39話 大乱入円環バトラーズ(挿絵あり)
パジャマロリが開戦早々に口を開き始めた。
「うちは初めから全力でいくよっ!
スキル発動【真名開放】うちの名前はマキ、見ての通り蛇腹剣使いだよ~。
よろしくねっ!」
そういうとパジャマロリの体が光に包まれる。
あっ、こいつ勝手に引っ掛かりやがった。
【マキは自らの名称を公開した】
【マキは自らの真名を開放した】
【【名称公開】マキに知名度に応じたステータス低下効果付与】
【【真名開放】マキのステータスが割合に応じて伸長した】
「えっ!?
ナニコレっ、うちこんなの知らない!?
体が重いよ、眠い時みたいっ」
パジャマロリがダルそうに体を動かして調子を確かめているが表情は明るくない。
本当に眠いのか目をごしごししている。
【真名開放】はレイドバトルでも確認していたが、特にデメリットはないバフスキルって感じだった、強化の割合はそこまで大きくなさそうだったが。
【包丁次元】にはデメリットありのスキルしか開放されていないので喉から手が出るほど羨ましい、だがそこにつけ入る隙がある。
この次元の風が吹き荒れるフィールドではその便利スキルに自身に対する圧倒的デバフ効果が付与されるんだな、これが。
【名称公開】と【真名開放】は発動条件が同じらしいのでバフデバフが入り乱れたスキルへと変貌するのだ。
つまりこのパジャマロリは得意分野については少し能力が上がっているかもしれないが、それ以外については本調子を確実に発揮できない状況になった。
やったぜ。
「な、何そのスキルっ!?
【包丁次元】だと自分にデバフかけるのっ!?
みんなマゾなのっ!?」
誰がマゾじゃ、安心しろ俺の次元で本当のキャラクターネームを明かしているやつは一人しかない。
ちなみに俺は【包丁戦士】ね、偽名だがよろしく。
「偽名……
なるほどこれが次元が違うってやつだねっ、そっちにもうちみたいにいっぱい寝たい人いるのかな?
文化が違うのは面白いけどこの勝負とはまた別の話~
こっちから攻めるよっ!」
パジャマロリが蛇腹剣を振り回し始めた。
こいつ、筋力と器用さのステータスが高いのかあの使いにくそうな武器を自分の手のように動かしている。
だが動きを一応視認できる、デバフを受けてこれなら本来はとてつもないスピードで剣が動くんだろうな。
蛇腹剣を知らない人に説明すると剣の刀身が幾つかに分解されていて、その中にワイヤーが仕込んである武器だ。
ギミックとして普通の剣として斬撃に使ったり、鞭のように伸縮させて打撃に使ったり、縄のように相手に絡ませて使うなど数多くの武器の機能を集約させたロマン武器だ。
俺の包丁の柄に鞭をつけたのもこのロマン武器に影響されてのことだ、羨ましすぎる。
ただ、ロマン武器って言われるだけあって当然デメリットもある。
ワイヤーが切れたり、刀身が薄くなる関係で耐久性に問題があったりするので戦場に持ち込むには難点があったりするらしい。
ただこのゲーム知っての通り
チ ュ ー ト リ ア ル 武 器 は 壊 れ な い
という仕様のため蛇腹剣の欠点の大部分を補う形になっている。
このパジャマロリシステムに恵まれ過ぎぃ!
「ふふんっ!
当然でしょっ、なんたってうちはさいきょーだからね~。
もっと誉めていいよっ」
こういうところはロリっぽいな、誉めると素直に喜ぶ。
……なんとなくボマードちゃんを思い出した。
そんなことを言いながらも嵐のように振るわれる蛇腹剣に俺は攻めあぐねていた。
包丁の腹で受け流したり、鞭で応戦したりしているがパジャマロリを包丁の間合いに持ち込むことができていない。
蛇腹剣の射程範囲が想定以上に広いのだ、これは見誤ったか?
「案外大したことないね~
うちの次元の人と比べると粘ってるとは思うけど、代表の人なのにこのレベルだとざんねんだよっ。
もっと何かないの~?」
うるさいわ、武器の相性的に俺の方がどう考えても不利なのに普通に戦えているだけマシなんだぞ。
仕方ない、このままだと埒が明かないので出来るだけこの場所であのスキルを使いたく無かったが手段を選んでられない。
「【菜刀天子】、お前の命使わせてもらうぞ。
これが底辺のスキルだ、スキル発動【深淵顕現権限】!」
「はっ?
うえっ、よりによって私を生け贄に捧げる気ですか!?
後で覚えておきなさい」
ぼろ雑巾のようになっている【菜刀天子】を漆黒の光へと変換し俺の体へ取り込んだ。
そして体が隆起しウナギの尻尾がサブウェポンとして俺に装備された。
ん?
なんかチャイナ娘が急にキョロキョロし始めたな。
さっきまで無表情だったのに驚いた表情で周囲を確認している。
このスキルにでも驚いたのかな、キモい見た目してるし仕方ない気もする。
「何そのスキル、キモいんだけどっ!
そのヌルヌルでうちに近づくのやめてよね~」
露骨に嫌がっているパジャマロリ。
あっ、このスキルそっちの次元では開放されてないのね。
まあ実績照会の時に【荒れ狂う魚尾砲】1位になってたし、この順位は討伐した順番のことだろうと思っていたがやっぱりそうだったか。
ボマードちゃんといいこのパジャマロリといい、女子受けが悪いなこのスキル。
とりあえずこの尻尾と鞭を同時に振るい、パジャマロリの蛇腹剣の嵐を牽制しつつ間合いに入っていく。
2つ同時なら押し負けることはなさそうだな、これはイケる。
「いやっ、来ないでっ!?
キモいキモいキモいキモいっ!!!」
めっちゃ拒絶されてて悲しいぞ俺は。
そして間合いまであと一歩の所で頭上から巨影が降ってくるのが確認できたので飛び退いた、あそこまで接近できたのに……
「ダイジョブかマキ?
これ以上マキにセキンするのユルサナイ!」
頭上からの巨影の正体は大男の天子だった。
一対一の勝負に無粋な……
まあ、勝手に俺が押しつけたルールだったんだが。
そしてこの大男の天子【ジャノメ】はさっきから全然口を開いていないと思ったら喋るのが苦手みたいだな、小さい【っ】を発音できていない。
まあ、さっきまでの無表情無口なチャイナ娘と違ってパジャマロリに少しでも危害が及びそうだなってときには、いつ飛び出してもおかしくないくらい前のめりになり顔も強張っていたからさっきみたいに乱入される可能性を読めていたんだけどね。
多分、パジャマロリがこの大男に懐いていて、大男天子がパジャマロリにぞっこんで過保護なんだろう。
会話や行動から大体の関係性が読み取れた、お前たち分かりやすすぎだ。
「ふふふ、そこまで誉められるとテレるよっ!」
「オデ、マキをマモル!」
ほらな。
そんな感じだ。
で、この大男天子流石に俺の手には負えない。
正直詰んでいるが、別に倒す必要はないのだ。
要は陣営旗さえ盗ってしまえば勝つことはできる。
だが、それでもこの2人を相手に俺1人だと奥の陣営旗までたどりける気はしないが、ダメ元で陣営旗にむけて走り出した。
もちろんそれを素通りさせるような相手ではないので。
「クラエ、【渡月伝心】!」
蛇腹剣を天に掲げ刀身から光を煌めかせ始めた。
やっぱり持っていたかそのスキル。
【菜刀天子】という前例からすると俺たち人間が使うメッセージを送るだけの【渡月伝心】ではないだろう、この局面でそれをやったら逆に驚くわ。
このまま行くと俺は千切りにされてしまう、万事休すかと思い目を閉じた。
が……
チャイナ娘の顔のカットインが画面に流れた。
「……不允许假品っ!
【兎月伝心】」
なんかチャイナ娘が手に装着していた爪から紫色の光の円環を発して、大男天子が放った銀色の円環を一掃した。
人間でもあの円環バージョンスキル発動できるの!?
それにしても出力高過ぎでしょ……というかそこまで強いなら初めから協力してくれませんかねぇ(困惑)
「えっ?
強すぎじゃないそのお姉さんっ!?
なんでそのお姉さんが居てなんで10位なの!?
さっきの雑魚天子よりそのスキル強いよっ!
これも次元の違い?」
俺も驚くならそりゃ相手も驚くよな。
これが次元の違いかどうかと言われるとうーんと唸ってしまうところだ。
今のところメッセージを送ることしか出来ていないって言ってたし、しかも硬直デメリットあり。
それに対して無表情チャイナ娘はデメリット無しで光円環を出している。
えっ、何この差。
まあ、よく分からんが、ヨシッ!(良しではない)
相手側が驚いてボーッとしているうちに陣営旗ゲット!
【菜刀天子】を犠牲にしているのだ、手段は選んでられない。
そもそも相手から一対一を無効にしてきたし、多少はね?
「あっ、うちの旗がっ!
ずるい~!!
悔しいから元の次元に戻ったらふて寝しちゃうもんっ
次あったときにはまけないんだからっ!」
へへん、油断する方が悪いのだ。
パジャマロリには悪いが、勝負なのでな。
ちなみに俺も負ける気はないぞ。
【ディメンションバトル】
【包丁の煌めき】
【陣営旗が獲得されました】
【【包丁次元】WIN!】
【【包丁次元】が9位に昇格しました】
【【蛇腹剣次元】が10位に降格しました】
【勝利報酬は王宮にて選択してください】
【それぞれの次元へ送還します】
【Bottom Down-Online Now loading……】
アナウンスと共にその場にいた全員が光の粒子となり消え去った。
なんだかよくわかりませんが勝てましたね。
……ヨシッ!
【Bottom Down-Online Now loading……】