323話 散り行く花弁
上半身だけの俺は悪竜の羽を羽ばたかせて、夢魔たこすの首をもらい受けるべく包丁を振りかざしていく。
「上半身しかないのに動いてるのは軽くホラーなのだ……」
そんな月並みな感想を言いながら蛸足でアンカーを扱ってきた。
風属性を纏ったアンカーによる一撃は、一発一発が破壊力抜群となっており、どれも命の危険があるものだ。
それを翼の機動力で間一髪かわして、夢魔たこすの胴体に包丁で切り込みを入れていく。
「このダメージくらいなら浅いのだ!」
ちっ、薄皮を切り裂くだけに終わったか……
下半身がないのと、慣れない悪竜の羽での飛行ということもあってか、重心を掴みづらく包丁での斬撃が甘いものになってしまった。
千載一遇のチャンスを不意にしてしまったか……
いや、薄皮一枚とはいえダメージを与えられたなら儲けものと考えた方がいいか。
それに、包丁の間合いに入ったままだから追撃もいける。
というわけで、スキル発動!【フィレオ】!
俺は最後の四肢を消し飛ばしながら飛翔する斬撃を繰り出す。
五体不満足になった俺だが、それでも飛翔する斬撃は構わずに夢魔たこすへと向かっていく。
近距離から放たれたからか、俺の狙い通りのところへと直撃させることに成功した。
俺が狙ったところとは……
「た、蛸足が切断されたのだ!?
スキルも解除されたからもう生やせないのだ……」
主力となっていた蛸足を切断することに成功したので、追い詰めるにはあと一歩というところだろう。
まあ、四肢をすべて失って敵前にいる俺の末路は見えてるが。
「蛸足を失っても片腕が残っているからアンカーはまだ使えるのだ!
くらうのだ!スキル発動!【スマッシュ】」
夢魔たこすの片腕で放たれるアンカーの攻撃が俺にクリーンヒットして、俺の全身が消し飛び、地面に岩の花弁が咲き誇り始めた。
「な、なんとか勝てたのだ……」
「それはどうだろうかwww」
「みすりちゃん負けちゃったのだ……?
でも、たこすちゃんが敵を取るのだ!」
「いやwww
オレが相手をするまでもないぞwww
後ろを見てみろよwww」
「後ろなのだ……?」
夢魔たこすが恐る恐る後ろを振り返るとそこには……
よお、元気そうじゃないか!
それじゃ、さよならだ!
完全復活した俺、【包丁戦士】の姿があったというわけだ。
四肢を取り戻した俺は、夢魔たこすの不意をついて首に包丁を回して身体と頭を切り分けていく。
そして、夢魔たこすは光の粒子へと変換されて死に戻りすることとなった。
人はどうしてこうも、力を求めるのだろうな……
「あのタイミングで【花上楼閣】使うのはリスキー過ぎただろwww
発動が間に合わなくなってそのまま死に戻りしたらどうするつもりだったンゴwww」
そう、【風船飛行士】が指摘してきたように俺が四肢を取り戻していたのは、実際に一回死に戻りしたからだ。
だが、リスポーン位置を死ぬ間際にスキル【花上楼閣】の力で無理やりここにセットし直したからこそこの不規則な次元戦争で敗北者として死に戻りすることなく、夢魔たこすの前に戻ってこれたわけだな。
死ぬ間際に岩の花弁が咲き誇っていたのは、俺が発動したスキル【花上楼閣】のエフェクトだ。
ちなみに、スキル発動が間に合わなくて死に戻りすることになったとしても、【風船飛行士】は致命傷を受けていなく、それに対して夢魔たこすは満身創痍だったからどちらにしても勝てただろうという打算はあったからな。
「いや、自力で勝てよwww
他力本願はワロエナイwww」
いや、ワロエナイって言いながら笑うなよ!
それに最終的に勝ったんだからいいだろ?
「そwうwいwうw問w題wかwよw
変なところで対応がドライだなwww
それでこそオレの宿敵だがwww」
お前の宿敵になった覚えはないが、今回は素直に助かったしこれくらいなら心のうちに秘めておいてやろう。
そんなピロートーク紛いのことを話していると俺の頭に無機質なアナウンスが鳴り響き始めた。
【ディメンションバトル】
【包丁の煌めき】
【アンカー次元のプレイヤーが殲滅されました】
【【包丁次元】WIN!】
【【包丁次元】が5位に昇格しました】
【【アンカー次元】が6位に降格しました】
【勝利報酬は王宮にて選択してください】
【それぞれの次元へ送還します】
【Bottom Down-Online Now loading……】
アナウンスと共にその場にいた全員が光の粒子となり消え去った。
冷や冷やさせてくれますね……
もう少し安全な方法で戦ってくれると安心して見ていられるのですが……
【Bottom Down-Online Now loading……】