2253話 どっちがリソースを注ぎ込まれたのか分からなくなる
「御託はそろそろよかろう。
真の戦士ならば言葉ではなく、その心に秘めた刃でこそ真に分かり合えよう。
儂の【憂鬱】もそれでなければ晴れぬ!
……釣竿一刀流【二本晴】!」
釣竿のじいさんは元々持っていたチュートリアル武器の釣竿とは別に、炎を生み出して釣竿の形に変化させたやつを手に握りしめたみてぇだ。
あの技を見ていつも思うんだが自分で火傷はしねぇのかァ?
まさか敵だけを焼く炎とかいうわけの分からねぇ代物だとか言わねぇよなァ!?
そんなもん自力で生み出せんならそれこそ『奇跡』を体現してんのと同じだっての。
そんな【師匠】は対になった両手の釣竿を引っ提げて【包丁戦士】へ向かっていく。
アタイでもビビるような速攻だが……
『おいおい、問答無用かよ!
随分と物騒だな!?
【釣竿剣士】といい、【師匠】といいもうちょっと遠慮してくれてもいいだろうに……
師弟揃ってその辺共通なのはどうかと思うぞ!』
【包丁戦士】のやつは釣竿のじいさんに文句を言いながらも、二本の釣竿の攻撃を包丁で受け止めやがった!
……!?
受け流しじゃなくて受け止めたってどうなってんだ、ゴラァ!
力が拮抗してる自信が無かったらそんな無謀なことしねぇよなァ!?
【師匠】以上の力を持っているなんて驕れるってことはよォ……
「……【包丁戦士】はMVPプレイヤー三人を相手にするという代償で一時的に大幅な強化を受けているようです。
少なくとも【師匠】以上の出力だと思います。
流石に【ランゼルート】ほどではないでしょうが、いつもの【包丁戦士】と一緒だと考えると神罰が下りますよ!」
「ウゲゲッ、そういうことか!
通りで真っ正面から現れてきたわけなんだぞ!
普段の【包丁戦士】なら闇討ちしてきそうなんだぞ……」
「身体から溢れ出る力の奔流を抑えきれておらぬな。
故に気配を消すのを諦めて正面から現れたのであろう。
過ぎたる力を身を滅ぼすと言うが、扱いきれぬ力など使うものではないぞ?」
……はん、そういうことか。
【包丁戦士】のやつは自分の強みの一つの気配を消す技術を今は十全に使えねぇってことか。
道理で素直で大人しいと思ったぞ、ゴラァ!
「ウゲゲッ、それなら【師匠】の援護した方がいいんだぞ!
スキル発動!【開明氷眼】なんだぞ!」
釣竿のじいさんに余裕がないと見た【牛乳パフェ】の野郎はすかさず援護として魔眼スキルの【開明氷眼】を使っていった。
魔眼が【包丁戦士】に炸裂すると、右腕部分が氷に覆われていった。
……こういうさりげないサポートが出来んのは【牛乳パフェ】の野郎の優れたところだ、ここまでの言動からして認めんのは癪だが。
「聖女である私も続きます。
スキル発動!【サザンクロス】!」
釣竿のじいさんには当てないようにきっちりと軌道を計算して十字架を投げていく。
普通のやつなら気づかないだろうが……
「ふむ、【綺羅星天奈】嬢の意図はこれか。
では、文字通りその策の乗らせてもらうとしようかのぅ……」
釣竿のじいさんはアタイが投げた十字架に飛び乗って【包丁戦士】のやつへ連撃を仕掛けていった。
やっぱり気づいたようだなァ!
……いや、気づいてもあんな真似できるやつなんざ片手で数えられるくらいしかいねぇだろうがよ。
『十字架に飛び乗って連撃!?
そんなハチャメチャな連携ありかよ!?
その技、【師匠】がいないと成立しないだろうによくもまぁ、ぶっつけ本番で合わせてきたな……
流石にこの推進力は今の俺でも真っ正面から受け止めるのは少し怖い……か?
それなら……
スキル発動!【塞百足壁】!』
流石にこの合体攻撃を【包丁戦士】のやつは甘く見なかったみてぇだな。
そのまま油断してろよ、ゴラァ!
【包丁戦士】を囲むように現れた黒い壁がアタイの十字架を弾き飛ばしていく。
それに乗っていた釣竿のじいさんはというと……
「ふむ、僅かであるが亀裂が入ったか。
十字架に先行させた価値はそれだけでもあったと言えるであろうな。
この機を活かせぬのは釣竿一刀流の名折れ。
攻め込ませてもらうとしよう!
……釣竿一刀流【怪力】!」
釣竿のじいさんはアタイの十字架で壁に与えた亀裂へ一度弾かれた十字架をさらに杭のようにして釣竿で打ちつけていった。
ワンチャンしてくれんじゃねぇか夜露死苦!
……と思って託したんだが、マジで出来んのかよ、オイ!
『おいおいおいおい!?
流石にそれは無法すぎるだろ!?
【釣竿剣士】ですらそんなことやってなかったのに、超人技が過ぎるぞ!?
なんでさっきまで乗ってた十字架を叩き込めるんだよ……』
敵味方に驚かれる【師匠】は誰が見ても壊れユニットで間違いねぇよ。
「うむ、驚くのは良いが……
壁は打ち破らせてもらった、このまま討ち取らせてもらおうかのぅ」
天奈、これで勝ちですね!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




