387話 真面目モード
意味不明な攻撃で突如大量の死に戻りが発生したわけだが……
「【刃状風竜】と【波状風流】……読み方が同じということは、片方がプレイヤーに配布される予定のスキル、もう片方が種族転生者用のスキルということかな?
竜の文字が入っている【刃状風竜】が【竜人】のスキルだろうけど」
【検証班長】がスキルの名前から分析を開始し始めたが、そういうことだよな。
【刃状風竜】の方がオリジナルのもので、【波状風流】が廉価版ってことだ。
【渡月伝心】が【獣人】の使う【兎月伝心】や【虎月伝心】の廉価版であったという前提がある以上、この【刃状風竜】と【波状風流】も例外じゃないだろう。
「その通りです。
これを元に考察をしていくのであれば、スキルの名前から大まかな性能や特徴を分析できるはずだね。
【渡月伝心】は他の人に心のうちを伝える……【虎月伝心】は伝えるということを力に変えていくものでした。
その法則が考えると……」
あっ、【検証班長】が熟考モードに入ってしまった。
こうなると指示には期待できないぞ……
【風船飛行士】っ、代わりになんとかしろ!
俺は全責任を【風船飛行士】にぶん投げた。
ここまで来たんだ、ここのトッププレイヤーである【風船飛行士】が責任を持つのが妥当だろ。
「ちょっwww
投げやり過ぎてワロタwww」
おどけた表情で笑う【風船飛行士】。
だが、次の瞬間めずらしく表情を引き締めて口を開いた。
「だが、大一番で任せられるというのも悪くない。
皆、オレに従え!」
いや、誰だよお前!?
急に真面目な口調で宣言した【風船飛行士】に、俺だけではなく他のプレイヤーたちも驚いていた。
「【釣竿剣士】率いる【釣り堀連盟】のタンク集団は【トランポリン守兵】率いる【お屋敷組】に追随して最前線で守りを固めろ!
【刃状風竜】がどういうものかわからない以上守りを固めて様子を見るしかない。
【検証班長】にヒントを渡すためにも必死で守りに徹しろ!」
「えっ!?
えぇ……【風船飛行士】さん雰囲気違いませんか?
いえ、真面目ならば私は生産プレイヤーとして真摯に従いますが!」
「こんな【風船飛行士】様は初めて見ましたわ!
ワタクシは【風船飛行士】様の意外性に驚いておりましてよ?」
早口で言葉を紡いでいく【風船飛行士】には普段の陽気な雰囲気が消し去られており、司令官のような厳粛さすら感じられる。
【風船飛行士】の変化にプレイヤーたちは困惑しつつも、力強い言葉に従い行動を開始し始める。
そんな【風船飛行士】がさらに言葉を発するために再度口を開く。
「【冒険者の宴】のメンバーはこれまで通り上空からの攻撃に専念しろ!
最悪戦死しても構わん、死ぬ気で第2試練の定時チェックの基準を満たしにいけ!
お前たちが今回の作戦の命綱というわけだ!」
「了解だよっ!
真面目になったリーダーは特に信用できるからねっ!」
「そうダネ!
こうなったら頑張るしかないヨ!」
【ブーメラン冒険者】と【短剣探険者】の双子は【風船飛行士】の雰囲気の変化に戸惑うことなく、むしろやる気を出している。
こうなるのも初めてじゃないってことか。
こいつらの様子からすると、これが【風船飛行士】の本領ということか。
「そういうことなのよね。
私があいつの彼女になったのもあの力強さなのよ!
だからこそ、ゲームで陽気な感じになってて驚いたのだけれども」
そりゃ驚くわ。
リアルであんな真面目な感じなやつが、「ワロタwww」とか言い始めたらそもそも同一人物だとすら気づかないだろう。
「そして、【包丁戦士】率いる【コラテラルダメージ】と【検証班】は各自観察や様々な手段での攻撃や防御を試していけ!
スキル、武器など手段は問わない。
ただ、突破口を見つけていけ!
……?風がおかしな挙動をしているな?
この違和感は……」
まあ、俺たちの役割はそれだよな。
【風船飛行士】に従うのは癪だが、ここはそれにのらせてもらおう。
「いや~、私は爆撃しに行きますよ!」
「ワシは……後方で待機だな!!!
何か必要になったらワシが作るぞ!!!」
「フェイちゃん、俺はあの風の刃を切り裂きにいくよ。
だから演奏で俺に力を貸して欲しいな」
【りょ、了解です……精一杯支援します!】
【コラテラルダメージ】のメンバーは俺の指示を待つこともなく、各々の判断で動き始めた。
……ってちょっと待て、聞き捨てならない言葉が聞こえたな。
風の刃だって?
【フランベルジェナイト】はいったい何を見て、何を切り裂きに行ったんだ……?
とりあえず遠巻きに観察してみると、最前線のチュートリアル武器がタライのタンク系プレイヤーが八つ裂きにされている瞬間だった。
何もないはずなのにいきなり八つ裂きになるってどういうことだよ。
そんなことを思いながら俺は深淵フルートによる演奏でバフを色々なやつにかけながら【検証班長】の分析を待つことにした。
あっ、【フランベルジェナイト】が何もないところでチュートリアル武器のフランベルジェを振り回してるな。
とうとう気でも狂ったか?
いや、元々か……
「何もないところ……八つ裂き……風……刃……波状……流……?」
【検証班長】が俺の真横でぶつぶつと呟いている。
「不可視……遠隔……飛翔……斬撃っ!?
そうか、そういうことだったんですね!?」
【検証班長】、何か分かったのか?
俺はハッとした表情になった【検証班長】に問いかける。
「あの【刃状風竜】は不可視の風の刃で切り裂いているんですよ。
それこそ、遠隔で斬撃を放てる……【包丁戦士】さんならどんなものか想像できるんじゃないですか。
そう、【フィレオ】の上位互換のようなものでしょうっ!!」
どうやら俺たちの前に立ち塞がったのは、相当厄介なものらしい。
これをどう凌ぐかが見所ですね。
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