30話 考察会議は踊る!~【魚尾砲撃】【渡月伝心】【フィレオ】編~
「次の議題は今回新たに開放されたスキルについてですね。
実はこれが直近では一番重要な議題かもしれないですよ、なにせ全てのプレイヤーに対して開放された初めてのスキルですから。
既に検証班にスキルについての問い合わせが殺到してますし、情報のすり合わせをしたいです。
このタイミングだけスキル情報についての取り纏めをしてる検証班員を呼びますね」
そう言って一度退席していった【検証班長】。
その隙にボマードちゃんへ気になっていたことを聞いてみる。
「そういえば、アイドル活動って今どんな感じなの?
曲出したりとかしてるんだろ?」
唐突な質問に虚を突かれたような表情を浮かべる爆弾魔だったが、質問の内容を頭のなかでかみしめるとどや顔に変わった。
だからお調子者って思われるんだぞ。
「いや~、深度が上がったときに出した新曲【Booooom! Down】がいい売り上げで!
そろそろ公式ファンクラブなんかも作ったりしちゃおうと思ってますね~
いや~、私の可愛さが周知されちゃえばこんなものですよ、どゃ!」
そ、そうか……
正直全く実のある話を聞けなかったのは想定内だ。
というかなんでこいつがこの会議にいるのか自体が疑問ではある。
こいつが優遇されているのは十中八九現状こいつの固有スキルみたいになっている【名称公開】のおかげだろう。
そうしてボマードちゃんと雑談していると【検証班長】が戻ってきた。
そして、連れてきた人物には見覚えがあった。
「紹介します、と言っても【包丁戦士】さんはもう知ってますよね?
こっちにいるのが、検証班の秘密兵器【ペグ忍者】です」
そこには【検証班長】ですら敬称をつけない淫乱ピンク髪猫耳頭巾ペド忍者がいた。
こいつ、秘密兵器って言われてたけど、戦力的に検証班に組み込まれただけじゃなくて、普通に検証班として情報の取り纏めとかもやってんのか……
意外すぎる……
「そこの狂人に失礼なことを思われている気がするのら……
それでは改めて自己紹介でしゅ、【ペグ忍者】なのら~
よろくしなのら!」
語尾が鬱陶しい忍者だ……
「この【ペグ忍者】が今回開放された新スキルの情報を聞き込んだり、実際に試したりしてくれました。
一晩中駆け巡ってくれたのでそれなりに有益な情報があると思いますよ?」
「期待してほしいのら!」
普通に一晩中駆け巡るくらいゲームできる……ということはリアルではそれなりの実年齢ということだろう。
この語尾とかロールプレイなのか(困惑)
リアル情報詮索マンと化してしまったが、こいつの情報は普通に気になる。
不思議人間過ぎるし……
というか、諜報活動とか忍者っぽいことまともにやってるやん!
言動と性癖さえまともなら本当に有能なんだろうなぁ。
「今回開放されたスキルは【魚尾砲撃】【渡月伝心】、【包丁戦士】しゃん限定で【フィレオ】この3つなのら~」
いや、もう1つめっちゃ地雷っぽいのがあるがこれは後で伝えればいいか……
そう思っているとボマードちゃんと目が合った、お前もか。
「【魚尾砲撃】は大元がウナギ尻尾のレイドボスが使っていた極太レーザーだと思われるのら!
発動したプレイヤーの体内にエネルギーが溜まり……暴発するらしいのら」
「ぼぼぼ、暴発ですか!?
いや~、物騒なスキルですね!?」
お前の固有スキルも物騒だから安心しろ。
「暴発の結果、死に戻りするらしいのら~
ただ、半径3メートルくらいの爆発になるから自爆テロには使えるのら!
多分、レイドボス用に調整されてるから底辺種の人間だとレーザーとして発射できないのかもしれないのら~」
「ふむ、今後のレイドボス戦では貴重なダメージソースになる可能性がありそうですね。
スキルにデメリットを仕込むのが好きな運営のことだから、他にも隠された何かはあるかもしれないですが、大体の用途は分かりました。
ありがとうございます」
「いや~、私が使うと本当に爆弾魔になっちゃいますね笑
【名称公開】との使い分けが必要になりますけど……
悩みますねぇ……」
むむむ、と唸っているロリ巨乳を横目に見ながらこのスキルについて考える。
逆に考えればレイドボスなら使えるように調整されている……ってことだよな。
やはりあれはそういうあれなのか……
「【渡月伝心】はスキルの名前からすると、ウサギ部分のレイドボスが持っていたスキルだと思うのら!
スキルの効果は個人メッセージを他の人に送れるみたいなのら~
デメリットは1分の行動不能状態になってしまうというものみたいなのら~」
「今まで、情報を遠くに伝える手段はゲーム内の掲示板しか無かったですからね。
なるべく他の人に内緒にしておきたい情報を遠くに素早く伝えるためなら、このスキルは有用ですね」
う~ん、ただあれだけ苦労してレイドボスを倒して手に入れたスキルが、メッセージを送れるだけのシステム機能の開放か……
デメリットも考えると戦闘中に使えるやつじゃないし……
なんか外れを引いた気分だなぁ。
「あっ、これフレンドにしか送れないんですね……
【包丁戦士】さんに送ろうとするとエラーが出ました」
早速スキルを使って送ろうとした【検証班長】だったが、新たな情報が分かったみたいだ。
というかこのスキルその条件だと俺にはほぼ死にスキルなんだが!?
レイドボス討伐の功労者がそのスキルの恩恵をほぼ得られないなんて、クソゲーか?
……元々クソゲーだったな、このゲーム……
「検証班としては願ってもないスキルですねこれは!
使う機会も増えそうですし、他の効果とか見つかったら教えてあげますから、元気だして下さいよ……」
「いや~、これはかわいそうですね……」
「ざまーみろなのら~」
貶されたり慰められたりされてる……
惨めすぎる……
「ま、まあ【包丁戦士】さん固有のスキルもあるじゃないですか!
あれはどうなんですか、【フィレオ】でしたよね?」
露骨に話題を変えに来たな。
いや、この話題から変えてくれるなら助かるが。
「少し試してみたが斬擊をすると、空中に不可視の斬擊を作れるスキルみたいだ」
「いや~、何ですかそのスキル!?
今までのラインナップからすると格段にかっこいいじゃないですか!」
「今話した内容だけだとそうだろうな。
ただ、例に漏れずデメリットもある」
「あぁ……やっばりあるんですね?」
当然ですよ、生産プレイヤーなら。
と、花飾りの少女の真似をしたくなった。
「大きいデメリットだと、作る斬擊のサイズにもよるが一回斬擊をするだけで腕が一本消し飛ぶ。
急に腕が消し飛んだ時は流石にびっくりしたぞ!」
「ひぇっ、見たいような見たくないような……」
「あと、デメリットというかスキルを使うための条件だが斬擊を繰り出せないと使えないスキルみたいだ。
このムチでやってみようとしたら発動すら出来なかった。
出せても威力が腕一本を対価だと考えると少し割に合わないかもしれないなぁ……」
少なくともしばらくは包丁専用のスキルということになりそうだ。
腕が消し飛ぶスキルを頻繁に使うかどうかと言われると微妙だが。
「う~ん、新スキルについてはこれくらいでいいですか?
次の議題ですが……」
【検証班長】が次の議題に移らせようとしているが。
「いや~、ちょっと待ってくれませんか!
まだスキルはありまぁす!」
ボマードちゃんがそれを引き留めた。
「個人アナウンスで新しいスキルが手に入ってました!
……内容的に、【包丁戦士】さんも手に入れてますよね?
深度が足りていれば、ですが!」
やはりそうだったか、あの時目が合ったのは偶然じゃなかったんだな。
とりあえず便乗して。
「その通り、俺もおそらくボマードちゃんと同じスキルを手に入れている。
それは……」
「「【深淵顕現権限】だ(です)!」」
ハモった。
ハモった。
ハモりましたね。
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