284話 転回操車
俺のスキルチェイン【渦炎炭鳥】と石動故智の【紅石鉱山】が激突する。
石動故智の放った【紅石鉱山】は赤色に光ったピッケルを地面に振り下ろし、そこからルビーのような鉱石が生え始め、敵に向かって伸びていくというものだった。
俺の火柱と石動故智の鉱山が激突すると辺り一帯に赤色の目映い光が放たれた。
その光の中、火柱が鉱山を溶解し、鉱山が火柱を鎮火し合うというせめぎあいが発生している。
……ちっ、圧されているな。
このままいくとあの鉱山に串刺しにされてしまう未来が見えてきた。
天子の羽が【渦炎炭鳥】によるエネルギーの燃焼の対価としてぼろぼろと消え去っている最中であり、ここからの回避は難しいだろう。
緊急回避のための【渦炎炭鳥】もクールタイム中だ。
万事休すかと思い、目を閉じてその時を待つ俺。
が……
チャイナ娘の顔のカットインが画面に流れた。
「……不允许假品っ!
【兎月伝心】」
なんかミューンが手に装着していた爪から紫色の光の円環を発して、石動故智の身体を切り裂いていった。
ミューン、あのお前が相手をしていたプレイヤーたちはどうしたんだ?
まさか放置してきたのか?
「……たおして、きた。
しんぱい、むよう……」
ミューンは立派な胸を張りながらそう断言した。
また、不意な横やりによって身体を切り刻まれた石動故智は身体が光の粒子に変換されていっており、死に戻りするのを待つだけとなっていた。
「まさかこんな形でコッチが負けるなんてね。
コッチたちの防御力を、君たちの攻撃力が上回ったっていうことだよね」
紙一重だったけどな。
ミューンの増援があと少し遅ければ俺は鉱山によって串刺しになっていたから、五分五分にはなっていただろう。
プレイヤー3人を相手にここまでのスピードで勝利してきたミューンの卓越した戦闘狂っぷりに脱帽するしかない結果っていうのは間違いないだろうけど。
「そうだよね。
コッチもまさか3対1で勝ってくるプレイヤーがいるなんて思ってなかったから防御しながら味方が増援しにくるのを待っていたのに、誤算だったよ。
しかも、コッチたちの戦いが終わる前に倒してくるなんて、実はそのチャイナ娘ちゃんがMVPプレイヤーだったりしないかな?」
残念ながら、MVPプレイヤーは間違いなく俺なんだよな……
こいつは特別な出自だから、強いのは当然と言えば当然だ。
まあ、スペックはかなり落ちているみたいだから、プレイヤー相手でも3人同時はきつかったみたいでミューンも満身創痍っぽいが。
「そう、なんだね……
次こそはコッチがきっちり勝つから覚えていてね」
おう、俺こそ今度は自分自身の実力でお前に勝つつもりでいるからな!
首を洗って待っていろよ!
俺がそう言い残すと、石動故智は死に戻りした。
これで、残す相手はピッケル次元の天子ロッケだけとなった。
天子同士の戦いを見ると、【菜刀天子】が【渦炎炭鳥】の火柱攻撃によって炎に包まれている瞬間だった。
おいっ!?
既に負けかけじゃないか!
「あらら……
コッチちゃん負けちゃったじゃない!
これはかなり想定外だけど、包丁次元の天子はこの有り様。
私だけでもあなたたち2人くらいすぐに死に戻りさせてあげるわ!」
【菜刀天子】が火柱に包み込まれており、もはや勝った気でいるピッケル次元の天子のロッケは標的を俺とミューンに定めて攻撃を放とうとしている。
開戦は避けられないか……
天子との戦いは基本スペックの差がありすぎて正直勝ち目がかなり薄い。
こっちには元レイドボスのミューンこそいるが、基本スペックがプレイヤー基準近くまで低下しており、既に満身創痍。
俺も同様にかなりダメージを負っている状態だ。
このまま挑んでいいものなんだろうか。
「……みまもって、いれば、いい。
きっと、かって、くれる……」
ミューンが意味深なことを呟いた。
それってどういうことなんだ……
「!?
あんた、なんでそんなところにいるのよ!」
そう思った通り次の瞬間、火柱に包まれていたはずの【菜刀天子】が俺の後方から出現した。
ええっ!?
なんでだよ!
それなら今もなお、火柱に包まれているあの【菜刀天子】は何者なんだ?
そう疑問に思ったが、親切な【菜刀天子】がすぐに教えてくれた。
「【火出惹没】ですよ。
拠点防衛に使っていましたが、天子相手ではやむを得ず。
私のためのスケープゴートになってもらいました。
おかげで直撃は避けることができました。
……それでも私と同格の次元天子が相手なだけあって、完全にかわすことはできませんでしたが。
これも、【火出惹没】を心得書で解放した劣化天子のおかげです。
ここに来てあれが役立ってくれて助かりましたよ」
焦げ付いた中華服を見せながらそう呟く【菜刀天子】。
悔しそうな表情でこそあるが、一方で誇らしげな表情でもある【菜刀天子】を見ると地道に【菜刀天子】のためにスペック向上に付き合った甲斐があるというものだ。
ここからです。
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