26話 レイドボスは友達
今までレイドバトルで一度も発生したことがなかったノックバックが発生した。
ジェーがクラクラしているので、頭を執拗に殴打していたことによって起きたと推測できるが、白虎ジェーになる前にはこのようなモーションが起きたというのは聞いたことがない。
体の紫色部分が尻尾に移動したことが原因なのだろう。
あれはきっと状態異常になりにくくするのか打撃耐性を得るかの効果が付与される色素に違いない。
【釣竿剣士】の打撃で尻尾がびくともしていないのに対して、白虎部分が数回の打撃で特殊ノックバックを起こしたのがその証拠だ。
本来はもう少し耐性を持っているのだろうが、【名称公開】のデバフによって防御力が激落ちしているのだろう。
【真名開放】とやらはステータスの割合によって強化するバフスキルのようだが、さっきから見ていると白虎部分は素早さ、攻撃力の比率が高いのに対して、尻尾部分は攻撃力、防御力の比率が高い。
逆に言ってしまえば、それ以外のステータスは軒並み【名称公開】のデバフによって落ちていると言っても過言ではない……多分。
まあ、そんなわけで特殊ノックバックしてるので後ろで待機していた連中も前線に急行し白虎ジェーをタコ殴りにしている。
なお、俺は【ペグ忍者】を【釣竿剣士】に近づけないため先程と同じように尻尾を攻撃している。
「おい、【ペグ忍者】この尻尾斬擊に弱いぞ」
「試してみるのら~」
小柄な身体からペグを使って斬擊が放たれる。
逆手持ちからの切り上げだ。
先ほど俺がやったように切り込むような攻撃なら通じるだろうという推測だ。
「う~ん、全然攻撃が通らないのら~!!
【包丁戦士】しゃんの嘘つき!!」
えぇ……、どうやら俺の推測は間違っていたみたいだ。
【ペグ忍者】の切り上げはガキンという音を立てて見事に弾かれてしまっている。
さっきまで俺の攻撃が通じていたのは一体……?
特殊ノックバック時の固有状態なのか、再度俺が鱗を剥がすように包丁で切り込みを入れてみる。
……やっぱり攻撃が通るな。
「なんで【包丁戦士】しゃんの攻撃だけ通るのら~?
ずるいのら~!!」
こらこら、騒いでないで尻尾以外の部分を攻撃してろよな。
臀部とか足とか、【釣竿剣士】から離れた位置でも攻撃できる白虎部分はあるだろう?
「正論なのら……」
とりあえず何故俺の攻撃だけ通るのか考えながら尻尾を攻撃しておくか。
キャベツを切るときのように包丁を尻尾に合わせて、片手を包丁に置き全体重をかける。
そうして考える。
攻撃が通ったのは刃物だから……?
そんなシビアな基準だとは考えにくい。
ペグの先端も尖っており、斬擊をするには充分なはずだ。
【釣竿剣士】の攻撃が通らなかったのは打撃だからだと思ったが、今回の【ペグ忍者】の攻撃であてが外れてしまった。
他に考えられそうな要素……
プレイヤーのパラメーター?
「あっ、深度?」
いや、たしか【釣竿剣士】もリアルの超技術をこのどん底ゲームで披露したから称号を獲得していると言っていた。
そうなると、【釣竿剣士】も深度を上げているはずだ。
なので深度の有無で攻撃が通ったとも考えにくい。
いや、俺は深度2だからその数字の差で防御を突破できた可能性があるのか。
これを試すには今はこの場にいないボマードちゃんを連れてこないと検証出来ないので保留。
「【釣竿剣士】ちゃんの謎称号欲しいのら~
あれがあればよくわからないこともできそうなのら~」
こいつ、俺とか【検証班長】のときは~しゃんとつけるが、【釣竿剣士】の時だけちゃんをつけるというのはなんか理由があるのだろうか……
それにしてもあの称号、俺も欲しいよな……
光ったり、鉄球を軽々振り回す釣竿一刀流をこのゲームで使えているのはあの称号に付随しているabilityが理由らしいが、それでもすご……い?
「あっ、abilityだっ!」
【釣竿剣士】の動きを目で追っていて思い出した。
俺もよくわからない称号をゲットしていて、その時にデメリットしか教えてくれなかった【会者定離】というabilityがあったじゃないか。
デメリットの塊過ぎて、意識的に忘れていたので完全に頭から消えかけていた。
フレンドリストの全解除と、他のプレイヤーとのフレンド登録が今後出来なくなるというボッチスキルだ。
それでも何故か【槌鍛治士】が灰になったときにはこのabilityが起動したアナウンスが流れたのだが……
ともかくこのスキルが起動したのが理由で攻撃が通るようになった可能性がある。
そう思い、まっさらになったフレンドリストを虚しく眺めようと開いた時に本来全て解除されているハズのフレンドリストに文字が浮かんでいることに気づいた。
っっっっ!?!?
【寄聖獣 ジェーライト=ミューン】
!?
何かの間違いだと思い、目を擦り再度フレンドリストを開き直す。
しかし、そこには先程と変わらず同じ文字が浮かんでいた。
【寄聖獣 ジェーライト=ミューン】
「プレイヤーとはフレンドになれないのにレイドボスとフレンドになってしまうとは……?
これは一体!?」
戦闘中に目覚めた見えない絆のようなもの……と思うしか今は無さそうだ。
考えるのをやめた俺は黙々と動かないジェーの尻尾に切れ込みを入れていく。
今までのように動いているわけじゃないので、体重全てを包丁にかけられるのがありがたい、尻尾の七割の深さまでこの時点で切り込めている。
それ以外に身体を動かすことが出来ないので頭を攻撃しているチームを見る。
【釣竿剣士】は鉄球から、俺が沼地エリアで渡したトゲトゲルアーに切り替え白虎の皮膚を満遍なく傷つけていく。
【検証班長】は検証班の【モブ】と一緒に攻撃している。
ただ、【検証班長】の武器はビーカーという実験で使うようなガラスケースで、あまりダメージにはなってなさそうだ。
検証班【モブ】は片手剣なので、それなりにはダメージソースとしてなれているようだ。
【検証班長】……部下に負けてるぞ……
【検証班長】の愛瓶攻撃を微笑ましく見て、一度視線をこっち側に戻そうとする。
そして、近くで攻撃している【ペグ忍者】に目を向けようとしたときにそれは起きた。
……いや、何が起きたんですか?
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