41話 包丁コンビによる王宮探検隊
……で、この鍵どう使うんだ?
アイテム弄ってもコンソールとか出てくるわけでも無し、ただ冷たい金属の感触だけが伝わってくる。
「自分で使える場所を探してください。
鍵の外見だけではわからないようになっているので、適正な鍵穴にハマるまで何度も試してもらう必要があります」
ひっどい仕様だな、おい。
今時のゲームでそんな投げやりなアイテム渡してくるやつ見たことないぞ……
まあ、立ち往生してもあれだし探してくるか。
じゃーな【菜刀天子】!
俺が立ち去ろうとすると黄色髪天子が片手をすっと上げて俺を制止した。
どうした?
「待ちなさい、底辺種族【包丁戦士】。
私も行きましょう」
どこへ?
「察しが悪い底辺種族ですね……
決まっているでしょう、その鍵の使いどころです。
自分で探しなさいとは言いましたが、1人ではつまらないでしょうし側で見ていてあげましょう」
いや、見てるだけかよ。
てっきり一緒に探してくれるのかと思っていたが別にそんなことはなかったようだ。
まあ偉そうなこいつが一緒に探してくれたほうが逆に驚くけどさ。
「それでは行きますよ!」
……多分待ってるの暇なんだろうな。
そう思うことにした。
まずはトイレっぽいところの入口。
……開かない、初めから見つかったらラッキーだと思っていたがそうは問屋が卸さないようだ。
というかトイレ使うにも機能開放しないといけないのか!?
本当にハリボテだなこの王宮!?
「……一言も二言も多いですよ、底辺種族。
それにこのゲームでは排泄は不要なように設定されているので問題ないはずです。」
じゃあなんでトイレあるの?
排泄不要ならここ要らなくない?
「……開放される機能は知りませんが、この王宮を設計したゲームデザイナーの趣味でしょうね。
流石にトイレだけ置いてあることはないと思うので、何かしらのメリットはあるはずです」
上位権限AIって言ってもそこまで知らないのな。
頼りにならないじゃないか……
「一言多いですよ」
あい。
次は調理室の入口っぽいところ。
料理を本格的にやりたい俺からすると、ここの設備が使えるようになれば結構嬉しいかもしれない。
ガスとか電気とかは流石にないとは思うが、王宮の設備だしそれなりに初期装備でもいい感じなはず!
…開きませんでしたねぇ……
地味に悔しいな。
「底辺種族は運がないですね。
私のような天子ともなれば、自分の欲しいものくらい必ず当てることができますが……」
それ絶対チートだゾ、うらやま……じゃなくて
上位権限を悪用する天子に人民は味方しないぞ、歴史がそう言っている。
「……底辺種族の癖に核心を突いてきますね。
たしかにその通りです、……頻度を下げますか」
いや、やめろよ。
調理室が開かなかったし次いくぞ次。
大浴場。
……ここでプレイヤーたちのお風呂会とか開かれる未来が見える。
なお、開かなかった模様。
キャッキャうふふな光景が遠ざかっていく……
「不埒な妄想はやめなさい。
物欲があるといつまでもここ開放できませんよ?」
俺もそんな気がする。
書物庫と宝物庫。
ここは大穴だったが、やはり開かなかった。
世界観重視のVRMMOだと書物に攻略の重大なヒントを隠していたり、新スキルやレシピなどが書いてあったりするからもしやと思ったが開いていなかった。
宝物庫はレアアイテムとかないかな~と見てみたが案の定開かなかった。
その後も色々回ったが結局どこも開かなかった。
そして、最後の部屋の前にたどり着いた。
最後の部屋まで当たらないなんて、いくら何でもクズ運すぎるでしょ……
「底辺種族ですから仕方ないですね、まったく……
ここは礼拝室ですね、……それ以上は知りませんが」
いや、見れば俺でもわかるわ。
ここだけ見た目がやけに神聖な感じになっている。
他のところも清潔感があったり、豪華絢爛な装飾がされていたりしたがここだけはそういった人の手が無作為に入っているような気がしない。
穢れない純白の扉がここを聖なる場所であるということを指し示している。
「よし、いれるぞ……
おっ、鍵が回った!
つまり、ここが拡張された場所ってことか!」
ようやく当たりにたどり着けたのでテンションが高まっている俺を横目で見る【菜刀天子】の視線が痛い。
こいつもまさか最後の部屋まで付き合わされることになるとは思っていなかっただろうから呆れているのだろう。
その視線を無視して扉を開いて部屋に入ると、まず目に入ったのは壁際に立っている大きな像だ。
数は4つある。
竜の形をした像。
亀の形をした像。
鳥の形をした像。
そして虎の形をした像だ。
どうやらそれぞれレイドボスを象っているようで、亀は刺々しい甲羅をしているし、鳥はどことなく鶏っぽいような感じだ。
竜は……レイドボスに会ったことがないからなんとも言えない。
ただ、虎はちょっと違う気がする。
いや、鶏も違和感はあるが虎ほどではない。
この虎は俺が倒した寄聖獣ジェーライト=ミューンだと思うがあの特徴的なウナギ尻尾がついていない。
……なんだろうなこの違和感……
「……ここは良いところですね。
私の天子としての力が高まるのを感じます」
そんなスピリチュアルなことを言われても……
そう思っていたが、脳裏に無機質なアナウンスが鳴り響き俺の考えを断ち切った。
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】により礼拝室が開放されました】
【【次元天子】のスキル威力が上がりました】
なるほどね、こうやって天子を強化していくパターンもあるのね。
こうやっていけば他の次元との遅れも少しは取り戻せるのかもしれない。
まあ、今回は天子以外の要因で勝利したが毎回ああなるとは限らない。
というかあの紫チャイナ娘何者だったんだ……?
そう思いを馳せていると【菜刀天子】に声をかけられた。
「……底辺種族【包丁戦士】、あれを見なさい」
偉そうな口調に渋々従い黄色髪天子が指差す方を確認すると何やら見覚えのある人影があった。
「……」
紫チャイナ娘じゃん!?
俺たちがいる礼拝室中心から西の方角にある像にもたれかかって寝ていた。
頭についている2つのお団子(食べ物ではない)も特徴的だし、間違いないだろう。
なんでこんなところで寝てるんだこいつは……
よく分からんが、寝てるなら殺せるだろうと思って包丁で切りかかっていく。
今回は一撃必殺を狙うということで袈裟斬りで襲いかかる。
右肩から左腰にかけて一気に切り裂けるように構え、迷うことなく包丁を振り抜いた。
袈裟斬りならばよほど切り込みが浅くない限りは助からないだろうと思っての選択だった。
しかし、助からなかったのは俺の方だった。
よくわからないうちに王宮の謁見の間まで戻されていた。
……この状況から見るに死に戻りしたのだろう。
ナンデ!?!?!?
いや、あの状況で寝ている女性に切りかかるという思考になったことにナンデ!?と言いたいですね……
流石底辺種族……
【Bottom Down-Online Now loading……】
あっ、40話突破記念として22話の後書きに【ペグ忍者】ちゃんのイメージイラストをつけておきました。
もし良ければ確認してみてください!