4話 マゾプレイの達人
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「ほい、おはよう!」
恒例のレイドバトルログイン。
さーて、死に戻りで【草原(仮)】に行くか。
「っと、その前に【槌鍛治士】に加工してもらう用とは別に自分用にジェーの抜け毛を集めておくか」
新緑都市アネイブルの樹木をくりぬいてできたような建物を壁として、Жから逃げ回る。
鞭のようにしなりながら打撃を繰り出してくるが、包丁の腹で間一髪受け止める。
だが、打撃を止められたとしてもその巨体から放たれる衝撃は止めることができず、俺の体は建物の壁に叩き飛ばされた。
「いてて、攻撃を防いでもこれって本当に勝ち目があるのか怪しいよな……
ってラッキー、抜け毛見っけ!
サンキュージェーさん!」
抜け毛採取中にミンチにされたのは言うまでもない。
「いや~、【包丁戦士】さんじゃないですか!
久しぶりですね!
死に戻りお疲れ様です」
死に戻りして遭遇したのはいつものガチムチおっさんのむさ苦しい顔ではなく、黒髪のツーサイドアップが特徴的なタンクトップ娘だ。
その薄着から山が激しい自己主張をしてくるので目の保養になる。
その山に対して身長は140くらいの小柄体型なのでより強調されている感じは否めない。
狙っているキャラメイクだがつい目で追ってしまうのが思惑に乗っているようで悔しいな……
けしらからんぞ!
「おっ、ボマードちゃんか!
というか相変わらず初期装備のタンクトップから変えてないのか?」
このゲーム運営の趣味なのか防御力1のタンクトップを初期装備として男女ともに配布している。
一体何フェチなんだ……
「いや~、【名称公開】のデバフが日に日に重複してきて素材採取どころじゃないんですよ……
最近は移動すら怪しくなってきて……」
この娘はこのゲームで一番はじめに自己紹介をしたプレイヤーだ。
俺にって訳ではなく、ゲーム内初って意味で。
ボマードちゃんはその時から名前を1人知られるごとに何かしらのデバフがかかっているみたいだ。
このゲームの鬼畜さ発覚という爆弾を一番はじめに落としたという意味ではプレイヤーネームの通り爆弾魔と言ってもいいのかもしれない。
本人にその気は無かったとしても。
「よくその状態でドン底ゲーム続けようと思うな。
俺ならそんな永続デバフかかったら止めてると思うわ」
「いや~、最近デバフを自分にどこまでかけ続けられるのか気になってきてむしろ知名度を上げるための広報活動もしてるんですよ!
目指せ最弱体美少女プレイヤー!
守ってあげたくなるような病弱体質を活かしていきたいですね、いわゆる姫プレイに近いものを感じますが」
「しばらく会わない間に面白いことやってんだな。
検証班にその情報でも上げたらバックアップしてくれそうなもんだけど、もうやってたりする?」
「いや~、それは思いつかなかったです!
流石泣く子も黙る【包丁戦士】さん!」
「その場合泣く子はボマードちゃんのことになるけどな。
チュートリアルで【名称公開】からのデバフ判明までの一連の流れの鬼畜さに泣いていたのは誰だったかな~?」
「いや~、あははは。
その節はお世話になりました……」
今さらの説明になるがボマードちゃんと俺はチュートリアルのタイミングが同じだったいわゆる同期だ。
しかも第一陣だったので【名称公開】を意図せずしてしまい、結果として後輩プレイヤーは【名称公開】を迂闊にすることが無くなったため偉大な先人として崇められていたりする。
「俺は【槌鍛治士】に時間を潰してくるように言われてるだけだから、暇潰しにこのまま検証班のところに突撃してみないか?」
「いや~、いいんですか?
実は私検証班の方に一度もお会いしたことないんですけど」
「暇でやることないんだ。
それにマゾプレイがどんな結果になるのか俺も興味あるし、こんな片手間でいいなら手伝うよ」
「まっ、マゾプレイっ!?
【包丁戦士】さんは変態さんですか!!」
「違うわ!
変なこと言うと助けてやらないぞ!」
「いや~、すみませんすみません!!」
短い手を頭に当て、頭を何度も下げてくる。
ピョコピョコ動いて可愛いんだが、どうにも小物ムーヴが似合いすぎてよく墓穴を掘るのが難点だな。
それも含めて愛嬌と言ってしまえばそれまでだが。
「とりあえずレッツゴーですよ!」
3秒後勢いあまり、躓いて転けてしまっている娘が居たとか居なかったとか……
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