2376話 圧倒的デバフの代償
それぞれがそれぞれの役割を果たすべ行動くを開始した。
俺が【封地剣マヒク】を使い【カニタマ】にデバフを与え、船外への警戒を【海図航海士】が行い、船内に攻め込んできた【カニタマ】の触手は【シャルル=ホルムズ】と【エラ=サンドレラ】が迎撃している。
魔海城船アンサンセという広大かつ複雑な構造の船を戦場としているんだから、これくらいの役割分担をしておかないとな!
これまで戦線が不安定だったのも、こんな感じで役割分担出来るやつが不足していたからなんだろう。
実際、今はかなーり安定しているからな!
これまでの練習も兼ねてということになるが、実戦を何度も行ってきた連中ばかりということもあるよなぁ。
こればっかりは替えがきかないものだからありがたい話だな!
【当方に何度も懲りずに世界剣種を挿し込むとは……】
【万死に値すると知れ!】
うわっ!?
戦況の安定を喜んでいたら【カニタマ】が俺にぶちギレていた。
いや、気持ちは分かるんだがお前みたいな巨体と不気味な見た目で言われると素直にビックリするんだって!
そんな俺の抗議とは裏腹に【カニタマ】は黒く染まった触手を俺の方へどんどん回し始めた!
……くそっ、さっきまで俺をほぼ放置してたくせにデバフを受けた瞬間からこれかよ!
沸点低すぎるってば!
この攻撃を避け切りながら逃げるためには今のままでは無理だろう!
なら、推進力を増やすのみだ!
スキル発動!【竜鱗図冊】!
俺は巻物から竜鱗を生み出し背中から漆黒の竜翼を生やしていった。
翼を生やす方法は幾つかあるが、まずはこれだ!
今は攻撃に移るんじゃなくて、逃げに徹するためだからな。
比較的攻撃手段に影響の少ない【竜鱗図冊】で生み出したものなら今の状況にピッタリなわけだ!
俺だけではあれだけの触手の対応をするのは難しい……というよりやりたくないから何とか【エラ=サンドレラ】たちがいる場所まで触手を引き連れていって対処させないとな!
【エラ=サンドレラ】の嗅覚を利用した攻撃範囲察知と、【エラ=サンドレラ】の指示に慣れたそこにいる人員たちがいれば引き受けてくれるはずだ!
【逃がさぬ、逃がさぬぞ……】
一直線で【エラ=サンドレラ】たちがいるところに向かえたらすぐに解決するんだが、それは【上位権限】AIを積んでいる【カニタマ】も当然把握している。
だからこそ、俺の行く手を阻むように触手が目の前から現れることもあり、触手の壁を避けるために俺の移動方向を変えざるを得ない。
それを繰り返していくと、俺は一向に【エラ=サンドレラ】たちのところへ合流することが叶わないまま【カニタマ】の身体の上をひたすら逃げ回ることになっていた。
これは予想して無かったんだが、俺が一番危険な役回りになってないか!?
そう叫んではみるものの俺の声に反応するプレイヤーはおらず、反応してくれるのは物騒なコイツだけだ。
【ちょっこまかと五月蝿い】
【まるで羽虫のようではないか】
【当方の周りを飛び回ることは許しておらぬぞ?】
俺を羽虫のように思っているようで、それを振り払おうとしているわけだ。
スペックの差が歴然だから気持ちは分からないでもないが、羽虫扱いは心外だぞ!
いや、確かに俺は虫型レイドボスの力を身体に宿すこともあるが、今は虫というより竜の力を宿しているからな……
それはそうと、【カニタマ】による俺への進路妨害は一見大雑把な塞ぎ方に見えて緻密なものとなっている。
俺が逃げる方向をある程度操作していて、他の戦線へ伸ばすための触手を減らさないように最低限の力の行使だけで出来るようにしてるっぽいからな!?
俺のことを鬱陶しい、五月蝿いと思っているのにもかかわらず対応する触手を少し増やしただけで、過剰な力を割いてきているわけじゃない。
激情はあっても、冷静さを欠かしていないってことだ。
これはやりにくいな……
もはや逆に俺が全ての触手を引き受けて回避しつづけるということも考えたのだが、この冷静さを持つ【カニタマ】相手にその戦術は少なくとも今使えないだろう。
この後激情をさらにかきたてるような行動をこっちから仕掛けられるなら話は変わってくるんだが、その見通しも立ってないしそもそも今は俺が触手から逃げ切るのに精一杯で他のアクションを全く起こせないことに問題がある。
いや、回避タンクとしての役割を果たしていると言われたらそれまでなんだがな……
劣化天子一人の犠牲で多くのプレイヤーが助かっているならそれは美徳でしょう。
価値ある逃走劇と評価してもいいかもしれません。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




