286話 崩壊と解析
「さて、ピッケル次元のプレイヤーを全滅させたわけですが、劣化天子はこのまま望遠鏡次元の拠点へ向かってください」
まあ、それ自体は元々やろうとしていたから問題はないが、お前はどうするんだ?
わざわざ今ここで俺に指示するってことはお前は行かないんだろ?
「……行かないというより、行けないというほうが正しいですね。
悔しいですが……」
それってどういうっ!?
俺がその言葉の真意を問いかけている最中にそれは起きた。
【菜刀天子】の身体がボロボロと崩れていっているのだ。
いや、崩れているというよりは光の粒子に変わっていっているというのが正確な表現ではあるが、見た目はボロボロと崩れていっているようにしか見えない。
どうしたんだその身体。
「この次元戦争では【上位権限】【天命昇華】を使うことを想定されていないからですね。
不安定な空間で、ましてや土地の加護もない状態で無理をして起動したのですから当然の結果ではあるんですけど、それでも悔しいです」
自分はまだ戦えるとでも言いたそうな表情の【菜刀天子】だったが、その意思とは関係なく身体が消えていっている。
まあ、まだ負けたわけじゃないんだ。
俺とボマードちゃんの擬きとあのマフィアのボスみたいなので勝ってきてやるさ。
「戦力的には不利ですからね……
精々期待しないで待ってますよ、その足掻く姿を楽しませてもらいます」
そんな上から目線の物言いを最後に【菜刀天子】は消えていった。
上から目線ではあったが、かなりデレていた気がするし、戦闘中の発言からしても好感度が上がってきていると思う。
このゲームは別にギャルゲーってわけじゃないから好感度を無理に上げる必要はないが、次元天子である【菜刀天子】の好感度は上げておいて損はない。
そんなわけで、ピッケル次元の拠点を後にして望遠鏡次元の拠点へと向かうことにした。
そして、その拠点に向かっている最中に、ボマードちゃんとそれを追いかける四人のプレイヤーと思われる姿を発見したので俺から近づいていく。
「ゲゲッ!?
こんなところで鉢合わせるなんて運がないぞ!」
「俺様の半身じゃないカァ!
こっちに来たってことは1つ潰してきたんだナァ?」
その通りだ。
それで、引き連れてるそいつらは?
「別に引き連れてるわけじゃないんだがナァ!
こいつらは俺様を追いかけ回してくるストーカーだゾォ!」
ボマードちゃんのロリ巨乳ボディを追いかけ回している連中って言うと完全に不審者集団だ。
「ウググッ!?
違う違う!
おれたちはその娘を倒そうとしていただけだぞ!
おれは望遠鏡次元のMVPプレイヤー【牛乳パフェ】だぞ!
決してストーカーをしていたわけじゃないぞ!」
【牛乳パフェ】ぇ?
ネットゲームにありがちなネタネームを使ってくるやつととうとう遭遇してしまったな。
VRMMOでネタネームを使うプレイヤーは減少傾向にあるが、それでも根強い層がいるってわけだな。
この牛乳パフェはソフトクリームのような渦巻いている髪型で髪の色も白色というキャラクターネームに沿ったビジュアルをしている。
服も、ズボンも、靴も白という拘りようだ。
そして、お前!
今名乗ったな!
【牛乳パフェの【名物怪々】】
【牛乳パフェの解析状況に応じて状態異常付与確率が上昇】
【牛乳パフェの【名称公開】】
【牛乳パフェに知名度に応じたステータス低下効果付与】
「ゲゲッ!?
おれがスキル発動しただけなのにデバフかけられたぞ!?」
この反応を聞けるだけで次元戦争に参加している愉悦を感じられるな!
ちなみに、俺は【包丁戦士】。
偽名だ!
「ウググッ!?
だけど【名物怪々】が失敗したわけじゃないからなんとかなるぞ!
おれはこの【包丁戦士】をやる、お前たちはそのロリ巨乳を仕留めるんだぞ!」
「「「了解!」」」
俺を仕留めると宣言した牛乳パフェは望遠鏡を右目の前にセットした。
そんなことしてると俺の包丁を防げないぞ?
隙を見せた牛乳パフェに向かって突撃し、得意の袈裟斬りを仕掛けていく。
そんな俺の様子を見ても牛乳パフェは望遠鏡を覗き込むことをやめる気配がない。
そして、俺が包丁を振り上げたとき目の前にいるソフトクリーム野郎の牛乳パフェに動きがあった。
「スキル発動!【キャスリング】!」
カタカナスキルか!
牛乳パフェがいたところには石ころが現れて、牛乳パフェは崖上まで移動していた。
位置入れ換えスキルか、なんて便利なスキルを持っているんだ。
……羨ましいぞ。
「ケケッ!
でも、制約も多いんだぞ……」
とはいいつつも、俺からかなり距離を離すことに成功した牛乳パフェはそのまま望遠鏡で俺を覗き込んでいる。
……あれは一体何をしているんだ。
流石に次元戦争、敵の前で無意味なことをMVPプレイヤーがするとは考えられないからな。
きっちり警戒していくとしようか。
「ケケッ!
……解析率五パーセント……
もう少ししたら行くぞ……」
「テメェからは陰湿な臭いがプンプン漂ってくるな?
どう考えても俺の天敵って感じだな?」
「ふん、我の直接の敵対者ではないがその同類を屠るのも悪くないのう。
若造が、その減らず口叩き直してやろう」
「ヘッ、おもしれぇ!
やれるもんならやってみろよ!
スキル発動!【彩鳥炎眼】!」
「これは……聖獣の眼の力かのぅ。
どれ、我もそれにつきやってやろう」
【Bottom Down-Online Now loading……】




