2380話 蟹ハサミ投入!
戦線の一番前でひたすら包丁の腹を使って触手を受け流し続ける俺、【包丁戦士】。
ダメージソースにはなれていないが、この安定した戦況の中で無理をしてダメージを狙いに行くよりは味方の被害を少しでも減らすために防御に徹しているのが無難だろう。
俺が再び活発に動くとすれば味方の戦線が崩壊した時か、【カニタマ】の行動パターンが変わったときだろうからな!
無理をして変える必要がないならそれに甘んじさせてもらうとしよう。
なにせ、今回は俺が集団のトップとして動いているわけじゃないし、俺が死に戻りしても総崩れになる軟弱な盤面でもないからだ。
【海図航海士】をトップとして、それを指揮官的に支える【ロイス=キャメル】、戦力的に支える【マキ】、【釣竿剣士】もいる。
包丁次元でこれほど豪華なレイドボス討伐総力戦のメンバーが揃ったことは今だかつてない。
……例外は【大罪魔】討伐だが、あれは流刑次元でのことだからイレギュラーみたいなものだろうよ。
あれはMVPプレイヤー10人と+αみたいなドリームチーム、いわば映画版でしか実現しないくらいの共闘だったし。
何はともあれ、今の俺は【カニタマ】の黒い触手と戯れるだけのお仕事だ。
感覚を凝縮させていることもあって、思考にかなり余裕があるからいつもより色々と多くなことを考えてしまうのかもしれない。
……と、呑気なことを考えていたバチが当たったのだろう。
明らかに俺に向けた重厚な声が脳内に響き渡り始めた。
【先程から当方の触手を何度も防ぐ輩がいるようだ】
【けしからん】
【……ふむ、こやつは先程当方に世界剣種を刺し込んだ者ではないか!】
【不遜にもほどがある】
【これ以上目障りになる前に仕留めておくべきか】
俺が悪目立ちしすぎたからか、【カニタマ】からの死刑宣告にも近い声が脳内に鳴り響き始めたわけだな。
「ほっ、【包丁戦士】さん!?
これから何が起こるんですか!?」
「【包丁戦士】様、お気をつけを!
とても嫌な臭いがします!」
俺と同じ様にこの戦場にいるプレイヤーたちも【カニタマ】の声を聞いていたので【シャルル=ホルムズ】や【エラ=サンドレラ】が不安を示していた。
そりゃ、そうなるよな……
これは俺がヘイトを貯めすぎたことがトリガーとなって起きた行動パターン変化の予兆だろう。
だが、これまでの演習では一度もこのパターンに陥ったことがない。
だから【シャルル=ホルムズ】が俺にこれからどんなことを起きるのか聞いてきたのだが、俺にも何が起きるのか分からないと答える他ないわけだな!
さて、どう考えても良いことが起きるとは思えないが、何が起きるのやら……
そうして身構えていると俺の両横に苔むしたカニのハサミが現れた。
【カニタマ】はこれまで変質した時に生えた触手をメインで戦ってきていたが、ここに来て満を持して元々あった部位であるハサミを使い始めたか!
【他の者はこれまで通り触手に任せておけばよかろう】
【だが、お前は当方が直接手を下す】
【当方のハサミで擂り潰してやろう】
【カニタマ】はそう言ってハサミで俺に殴りかかってきた!
挟むんじゃなくて殴りかっ!?
動きもさっきまでの触手とは違って、元々【カニタマ】にあった部位だからかかなり精度のいい動きをしてくる。
それに……
……重いっ!?
先ほどまではそこまで感じなかった攻撃の重みが一撃一撃に加算されてきているのだ!
俺も何とか包丁の腹で受け流していったが、これは何回も出来るものじゃないな!?
威力を完全に受け流し切れなかったし、何回もやっていたら外傷はないかもしれないが、先に俺の体が衝撃に耐えられなくなる!
「【包丁戦士】さん、大丈夫ですか?」
「【包丁戦士】様、皆で援護に……」
いや、大丈夫だ。
むしろ俺の周りに他のやつらが来られると邪魔になる。
どうせ俺にヘイトが集まっているんだから助っ人に誰が来ようと俺しか狙われないし、それに巻き込まれてこっちの手数がどんどん減っていくだけだ!
それならお前らはお前らの役割を遂行しろ!
このハサミは俺が対処してやる!
「【包丁戦士】さん、その熱意に陶酔!
俺も何か引き受けられるようなプレイヤーにならないと……
目標に全力邁進!」
何か俺の姿を見て【海図航海士】が勝手に感銘を受けているようだが、別に俺を参考にする必要はないぞ?
尊敬してくれる分には嬉しいが、もう少し適任なプレイヤーはいくらでもいるだろ……
劣化天子の悪影響が他のプレイヤーに及ばなければいいのですが……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




