初心者イベントのときだ!
あの時に俺はレイドボス状態のジェーと一体になって戦っていたが、その戦闘が終わったタイミングで称号【『sin』暴食の目覚め】が手に入った。
今回この【包丁戦士狂教団】が【大罪魔】に関係していると考えるなら、俺が称号を手にいれたタイミングとぴったりだ!
まさか知らない間にこいつらに援助されていたというわけか。
「えっ、この祭壇ってそういうやつだったの!?」
「てっきり雰囲気作りのためかと思ってた……」
「だからあんな辺鄙なところまで素材集めに行かされてたのね?
この辺りのもので妥協すればいいじゃん……とか思ってました」
「んあ?
当然だろ、わざわざ素材集めのためにこの軍刀でプレイヤーキルしていたくらいさ。
狂巫女様のため、そして【黒杖魔導師】さんのためならばレッドプレイヤーとして身を埋めるのも躊躇わない」
ほとんどのやつは【黒杖魔導師】から祭壇についての詳細を聞かされていないようだが、側近の軍刀使いの長身のモブプレイヤーは知ってて協力していたようだ。
……いや、話していたかもしれないが、【黒杖魔導師】の難解な言い回しのせいで気づいていなかっただけのような気がする。
というか軍刀君忠誠心高くない?
マジの宗教感出てきちゃってるじゃん!
ちなみに、軍刀使いの長身のモブプレイヤーの姿だが黒いフードを深く被り顔が見えないようになっているのと、黒いタートルネックのようなものを着ていて口元も見えないようにしているようだ。
靴は黒いブーツで、弱点になりやすい足元もきちんとカバーしていることから相当なやり手だと思われる。
なんでこんなやつが表舞台に出て来ず、こんなアングラなクランで俺のファン活動をしているのか……
「それは狂巫女様の人切りの姿に魅せられてしまったからさ。
あの姿はプレイヤーキラーとしての極致!
その活動をサポート出来るのならばと思いここに所属している」
はえー、プレイヤーキラーとしてのファンってわけか。
こいつ自身もプレイヤーキラーっぽいしそれなら謎の信仰心よりは理解できる。
【フランベルジェナイト】みたいな電波系だったらどうしようかと思っていたが杞憂に終わって何よりだ。
つまり、ここにいる集団はプレイヤーキラーとしての俺に魅せられたプレイヤーと見た目が気に入ったプレイヤー、そして俺の潜在能力を活用したいやつがごった煮になっているクランというわけだ。
ただのカルト集団ではなかったらしい。
「【包丁戦士】ちゃんが感心してるぞ」
「やったじゃんお前!
【包丁戦士】ちゃんが興味を持つとは、やはりプレイヤーキラーに俺もなるか……」
「ワイも美少女ロリに興味を持たれたいっ!
はぁはぁ……」
「狂巫女様の加護を我らに……」
いや、カルト集団に入ってそうなやつもよく聞いたらいるな……
「狂巫女がここに来たということは漆黒闇の儀式を執り行うことが遂に可能になった。
ククク……狂巫女よ、大いなる罪の降臨に協力するのだ」
おっ、もしやこれは……
【大罪魔】を顕現させるための儀式か!
準備が整っていたのに俺が来ないと始められない状況だったのになんで呼んでくれなかったんだ?
「狂巫女の罪段階がその領域に達していなかったというだけの話だ。
だが、今はその段階に達している。
だからこそ、狂神神聖祭壇域を使用できる。
ククク……さあ我輩の同志よ、準備するのだ」
【黒杖魔導師】がそうクランメンバーに指示を出すと、皆が次々に祭壇に登り始め等間隔で円になった。
……で、こいつらは何するの?
「んあ?
狂巫女様の手で生け贄にするのさ。
他の連中がやっても意味がなかったから、狂巫女様が自らやらないとダメなんだろうな」
そういう軍刀使いの長身のモブプレイヤーも祭壇で生け贄にされるために立っている。
こいつらを包丁で切り裂いていけばいいのか。
そうであるならば話は早い!
俺がやることなんて1つしかないのだからな!
1つだったり、1つじゃなかったりする……
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