392話 陰湿な気配
くらえっ、袈裟斬りからの逆風!
俺は【ハリネズミ】たちの【魚尾砲撃】をくらって怯んだ【オメガンド=メイローン】に向かって包丁を振り下ろし、さらに包丁の向きを変えて切り上げた。
今までだと、鱗に弾かれてまともにダメージを与えるのが難しかったが、俺が狙ったのはさっきの爆発で爛れた腕の部分だ。
鱗が劇的に防御力を落としており、さくっと刃が通っていく。
「どうやら、【包丁戦士】さんの狙いはあそこのようですね。
【ペグ忍者】、ワイヤーで【オメガンド=メイローン】の身体を拘束して時間を稼いであげてください。
【包丁戦士】さんの連撃がチャンスの兆しだからね」
「了解なのら!
ワイヤー猫ハウス展開するのら~!」
ぱぱっとペグを周囲に撒き散らして【ペグ忍者】が【オメガンド=メイローン】の動きを制限してくれたようだ。
【検証班長】、気が利くな。
「ボクたちの仲も中々長いですからね。
【槌鍛治士】さんと【包丁戦士】さんのタッグとまではいきませんが、何をしてほしいのかくらいは察せられるよ」
「ちょっ、ちょっと待つのら~
ワイヤー猫ハウスを張った【ペグ忍者】にも何か言葉は無いのら?」
ああ、悪い悪い。
めっちゃ助かってるからそのまま頑張れ、死ぬ気で拘束しておいてくれよ。
緩めたら承知しないからな。
「それは、わかってるのらよ!
【包丁戦士】しゃんこそ手を抜いて攻撃したらダメなのらよ~」
そんなことするわけないだろ。
二段階目の種族転生をした【ペグ忍者】の底辺種族離れした【虎獣人】のパワーによってなんとか拘束できているが、解かれるのも時間の問題だろう。
それなら、今のうちに効果的な攻撃をしておかないとは。
……この状況なら、あれだな。
いくぞ、スキル発動!【フィレオ】!
俺はスキルを起動させると、爛れている方の腕……ではなく逆の腕に向かっていき包丁で大袈裟に切りつける。
もちろん、この包丁での切りつけ自体では効果的じゃないだろう。
だが、俺が包丁を振り切った軌道の空中に斬撃が固定され、それが延伸していくように解き放たれた。
そのまま飛翔していく斬撃が【オメガンド=メイローン】の腕の表面の鱗を断ち切り、そのまま肉へと食い込んでいく。
これが俺のスキルの十八番、飛翔する斬撃【フィレオ】だ!
なお、俺の右腕もスキルのデメリットであらぬ方向へと飛んでいってしまった。
必要経費として諦めるしかない。
【手痛い攻撃をよくもやってくれたのじゃ……】
【わっちに楯突くものたちよ、一度離れるのじゃ!】
その言葉を聞いた瞬間不味いと思い、俺は攻撃を中断して地面に突っ伏した。
後方に全力で退避するか悩んだが、これで凌げるか?
案の定、尻尾による360度の振り払い攻撃だったようだ。
急な攻撃だったからか、対応できず多くのプレイヤーたちが吹き飛ばされているのが目にはいった。
俺のクランメンバーだけでも【バットシーフ】後輩、【槌鍛治士】、ボマードちゃんが一気にやられていた。
【ability【会者定離】が起動しました】
その証拠にまず、【槌鍛治士】がやられたのに俺のabilityが反応している。
さらに……
【スキル【名称公開】が起動しました】
【レイドボスの能力に一部制限がかかりました】
【制限時間00:10:00】
よしっ、あのタンクトップ爆弾魔はちゃんと役割を果たして死んでいったようだな。
この状況で【名称公開】によるデバフがかかるのはデカイ。
純粋な身体による攻撃がメインになったから、そのスペックを少しでも下げられるのは有効打として機能する。
「この時を待っていましたわよ!
みなさんデバフを重ねていきますのでしてよ?
スキル発動!【阻鴉邪眼】ですわ!」
「「「「「我らはお嬢様と共に!」」」」」
「「「「「スキル発動!【阻鴉邪眼】!」」」」」
ここで守りに入っていた【トランポリン守兵】お嬢様率いるクラン【お屋敷組】のメンバーがポリンお嬢様の言葉で邪眼を同時に起動させた。
固まっているプレイヤーたちの右目と右半身がスキル発動の代償として漆黒の呪いに蝕まれていっているが、その見返りとして【オメガンド=メイローン】を取り囲むようにデバフサークルが何重にも包み込んでいく。
【先程から陰湿なスキルばかり使いおって……】
【深淵種族のカビ臭い臭いが漂ってくるみたいなのじゃ】
そう言いながら大空へ羽ばたいてデバフサークルから抜け出そうとしている【オメガンド=メイローン】。
そういえば、【魚尾砲撃】も【阻鴉邪眼】も深淵種族のスキルだったな。
それならついでにこれもくらってもらうか。
スキル発動!【堕枝深淵】!
俺は珍しくスキルチェインを介さずにルル様のスキルを起動させた。
【領域を守護するものよ】
【深き業を刻み込め】
【深淵に囚われるがよい】
【これは汝を縛る鎖】
【【堕枝深淵】】
俺の腕から黒い枝が伸びていき【オメガンド=メイローン】の足を捕らえる。
深淵顕現権限していないからか簡略詠唱になってしまったので、棘無しの枝が伸びることになったがデバフサークルに押し留めるためにはこれで充分だ。
【これも深淵種族のスキルじゃな?】
【もはや呆れてしまうのじゃ……】
呆れてもらってけっこう。
その間にお前の体力を削らせてもらうぞ!
うっ、これは陰湿な気配がプンプンしますね……
これだから劣化天子に影響された底辺種族どもは……
【Bottom Down-Online Now loading……】