389話 隠されていた迷い
「オレは風を読みきってやるwww
【ペグ忍者】、そこでペグを垂直に振り下ろせwww」
「なのらっ!?」
「【短剣探険者】っ、ジャンプして短剣を突き上げろwww
角度は……う~ん、これは斜め四十五度www」
「わかったヨ!
くらっテ!」
「ボマードちゃんは……今夜オレの部屋に来いよwww」
「ええっ!?
いや~、でも私には心に決めた人がいるんですよね~!」
おいこら、真面目な指示の中にこっそりナンパを混ぜるな!
そしてボマードちゃんは俺を見ながらにやつくな!
いろんな意味で背筋が凍るぞ……
「はいはい、だからナンパしないでって言ったでしょ!
もうっ、こういうときくらい素を出してくれてもいいと思うのだけれども……」
【虫眼鏡踊子】が何度目かの注意をしている。
もはや慣れっこなんだろう。
「ンゴっwwwンゴっwww」
ダメみたいだな。
陽気そうに笑いながら風を読んで指示を出している【風船飛行士】を見つめる。
「あっwww
すまん、間違えたwww
テっ、テラワロスwww」
【風船飛行士】の指示はだいだい合っているが、それでも勘に頼っている分も多いようで指示を間違えてしまった【検証班】のモブプレイヤーが八つ裂きになっていった。
ん?あれは……
だが、俺が気になったのは光の粒子となって消えていくモブプレイヤーではなく【風船飛行士】の様子だ。
声と表情は一見するとただの陽気なチャラ男にしか見えないが、さっき声が一瞬震えていた。
それに、注視しないと分からないくらいだが手足が若干震えているな。
他の連中は気づいていないようだが、俺は気づけた。
何故なら俺はプレイヤーキラーだからな。
相手を仕留めるにあって、人間観察は必須項目だから当然得意だ。
その得意分野で気づいた【風船飛行士】の様子と、さっき【虫眼鏡踊子】の素を出してもいい……という発言……
もしや。
よお、【風船飛行士】。
ずいぶん虚勢を張ってるみたいだな?
「な、何言ってるんだwww
オレはいつも通りなんだが?www
虚勢はアリエナイwww
ほらっ、【釣竿剣士】はそこで釣竿一刀流【渦潮】だwww」
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!」
若干動揺しながらも指示は継続していく【風船飛行士】だが、徐々に精細が欠けていっているな。
やっぱり無理してそのキャラクター演じてるんだろ?
俺がそう伝えると、陽気な表情が一変して真顔に変わり何かを伝えようと口を開いた。
「……こうでもしないとオレには皆を引っ張れない!
お前たちみたいな他のトッププレイヤーと違ってオレは一般人の域に留まってる凡人だ。
それが上に立って指示をするんだ、せめて指示を聞くやつに不安を与えない泰然自若な様子を見せないと割に合わない。
……違うか?
【バットシーフ】はバットを水平に構えろwww
バントの要領だwww」
「監督みたいッスね?
やってやるっスよ!」
めっちゃ真面目な理由だった……
そして、【風船飛行士】が得意とする並列思考で俺と会話しながらも戦場への指示は忘れていない。
凡人とは思えない手腕だが、何故本人は凡人と思っているんだろうか。
風も読めてるし……
「同時に思考ができても、それを活かす発想が他の連中と同レベルでしかないんだよオレは。
【包丁戦士】、お前みたいな頭のネジが百本くらい締め間違えてるとんでもな作戦は思いつかないし、【トランポリン守兵】のように常に高潔な芯のある行動もできない。
【釣竿剣士】のように文字通り次元の違う動きと考え方は備わっちゃいない。
【検証班長】のように、そこにいるだけで与える安心感やカリスマ力、分析能力も持ってない。
今回は偶然風の気配が分かるだけで、こんな大舞台荷が重すぎるんだよ!」
【風船飛行士】の悲痛な声が吐露された。
いつもの陽気な様子はあくまでもロールプレイの一環だったってことだな。
しかも、責任感に耐えるための。
変にトッププレイヤーとして担ぎ上げられてしまったからこそ起きた悲劇と言ったところか。
気持ちは……まあ、わからなくもない。
俺だって【検証班長】みたいに立ち回れって言われたら同じようなことを思ってしまうかもしれない。
だけど、今回は違うだろ!
別にお前に他の誰かのように振る舞えって言ったやつはいないぞ?
お前がそう思い込んでいるだけで、他の連中はお前自身……【風船飛行士】としての実力を見込んで動いてるんだ。
【冒険者の宴】の連中がお前をリーダーとして活動しているのも、【トランポリン守兵】がずっとお前と同盟を組んでレイドボス討伐しようと思ったのも、【検証班長】がお前に知恵を貸すのも……
そして、俺が単独じゃなくて、【風船飛行士】お前の力を借りてレイドボス討伐をしようと思ったのも……悔しいがお前が『お前しかできない』ことがあると見込んでいるからだ!
それを勘違いするな。
「……【包丁戦士】」
んだよ?
「しょーがないなwww
そこまで言うのならオレが力を惜しみ無く貸してやるぞwww
んんっwwwオレたちに敗北はアリエナイwww」
そう言い切った【風船飛行士】の表情からは先程までと緊張や震え、迷いが消え去っており自信に満ち溢れていた。
見てろよ【オメガンド=メイローン】!
俺たちの反撃はこれからだ!
青春……?ですかね。
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