23話 ミチモンスター
極太レーザーの光から現れたのは見慣れたレイドボス、ジェーの姿ではなかった。
紫色に覆われていた巨大ウサギの体色は純白へと変化し、今までの毒々しい印象とは一変して、神々しい姿を雰囲気を全身から漂わせている。
それとは対照的に、ウナギ部分が紫色の体色に変化している。
色についての変化はこの程度なのだが、突っ込みどころはここからだ。
巨大ウサギは虎に変化している。
繰り返す。
巨大ウサギは虎に変化している。
いや、完全に別種族なんだが?
そして、ウナギ部分は鱗が刺々しく変化している。
また尻尾のウナギ部分は2本、いや2匹に増えてしまった。
意味不明すぎる……
これ今までの攻略法通じるのか?
そう思っている俺たちプレイヤーにアナウンスが鳴り響いた。
【レイドボスの【名称公開】】
【レイドボスに知名度に応じたステータス低下効果付与】
「は?」
「えっ?」
「なんで!?」
ジェーの突然の意味不明な行動に困惑する俺たちだったが、非情にもアナウンスはさらに鳴り響く。
【異次元の風が吹き荒れている】
【レイドボスの【真名開放】】
【レイドボスのステータスが割合に応じて伸長した】
【レイドボスは自らの名称を公開した】
【レイドボスは自らの真名を開放した】
【我が名は【寄聖獣 ジェーライト=ミューン】】
なん……だと……!?
俺がやろうとしていた【名称公開】をレイドボス自らがやってきたことにまず驚いたが、それ以上に今まで見たことのないスキル【真名開放】を使用してきたことに驚いた。
謎スキル発動前に意味深に流れた【異次元の風が吹き荒れている】というアナウンスがどう考えても怪しいが。
「【包丁戦士】さん、念のため聞いておきますがこの2段階目のことはご存じでしたか?
そのリアクションや表情を見るとなんとなく予想はつきますけど」
俺の驚きがめっちゃ顔に出ていたらしい。
ポーカーフェイスできるやつは凄いと思った。
ちなみに、今声をかけてきているのは白衣メガネの痩せ男【検証班長】である。
「ご明察だ、全く知らん!
だからここから先は全くの未知だな……」
今まで俺が培ってきたジェー(なんか正式名称がわかったが、今さら呼び方を変えるとみんなが混乱するためこのままいく)との戦闘経験を活かすことができるのかすら未知数である。
「ミチっ!?
今ミチって言いましたね!?」
なんか唐突に食いついてきたのはリアルチートスキルをこの底辺ゲームに持ち込んでいる青色の服を着た大学生くらいの少女、【釣竿剣士】である。
「そ、そうだが……?
唐突にどうしたんだ?」
いや、今まで話に絡んでくる前振りとか無かったじゃん。
たしかに、今までの登場シーンのほとんどが前振りとかなく出てきてるけど今回はやけに食い付きがいい。
……肉付きもいい(小並感)。
「別のゲームでの私の通り名で【ミチに煌めく1輪の花】というものがあってつい懐かしくて」
「なんだかその通り名長くないですか?」
「いえ私のあだ名と言うよりは、私に粘着してきているプレイヤーがイベントの度に広めていたキャッチフレーズみたいでして……」
「なるほどです。
それで、このタイミングでその話をするということはそれに関して何かしらの相談があるということですね?」
「流石【検証班長】さん、話が早くてなによりです」
えっ、まじで。
普通に雑談しにきたのかと思ってたわ……
「私の釣竿一刀流はability【現界超技術】というものの効果でそのままこのゲームでも使えるようになっています。
そしてこの釣竿一刀流、あらゆる状況や環境でも戦えるように考案された護身術なので今回ような新要素、いわゆる【ミチ】の状況で他の人よりも有利に立ち向かえます。
ただ、積極的にリアルスキルを使ってほしくないのか制限がかかっていまして、どうやらプレイヤーやモンスターに対しての威力がかなり抑えられてしまうみたいです。
オブジェクト破壊とかならリアル同様できるんですけど」
いや、リアルで釣竿を使ってものを壊している美少女なんて想像したくもないんだが……
というか釣竿一刀流は称号の効果で使える……そしてこいつは初期からその釣竿一刀流を使っていた……つまり……
「「色々と秘匿していた!?」」
「……と、当然ですよ、生産プレイヤーなら」
目をそらしながら言うな、目をそらしながら。
いや、俺たちも公開してないから人のこと全く言えないがそれでも言いたくなった。
というか俺も先日獲得したability【会者定離】については【検証班長】に話してない、というより昨日の今日なので話すタイミングが無かった。
そしてこいつの言い分だが、たしかに生産プレイヤーにとってレシピだったり企業秘密を秘匿するという風潮はあるが、今回のはあんまり生産プレイに関係ない……だろ……う?
いや、そんなことないかもしれない!?
このレイドバトルが終わったら早速試してみなければ!?
今まで試す機会が無かったからできなかったが、いけそうな気がする!
「まあ、今はそれはいいでしょう……
とりあえず第2段階ジェー……カッコ悪いので白虎ジェーとでも呼びますか。
この戦闘パターンを見るために言い方はあれですけど捨て駒になってくれるということですかね?
ダメージソースにはなりにくいみたいですし」
「おおよそのニュアンスはそうですね、ただそのまま捨て駒になるつもりはありませんよ?
様子見のまま別に私が倒してしまっても問題ないですよね?」
強がりなのか、本当に自信があるのか分からないが花飾りの少女なら下手するとやりかねないとすら思える。
とんでもトッププレイヤーなだけあるな。
一応俺に気を使って聞いてくれているだけ良識というかマナーみたいなものが分かっていることが、理性的な面では常識的なのが救いだ。
なお、物理面での常識は異次元にでも置いてきてると思うぞ。
「本音を言えば俺が倒したい……が、機会を独占するつもりはない。
倒せるなら倒してしまえ!」
「了解です、よ!」
不自然な間があり、急にジェーへの戦闘最前線に向かった【釣竿剣士】がどうしたのかと思い、さっきまで【釣竿剣士】がいた方を見ると黒色の猫耳がピョコピョコしているのが目に入った……
まさか……
「はあはあはあはあはあっっっ!!!!
【釣竿剣士】ちゃんなのら~~~!!!!
クンカクンカクンカっっっ!!!!
ペロペロペロペロっっぅ!!!!
さっきまで【釣竿剣士】ちゃんが立っていた地面の温もりだけでイケそうなきがするのら~~~!!!!」
やべー、変態がいる……
というかお前は生きていたのか、【槌鍛治士】【モブ包丁】たちは極太レーザーで灰に化したのに【槌鍛治士】と一緒にいたはずのこいつだけ生き残ったようだ。
あの変態ムーヴが可能ならあり得る話だが……
俺の隣で【検証班長】が額に手をついて悩ましそうにしているのが目に入り、こいつが秘密兵器とされている理由がよーくわかった。
淫乱ピンク髪猫耳頭巾ペド忍者はさっきまで釣竿剣士がいた場所に這いつくばり、地面を舐めていた。
変態……?妖怪……?
とりあえずこいつとは深く関わらないようにしよう、そう心に決めた瞬間だった。
それと、これ、ハラスメント行為になってないの?
大丈夫なのか!?
うーん、ギリ……ギリ……セーフです……かね?
実害はないですし……
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