317話 たこすちゃん参上!(挿し絵あり)
しばらく探索していると遺跡の入口周辺からコツコツと何やら足音が近づいてきた。
とうとう俺の対戦相手が現れたってことだな。
「そう!ドリーマたこすちゃんの参上なのだ!」
そんな愉快なセリフと共に現れたのは、赤みのかかったピンク色のボブカットの少女だ。
白いワンピースにカラフルな花柄がついていて、いかにも元気そうな少女だってことが伝わってくる服装だ。
そして、注目すべきは頭の上に生えているアホ毛。
なんか、このたこすちゃん(?)が動く度に連動してピコピコ動いている。
もはや別の生き物と言ってもいいくらい主張してくるから嫌でも目についてしまう。
さらに、目につくのは肩にかけられた大きな錨…思い返してみるとアンカーだ。
持ち手周辺にチェーンがついていて、それを引き摺りながら現れたので小柄な見た目とのギャップがインパクトとして残るだろう。
……でだ、こいつは名前を名乗ったのに【名前に関するスキル】が発動しなかった。
こいつの次元ではまだスキルになっていないのか……いや、スキルになってないだけなら俺の包丁次元の【名称公開】が発動するはずだ。
つまりこいつは偽名!?
「偽名なんて失礼な言い方は止めるのだ!
芸名って言って欲しいのだ!」
頬をぷくっと膨らませて怒ってきたたこすちゃん(?)だったが、見た目が可愛い系なので大して怖くなく、俺に対して全く効果がない。
「アホちゃうか?
初対面の相手にそないなことゆーても伝わらんやろ!」
おっ、なんかもう一人出てきたぞ!?
現れたのは緑色の髪に赤いカチューシャをつけた大学院生くらいの女だ。
……カチューシャに小さい摺鉢のようなものがついているのは気にしない方がいいのだろうか。
短めの青いマントのようなものをつけているが、服は基本的に緑色だな。
緑色に拘りがあるんだろう。
少し口調が荒めの関西弁で喋る大学院生はさらに口を開いてきた。
「ウチは【摺鉢みすり】や!
よろしゅう頼みますわ!
そして、こっちがウチの相方でMVPプレイヤーの【夢魔たこす】っちゅうんや。
読み方は……むまたこす……やな。
なんか夢魔をドリーマって自称し直す変わったやつやけど、堪忍してな?」
「変わってるのはみすりちゃんの方なのだ!
たこすちゃんは正常なのだ!」
「はいはい、分かったさかい落ち着いてや……」
手に持った摺棒をくるくると回しながら自己紹介してきた。
なんか愉快なコンビ漫才を見せられた気分だが……
これで条件が揃ったな!
愉快な連中に感謝だ!
【夢魔たこすの【名称公開】】
【夢魔たこすに知名度に応じたステータス低下効果付与】
【アンカー100待機】
【摺鉢みすりの【名称公開】】
【摺鉢みすりに知名度に応じたステータス低下効果付与】
【安価100待機】
「何なのだ!?
急にステータスが下がったのだ!?」
「こりゃ厄介なもの仕込んできたってわけやな……
こいつ、可愛い顔して曲者ってことやん!」
「可愛いのはドリーマたこすちゃんなのだ!
こいつには負けないのだ!」
「はいはい、分かってるっちゅーの。
ほな、気を取り直してバトル開始しよか?」
常に漫才のように掛け合いをしているこいつらを見ていると自分が観客になった気分になってくる。
……というか、本当に【名前に関するスキル】が発動しなかったな!?
どういうことなんだ!?
「ははん?
自分、アンカー次元の【名前に関するスキル】が発動しなかったことが気になるんやろ?
実はもう起動はしてるんやで~
驚いたやろ!」
……いや、驚くもなにもアナウンスも無いしハッタリだろう。
こいつら漫才コンビみたいなやつだから、さらっと嘘を混ぜてきてもおかしくないからな。
「嘘じゃないのだ!
……別に信じなくてもたこすちゃんは損しないからいいのだ!ふんっ!」
そう言い放ったたこすちゃんはアンカーの根元を持って振り上げながら俺に向かってきた。
勝手に拗ねるな!
ったく、一々調子の狂う連中だな……
アンカーを振り下ろしたたこすちゃんの攻撃を回避していく。
大型の武器のわりに素早いが、それくらいかわせるぞ?
「それくらい想定してたのだ!
これをくらうのだ!」
たこすちゃんはアンカーを振り下ろした勢いを使い、地面に食い込んだアンカーを放置して単身で突撃してきた。
アンカーについていた鎖を拳に巻き付けてパンチを繰り出してきた。
!?
流石にその戦いかたは予想してなかった。
たこすちゃんのステゴロ殺法は、アンカーを振り回してきた時よりも鋭く、勢いよく胸元まで迫られた俺には厳しい攻撃だ。
肩に一撃食らってしまったしな……
だが、俺の十八番、袈裟斬りをお返しとして受けてもらおうか!
俺は意気揚々と包丁をたこすちゃんに向けて振り下ろしていく。
「それは当たってあげないのだ!
バイバイなのだ!」
たこすちゃんは手に握っていたアンカーの鎖を思いっきり引っ張って、気持ち悪い動きをしながら地面に突き刺さったままのアンカーの元へと戻っていった。
そうか、アンカーは流れていくものを引き留めるものだからな……
それを活かした特殊な戦い方ってわけだな。
ゲームならではの戦い方でヤるやつは俺の好みだな!
「そんなことを言ってられるのも今のうちだけなのだ!」
面白い戦い方ですね。
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