2249話 黒蛇とお灸
少し歩いてみると……釣竿のじいさんがアタイたちを手で制止して前に躍り出て来た。
あん?
急にどうしたってんだ?
「皆、下がられよ。
さっそく敵襲のようだ」
そうして釣竿のじいさんが前に出てから数秒後に黒い霧が形を成していき、蛇みてぇモンスターが5体ほどアタイらの前に立ち塞がってきた。
これは……【包丁戦士】のやつがたまにケツから生やしてる尻尾と同じ見た目か。
サイズはそれよりはデケェが……
「ウゲゲッ、エネミーが出てくるタイプの次元戦争なんだぞ!
数が多いと魔眼が追いつかなくなって大変なんだぞ……」
「ふむ、それは精進が足りぬな。
戦場にいれば皆対処できるようにせねばならぬ。
常在戦場の心得をゆめゆめ忘れることなかれ。
……釣竿一刀流【霧祓】!」
釣竿のじいさんは真っ先に踏み出していって、抜刀術で5体の蛇のうち三匹を真横に切り裂いて上下分断していった。
一瞬かよ……
「若い衆にはまだ負けぬわ。
だが、先ほど【牛乳パフェ】が言っておったように儂ばかり働くのも癪だのぅ……?
どれ、残り二体はそれぞれで対処してみるといい」
「ウゲゲッ、おれの言葉がおれに返ってきたんだぞ……
こんなに早く戻ってくるなんて思わなかったんだぞ……」
「全く、身から出た錆ですよ。
普段から録な言動をしていないからこうなるのです。
清廉潔白な、神に見てもらえるような恥ずかしくない状態を維持しなさい」
ちっ、【牛乳パフェ】の野郎のせいで無駄な手間が増えたな……
釣竿のじいさんなら三体と言わず、五体全てを一気に倒せただろうに手を抜きやがった!
おおかた、【牛乳パフェ】の野郎にお灸を据えるつもりでやったんだろうが、アタイにも飛び火してんぞゴラァ!
「ケケッ、こうなったらおれも一体は倒すんだぞ!
残りの一体は【綺羅星天奈】に任せるぞ!
スキル発動!【阻鴉邪眼】!
スキル発動!【ピアシング】!」
「聖女である私ももうひと働きしましょうか。
スキル発動!【サザンクロス】!」
【牛乳パフェ】の野郎は魔眼のデバフで弱らせた相手に望遠鏡を槍みたいに突き出していった。
【牛乳パフェ】の野郎はデバッファーとして優秀だが、近接戦闘だけで他のMVPプレイヤーと比べるとビミョーだから渋ってたんだろうけどよォ……
だからこそ、魔眼によるデバフを挟まねぇとダメだって判断したってことなのは理解できる。
アタイは十字架の投擲だ。
巨大十字架の投擲は痛てぇはずだ!
この一撃で【牛乳パフェ】の使ったスキル2つと同等の威力くれぇにはなるだろ。
だが、中々上手くいかないのはリアルでもゲームでも変わらねぇみたいだ。
「ウゲゲッ、レーザーで反撃してきたんだぞ!
【包丁戦士】も使ってきてたスキル【魚尾砲撃】……の小型版なんだぞ!」
「ふむ、ここで攻撃方法が見れたのは僥倖!
一進一退の攻防の最中での初見であれば致命傷となり得るが、余力がある中であれば問題あるまい。
どれ、討ち漏らしたものは儂が処理しておこう。
……釣竿一刀流【雨乞】」
アタイらが倒し損ねた黒い蛇たちを釣竿のじいさんが水魚の矢でこっちに向かってきているビームごと撃ち抜いてくれたみてぇだ。
あのタイミングで防御と攻撃を兼ねた一撃を挟み込むのは常人じゃ無理だっての。
相変わらずイカれた戦闘技術してんなァ……
「ケケッ、助かったんだぞ……
おれと【綺羅星天奈】が想定していたよりもあの黒い蛇の防御力が高くて驚いたんだぞ!」
「通常のモンスターであれば聖女である私のスキル【サザンクロス】だけで倒せています。
やはり何かしらの加護を受けていると見て良さそうですね」
「ケケッ、どうせ【包丁戦士】のろくでもない加護なんだぞ!」
「おそらくそうでしょう。
【包丁戦士】は一人で戦うことを選ぶ代わりにモンスターを使役して戦う権利を得た……そういうことでしょう。
でなければ、こちらにいる誰かが【包丁戦士】の味方として選ばれていたでしょう」
次元戦争でそんな選択が出来るのは経験したことはねぇが、【包丁戦士】は一位の立場にいやがるからな……
アタイらは一位を経験したことがねぇから、その特典として今回みたいな形式も選べんならあり得るだろ。
「ふむ、やはり【綺羅星天奈】嬢は随分と頭の切れが良いな。
その発想力は儂の弟子たちにも見習わせたいところではある……か」
あん?
んな面倒クセェことは勘弁してくれぇ、ゴラァ!
これ以上余計なことを持ち込まれても手に負えねぇっての。
天奈はプレイヤーの中でも最も完成された存在です。
見習わせたくなるのも納得ですよ。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】




